デザインで差をつけろ! いま注目すべきスタートアップ企業の電気自動車(EV)たち
電動化がクルマのデザインに新たな革命をもたらす! スタートアップ企業が発表するクールでキュートな電気自動車(EV)を、自動車ジャーナリストの小川フミオが解説する。
そんなに速くてどうすんの?
ピュア電気自動車(EV)のトレンドが、クルマを楽しくしてくれる? いまスタートアップ企業が、続々とEVを発表している。想像力が豊かで、ユニークなデザインコンセプトのクルマに注目だ。
もっとも有名なのは、北米の「リビアン(Rivian)」だろう。歴史も(スタートアップとしては)けっこう古く、設立は2009年。電気で走るSUVとピックアップトラックを発表していて、「R1T」と名づけられた後者は21年からデリバリーが始まったようだ。
私が最初にリビアンの車両を見たのは、2019年のニューヨーク・オートショーだった。大ぶりなサイズの車体に、縦長楕円形のユーモラスな形状のヘッドランプが印象的で、一目で引き寄せられた。
バッテリーの容量は最大で180kWhとかなりなもの(たとえば日産アリアB6だと66kWh時)。静止から時速60マイル(約96km)まで加速するのに、わずか3秒だという。ピックアップのボディで、そんなに速くてどうすんの?と訊きたいぐらい速い。
もうひとつの驚きは、アマゾンとの契約をとりつけたこと。アマゾンの配達のために、リビアンでは電気で走るデリバリーバンを開発し、現在テスト中のようだ。
SFっぽさ満点!
北米の「カヌー(Canoo)」は、昔のハリウッド製SF映画に出てきそうなスタイリングをもつ電気自動車だ。ところが”昔”どころか、いまNASAが計画している「アルテミス」月面着陸計画の乗組員輸送車両(CTV)に選定されたという。まあ、宇宙と関係するイメージを持った私は、あながち間違っていなかったということかも。
CTVとはクルートランポートビークルの頭文字で、発射場までフル装備の宇宙飛行士やサポートクルーを運搬するクルマ。それに、カヌーが選ばれたそうだ。
現在、アーカンソー州ベントンビルの工場で、一般向け量販車の生産計画が進められているカヌー。いわゆるレトロフューチャー感満載のカプセルのようなモノフォルムと、ラウンジのようなコンセプトのインテリアの組合せだ。
カヌーの車両は、ボディとシャシーを切り離したセパレート構造を採用する。「スケートボードアーキテクチャー」と呼ばれるこのシャシーには、多様なボディを載せることができるそうだ。駆動用バッテリーは1層で、シャシーに敷き詰められる。
サスペンションは、本格的クロスカントリー型4WD車と同様のリーフスプリングを採用。前後ともにダブルウィッシュボーン式のサスペンションシステムとの組み合わせだ。ステアリングシステムは、電気信号によるモーター式の操舵システムである。
カヌーの車両は、「ライフスタイルビークル」「MPDV(マルチパーパスデリバリービークル)」「ピックアップトラック」の3モデルが現在、量産に向けて準備中という。「ライフスタイルビークル」のスターティングプライスは3万4750ドル(約410万円)と発表されている。
走るマウス
Macのマジックマウスのようなスタイリングをしつつ、最大8人乗りというエクストララージサイズの電動SUVが、ノルウェイのスタートアップ企業による「フレスコ XL (Fresco XL)」だ。
手がけているのは、オスロのフレスコ・モーターズ(Fresco Motors)。社名になっているフレスコとは、持続可能な都市、エネルギー効率、天然資源管理などを研究していた米国の科学者ジャック・フレスコ(Jacque Fresco 1916〜2017年)からの命名だそう。テスラにとってのニコラ・テスラと似ている。
ここで紹介している他のEVの計画が現実味を帯びてきているのに対して、フレスコはまだ開発の初期段階なのだろうか。バッテリーをシャシーの一部として使うボディ構造、4輪を独立したモーターで駆動、そして、満充電で1000kmに達する航続距離……これが”目標”として明らかになっている。
「モーターで4輪を駆動する方式にしたのは、(ノルウェイという)厳しい気候条件下でも満足ゆく走りを実現するためです。同時にオフロード性能にも寄与しています」。フレスコ・モーターズのCEOであり取締役会会長を務めるエスペン・クバルビク(Espen Kvalvik)氏は、そう述べている。
すでに同社のホームページでは予約募集中だ。価格も未定のようだが、予約フォームでは台数まで選べるようになっている(たくさん購入するケースも想定?)。このプロダクトに相当自信がありそうだ。
組み合わせは自由自在
スタイリングでインパクトが強いのが、「XBUS(エックスバス)」だ。独エレクトリックブランズ(Electric Brands)社が2021年に発表したモデルで、公道でも走行実験を繰り返している。
カメラや家電やインテリアなどに関心を持つひとの興味も惹きそうな、個性的なスタイリングだ。丸目2灯式のヘッドランプとともに、定規を使って精緻に仕上げたようなボディスタイリングが魅力的だ。
シャシーは、一般市街地用と、オフロードの2種類で、ボディタイプはなんと8種類もある。「バス」「ティッパー(小さな運搬車)」「カーゴボックス」「ユニバーサル(バスをベースに商業に使える仕様)」「ピックアップ!(ビックリマーク付きは2列シートのいわゆるダブルキャブ仕様)」「ピックアップ(シングルキャブ仕様)」「オープン!(ルーフの大部分が開く仕様)」「キャンパー(ポップアップルーフや流し台まで備えた2人キャンプ仕様)」となっている。
モーターは4つで、各車輪に取り付けられている。出力は合計で15kW(ピークパワーは56kW)。搭載バッテリーの出力は10kWh。コンパクトなタイプで、航続距離は100〜200kmだそう。たいていの用途にはこれで充分、とエレクトリックブランズ社は説明する。
ルーフトップにソラーパネルを装着すると、航続距離をさらに200km稼げるという。オプションで大容量バッテリーの搭載も可能になり、これに上記ソラーパネルによる発電を加えると、航続距離はいっきに600kmにまで延びる。
XBUSの生産開始はドイツで2022年半ばが予定されている。価格はドイツの付加価値税込みで2万ユーロ(約270万円)程度。ただし、同社から最近届いたメールによると、半導体をはじめ、いくつもの部品の供給が不足している昨今、同社も同じ問題を抱えていて、発売時期は少し延期されるかもしれない。
期待高まるEV版ワーゲンバス
こんなおもしろい流れを、既存の自動車メーカーが傍観しているわけはない。例えばフォルクスワーゲン。2022年3月9日に発表したミニバン「ID.BUZZ(アイディーバズ)」がおもしろい。欲しいなあと思わせられるコンセプトだ。
ID.BUZZのデザインのオリジンは、フォルクスワーゲンが1951年に送り出した「タイプ2」。タイプ1とも呼ばれたオリジナル・ビートルをベースに開発された多目的商用車で、トラックからマイクロバスまで、多くのバリエーションが作られた。
ID.とはフォルクスワーゲンによるピュアEVのシリーズ。これまで、ID.3(ハッチバック)、ID.4(クロスオーバー)、ID.5(クロスオーバークーペ)と発表してきた延長線上にある。バズとは「話題」などポジティブな意味をもつ英単語と、バスをひっかけた合成語だろう。
全長は4.7m、全高は1.9m、全幅は1.9m(前から見るとほぼ正方形)。ホイールベースは2988mmもある。150kWの出力を持つモーターと、77kWhの比較的大きなバッテリーを搭載。リアモーターで後輪駆動だ。
電動化の先にあるもの
BMWも、21年9月に「BMWi ビジョン・サーキュラー(Vision Circular)」なるEVのコンセプトモデルを発表。2040年におけるEVのありかたを探ったモデルという。
例えば、廃棄問題を抱える駆動用バッテリーは、100%リサイクル可能なソリッドステート(全固体)タイプ。車体はリサイクルする際に分解しやすい設計なんだそう。
「BMWグループの目標は、クルマが製造され、使われ、解体されるまで、すべての行程で、CO2排出量の引き下げをはかるとともに、生産工場では再生可能な電気を使い、出来るだけリサイクルされた素材でパーツを作るという、循環型(サーキュラー)のプロダクトにあります」と同社は説明する。
BMWi ビジョン・サーキュラーは、電気で走るのが当たり前になった時代に、さらにその先に待っている(リサイクルという)課題への取り組みを説くモデルだ。そこが興味深い。