「カバ」|第25回アニマル”しっかり”みるみる
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物ふれあい課 飼育担当堤さんに、「カバ」を解説してもらいました。
「赤い汗」の理由とは?
カバは、サハラ砂漠以南のアフリカに広く分布する偶蹄目カバ科の動物です。体長は3.5~4.0m、体重は1,200~3,500㎏ほどと巨大です。同じカバ科の動物には、他に西アフリカの熱帯雨林の中の湿原や沼などで暮らす小型のコビトカバ(体長は1.5~1.8m、体重は250~275㎏)がいます。
カバは、リーダーのオスと10~20頭のメスと子どもからなる群れをつくって暮らします。昼間は水中で過ごすか水辺で生活していることが多く、夜になると陸地に上がって草などを食べます。カバは大半を水の中で暮らすことで、天敵であるライオンなどの肉食獣からの攻撃を防いでいるのです。交尾や子育ても水中で行います。
カバの特徴は、そんな水の中での暮らしに適応した体のつくりになっていることです。 鼻、目、耳が顔の上半分に位置しているので、体のほとんどを水面に沈めたまま呼吸ができ、目と耳を水面から出すことで周りの様子をより早く正確に掴めます。
鼻も耳も、穴の内側の筋肉が発達していて自由に開閉ができ、鼻の穴は半月状で中に蓋があり、水の中では閉じています。「カバは水の中に5~6分は潜っていられます。地上にいるときには鼻の蓋は空いたまま」(※堤さん以下同)だそうです。
カバの鼻の下や口の周りにはひげが生えていて、水中などでは目の代わり(視力があまりよくない)になるレーダーのような役割があると言われています。
カバのもう一つの大きな特徴が、「赤い汗」をかくことです。正確なところカバには汗腺がないので汗ではありませんが、血液のように赤く、無臭のぬるぬるとした粘着性がある液体が、皮膚の粘膜腺から分泌されます。この分泌液は「体の表面から分泌された直後は無色で、約1~2分で血のような赤色になり、1時間後くらいには茶色に変色する」そうです。茶色からは変色しません。
分泌液の役割は、水中で暮らすカバの皮膚は乾燥に弱いため水分や油分を補給すること、 赤い色素が紫外線を遮断する効果がありアフリカの強い日差しから皮膚を守ることです。また最近の研究では、分泌液には抗菌・防虫効果があることも分かっています。
「撒き糞」で相手を威嚇⁉
カバは、なわばり意識の強い動物(特にオスの場合)で、いくつかのユニークな威嚇行動をとることが知られています。
その一つが、「撒き糞」と呼ばれる行動です。水中で短く平たい尻尾を左右に激しく振って、肛門から出てくる糞を辺りに撒き散らします。この行動の理由は、自分のテリトリーを主張するための糞による臭いづけだと考えられています。
「口を大きく開けること」も代表的な威嚇行動で、より大きく口を開くことで自分の存在を誇示します。ちなみにカバは口の開度が150度もあり、大玉のスイカでも丸のまま一口で食べてしまいます。その他には、「口いっぱいに貯めた水を勢いよく吐き出したり、鼻から水を吹き出すこと」や「大きな鳴き声をあげること」などの威嚇行動もあります。
気性が荒い野生のカバ
そんなカバは、どんな性質の動物なのでしょうか?
見た目がどこかユーモラスで水の中でのんびり暮らすイメージがあるカバですが、野生下のカバはなわばり意識が強く、気性の荒い動物で、自分のテリトリーに入ってきた動物には巨大な牙(犬歯)を使って噛みついたり、体当たりするなど攻撃的になります(特にオス)。 「園内にいる2頭のカバはいずれもメスです。カバのメスはオスよりおとなしく、しかも2頭とも怖がりで慎重な性格です」。普段見かけない人が近づいたときなどは、じっと観察していてプールに隠れたりすることもあるそうです。
最後に「カバあるある」についても伺いました。
その1は、「見慣れた飼育員がデッキブラシやホースを手に持っていると近づいてくること」です。デッキブラシを持っている場合は体を擦ってもらうことが目的で、またホースを持っている場合は口の中を洗ってもらいたくて近寄ってきます。
その2は、「待遇に差があると明らかに表情が変わること」です。例えば作業の順番で2頭のうちの片方のカバだけに先にキャベツを与えたりすると、もう1頭がじーっとその様子を見つめていて、明らかに怒りの目になるのだとか。食べ物の恨みが怖いのは、人間もカバも同じなんですね。