『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第17回 ユーロ統一は遠い!? 羨望のナンバープレート
イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る人気連載コラム。所変われば品変わる? 第17回は、ヨーロッパのナンバープレート事情について。
よく見るとバラバラ
今回は欧州におけるナンバープレートのお話を少々。
夏、筆者が住むイタリア中部トスカーナ地方は、欧州各国からやってきた観光客のクルマを頻繁に見かける。新型コロナウイルスで落ち込んだこの国の観光産業を、彼らがどこまで回復させてくれるかが鍵となる。
だが、昨2020年夏よりも回復傾向にあるのはたしかだ。街を歩いたり運転しているとき、彼らのクルマを見つけると、「いよいよ観光シーズンだな」と毎年思う。
近年はロシアからのドライブ客もたびたび目撃するようになった。比較的西側であるモスクワから計算しても片道3,000キロメートル、ぶっ続けで走り続けても30時間はかかる。思わず「よく来たねえ」と声を上げてしまう。
外国人客のクルマを見分ける手段は、イタリアであまり人気のないモデルや車体色だったりするが、やはりもっとも簡単なのは自動車登録番号標、つまりナンバープレート(以下ナンバー)である。
欧州連合(EU)加盟27カ国では、1998年に導入された統一様式のナンバーが用いられている。前後とも横長のプレートである。左側の青いストライプには、EUの丸い星マークと、登録国を示すイニシャルが記されている。イタリアなら「I」、ドイツなら「D」である。
以前は国境を越えるとき、同様に国別イニシャルを記した楕円ステッカーを貼る必要があった。筆者も得意になってIマークのステッカーを貼っていたものである。だが、統一ナンバープレート導入によって、それは不要になった。
「統一様式」と記したが、実は厳密には統一されていない。その最たるものは書体である。これは各国ごとに独自のものが用いられている。クロアチアのように国章や、ドイツやオーストリアのように州の紋章が字間に入っている国もある。ベルギーは赤文字である。
また、オランダやルクセンブルクは黄色地が採用されている(オランダの前部用は白)。いずれも統一書式が導入される前のデザインをベースとしているのである。そもそも、前部ナンバープレートの左右長は国によって違う。また、一部米国車のように、横長ナンバーが収まらないクルマのためには、より横寸法が短く、縦寸法が長いサイズが用意されている。
小顔に萌え
実はさらなる違いがある。それはナンバーの材質である。フランス、そして2020年に欧州連合を離脱したイギリスなどは、プラスチック製が導入されている。これが羨ましい。なぜなら、イタリアの鉄製ナンバープレートの品質が良くないからだ。経年変化が激しく、とくに黒い文字の部分がたちまち薄くなってゆく。
筆者のクルマもしかりだ。屋根付き駐車場を使っているにもかかわらず、新車から僅か数年で文字の一部が薄くなり始めた。最初のうちは格好悪いので油性ペンで補修していたが、登録後13年を迎えた今は手を施す気力も失せて放置している。
プラスチック製ナンバーは、そうした劣化がほとんどなく、いつになっても新車時とほぼ同じなのである。イギリスのプラスチック製紙幣と同じくらい、EU各国で導入してほしいと思っている。
ナンバーで羨ましいといえば、ヨーロッパではないがアメリカの一部州だ。前部のナンバーが要らないのである。ひき逃げ・当て逃げの状況を想像すればわかるが、事故や犯罪などで目撃者が頼りにする確率が極めて高いのは、前部よりも後部のナンバーである。フロントのナンバーは、材質や取り付け方によっては歩行者を傷つけることも否定できない。そもそも、スタイリッシュなフロントデザインをぶち壊しにする。よって、前部のナンバーの必要性は低いと考える地域があって当然、と筆者は思う。
欧州各国に前部ナンバーを省略している国はない。しかしEU非加盟国であるスイスのそれは、加盟各国のものよりひとまわり小さい。したがって、クルマのデザインを壊さない。小顔萌えである。
それ以上にヨーロッパの路上で筆者自身がカッコいいと思うのは、モナコ公国、サンマリノ共和国、そしてリヒテンシュタイン公国といった小国のナンバーである。いずれもEU加盟国ではないので、今も独自のナンバープレートを採用している。当然、ヨーロッパ各地の路上で見かける機会は少ない。
そのうえ、そうした国のナンバーが付いたクルマは、国民所得の高さや低い税率を反映して、高級車であることが多い。ゆえに、イタリアの路上では、それなりに目立つのである。
もちろんイタリアナンバーに乗っていても、ワクワクすることがある。それは夏のヴァカンス時期にドイツを走っているときだ。イタリアのナンバープレートのクルマに出会うことは奇跡に近い。ドイツ観光をするイタリア人は、イタリアを訪れるドイツ人の数と比べて極めて少ないのである。
だからドイツ、それも地方部でイタリアナンバーの家族連れ車に遭遇すると、つい手を振って挨拶してしまいたくなる衝動に駆られるのだ。