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最終更新日:2023.06.14 公開日:2021.03.11

『イタリア発 大矢アキオの 今日もクルマでアンディアーモ!』第13回 今、時代は天然ツートーン・カラー?

イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情についてアレコレ語る人気連載コラム。第13回は、イタリアの街中を走るカラフルなボディカラーをまとった車について。

文と写真・大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)

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フォルクスワーゲンのオランダ法人が2021年1月に公開した「ポロ・ハレキン」の画像(左)。右後方にあるのは、そのインスピレーション源となった1995年の限定生産車。

「ハレキン」とは

今回は、イタリアでよく見られる中古車のボディ修復法が、実は時流に合っているのではないか? というお話をしよう。まずは新しいクルマのニュースと車名の起源、そして、イタリアでその”天然版”があることを紹介したい。

フォルクスワーゲン(VW)のオランダ法人は2021年1月18日、「ポロ・ハレキン」の画像を公開した。コンパクトカー「ポロ」をベースに、1台に複数色のボディパネルを張り合わせたものである。

この車両は残念ながらワンオフ、つまり1台しかない。だが、アイディアの元となった約四半世紀前のモデルはリミテッド・エディションとして3,100台が市販されている。1995年にVW本社が3代目ポロをベースに企画した「ハレキン」だ。インパクトあるアイキャッチであったと同時に、一説によると、工場における生産体制のフレキシビリティをアピールするものであったとされる。

1995年VWポロ・ハレキン。欧州の一部国ではファストフード・チェーンのキャンペーンで景品にもなったという。

 ハレキン(Harlekin)は英語ではハーレクイン(Harlequin)、イタリア語ではアルレッキーノ(Arlecchino)という。もともとは16世紀に始まったイタリア即興喜劇の道化師である。伝統的にカラフルな衣装を身に着けていることから、転じてカーニバル(謝肉祭)のシンボル的存在となった。

アルレッキーノを描いた例。フィレンツェ郊外モンテルーポ・フィオレンティーノの絵付け陶器タイルから。

 本稿を執筆している2月下旬、筆者が住むイタリアでカーニバル時期は終盤を迎えつつあるが、3月19日の聖ヨセフの日(父の日)まで、あと少しそのムードは続く。2021年のカーニバルは昨年に続き、新型コロナ感染症予防の観点から、各地で山車などは中止された。それでも一部の屋台は立ち、週末になると仮装をした子供たちが広場に繰り出して紙吹雪を撒いては楽しんでいる。

スーパーや菓子店に行けば、この季節限定のドルチェ(菓子)が並んでいる。それらには必ずといっていいほどアルレッキーノが印刷されている。日本ではあまり知られないアルレッキーノ=ハレキンというキャラクターが、いかに根づいているかがわかる。

イタリアのカーニバル菓子には、ことごとくアルレッキーノの姿がプリントされている。2021年2月シエナにて撮影。

妙な2色のクルマが増える理由

クルマに話を戻せば、筆者が住むイタリアでは、”天然ハレキン”とでもいうべき、ツートーン・カラーのクルマをたびたび目撃する。交換したボディパネルの一部が、オリジナルの車体色と異なる車両である。

特に多いのは、「ハッチバック車のテールゲートだけが、まったく違う色」という例だ。同じ衝突事故でも、追突されてテールゲートやリアバンパーを直すほうが、前面衝突でエンジンや車体前部が損傷した場合より修理費用は安い。すなわち廃車にする確率は、より低い。

そうした場合、解体工場で同型車のテールゲートやリアバンパーを、たとえ色が異なっても手に入れるユーザーが少なくないのだ。ただし、本来のボディ色に塗装すると費用がかさむ。そこで、交換・取り付けをした段階で「もういいや」と完了してしまう。かくして”天然ハレキン”が誕生するのである。

本稿執筆を機会に、市内のカロッツェリア、つまり板金工場に赴いて、どれだけ費用がかかるのかを聞いてみた。

先方は「車種によってかなり異なるうえ、現状つまり損傷状態によってもまちまちなので、あくまでも見積もりが前提」と繰り返す。それでも、たとえば今日イタリアの路上でよく見かけるクルマの1台、2代目フィアット・プントのテールゲートを例に、目安を教えてもらった。

まず交換用の中古テールゲートの本体+入手諸費用が必要だ。こちらは約400ユーロ+付加価値税22%=488ユーロ(約6万3,000円)という。前述の解体工場以外にも、近年はインターネットで中古パーツを販売している業者が多数あって、テールゲートは車種や状態によって100ユーロ(約1万2,000円)程度で入手できる。さらに指定のカロッツェリアに配送してくれるサイトもある。だが、自分で買えば、それなりにデカいテールゲートやバンパーを運ぶ手間を要するし、ネットショップは当然のことながら配送料金がかかる。したがってカロッツェリアに任せるのが、やはり手っとり早い。

いっぽう取り付け費用は約1,000ユーロ+付加価値税=1,220ユーロ(16万円)程度という。ここまでで円換算にして22万3,000円である。塗装を諦めるユーザーが現れるのは、容易に想像できる。

参考までにフロントフェンダーなどの場合、中古品でなく互換品の新品を取り付けてもらったユーザーもいる。ただし、その場合でも最低2〜3層のペイントが必要なので、節約すべく未塗装で乗り続けているユーザーを散見する。加えて、低年式つまり古いクルマだと、いくらメーカー指定のカラーコードで塗装しても、劣化した他のパネルと色のバランスが悪くなる確率が高い。

天然ハレキンがなぜ多いのかは数字からも察することができる。イタリアを走るクルマの、実に56.4%、実に半分以上が車齢20年を超えているからだ(出典:イタリア自動車クラブ2019年データ)。残存価格が安いクルマに、大きな金額をかけて修理するユーザーは少ない。

マインド的観点でも考察できる。第1は、そうした、ちぐはぐカラーになってしまったクルマがさほど珍しくないため、たいして恥ずかしくないことがある。第2は自動車の普及率だ。イタリアの人口1,000人あたり保有率は646台で、欧州では小国ルクセンブルクに次いで高い(出典:欧州中央統計局2020年データ)。複数保有の世帯が少なくないから、実際は家族に唯一のマイカーでも、たとえ格好悪くても他人の目には「足代わりのセカンドカーだろう」程度にしか映らない。

中古ボディパーツ専門ショップは、近年、ネット主体の店が増えている。この店も一般向け開店時間はきわめて限定されている。イタリア中部にて。

筆者の近年における天然ハレキン・スナップから。このオペル・メリーヴァは2015年の撮影。ナンバーからして2003年登録だから、この時点で12年落ちである。

同じく2015年の撮影。手前の初代フィアット・プントは1999年が最終であるから、最低でも16年前のクルマだ。ちょっとシックなカラー・コンビネーションである。

初代フィアット・パンダ。ここまで大胆な色違いは、逆に潔い。

テールゲートとともに、リアバンパーも交換された例。爽やかなカラー・コーディネイトだ。アルミホイールからして、オーナーはそれなりにクルマ好きと思われる。

カラフルなクルマで街も人も明るく

筆者自身も、こうした天然ハレキンを歓迎する。万一、自分のクルマのボディパネルを交換せざるを得ないときも、塗装せずにそのまま堂々と乗れる。

筆者は東京時代からカラフルな服が好きである。かつて初代VWハレキンが日本でリリースされた際、発表会に同行したカメラマンから「今日から君をハレキンと呼ぶぞ」と宣言されたくらいだから、なんとも思わない。

いっぽうで欧州の新車ボディカラーのトレンドは相変わらずダークカラー、もしくホワイトだ。世界各地で路上を走る自動車のボディカラーを長年調査しているアクサルタ社の2020年リポートによると、ヨーロッパではグレー、ホワイト、ブラックの上位3カラーにシルバーを足すと、なんと全体の80%に達する。日本におけるそれらの合計70%よりもはるかに高い。自動車のボディカラーが都市景観の形成に少なからず影響を及ぼすことを考えると、それは由々しき事態だ。

参考までに、冒頭の新生ハレキン公開日は1月の第3月曜日だった。「ブルー・マンデー」と呼ばれ、近年科学者によって「1年のうち最も憂鬱な日」と分析されている日だ。そのムードを少しでも明るくしようというのが、VWのオランダ法人による企画の意図であった。楽しいボディカラーのほうが、人々の気分を明るくすることは、皆もわかっているのだ。

この先が読めない世の中に、街の風景をモノクロームにしないためにも、そして昨今話題のサステイナビリティのためにも、天然ハレキンの増殖は意外に役立つと信じている筆者である。

高速道路「太陽の道」のサービスエリアで2021年夏撮影。視界に入るクルマがすべて黒と白というオセロゲーム的光景が当たり前になって久しい。

フィレンツェ郊外で。カラフルなクルマが出会った奇跡のような1枚。2020年1月撮影。

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