6AA? DBA? 車両型式の先頭3文字は何を表す?
現行車両の型式には、先頭に数字1文字+アルファベット2文字か、アルファベット3文字が必ず付けられている。この3文字は、メーカーの垣根を越え、クルマの種類に縛られず、同じ文字が並ぶことも多い。いったい何を表しているのか? その意味を調べてみた。
国土交通省の型式認証試験を受けて日本国内で一般的に販売されているクルマの型式には、軽自動車からスーパーカーまで、必ず先頭に数字もしくはアルファベットで構成された3文字が並ぶ。例えば、2020年4月現在の国内メーカーそれぞれの代表的な車種を並べてみると、以下のような感じだ(ハイフン以降は省略)。
●トヨタ プリウス(4代目)DAA
●ホンダ フィット(4代目)6AA、6BA
●日産 ノート(2代目)DAA、DBA
●マツダ CX-30(初代)3AA、3DA、5BA
●スバル インプレッサ(5代目)DBA
●ダイハツ タント(軽・4代目)5BA、6BA
●スズキ スペーシア(軽・2代目)DAA
●三菱 デリカD:5(初代)3DA
車両型式はその車種独自のものにも関わらず、メーカーが異なっても同じ3文字が使われている。その一方で、「フィット」や「ノート」、「CX-30」のように同じ車種でもグレードによって異なる場合も珍しくない。
先頭の3文字を見ればそのクルマの環境性能がおおよそわかる
実はこの先頭の3文字、自動車排出ガス規制およびその規制における低排出ガス車認定を受けたことを表す識別記号だ。つまり、そのクルマが環境面でどのような性能なのか、大まかにわかるようになっているのである。
ちなみに自動車排出ガス規制とは、大気汚染防止法に基づいた「自動車排出ガスの許容限度の告示」により、クルマ1台あたりの排出ガスに含まれる大気汚染物質の許容限度量を定めたものだ。道路運送車両法に基づく、「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」によって確保された規制である。そして排出ガス試験を受けて、保安基準に適合すると認められたクルマのユーザーに対してのみ、自動車検査証が交付されるという仕組みだ。
排出ガス規制は、2005年(平成17)以降、乗用車以外にも、ディーゼル車、トラックやバスなどの重量車、特殊自動車、二輪車などを対象とした規制を含めると、2018年(平成30)までほぼ毎年新しい規制が実施されてきた。その中で主に乗用車に関連するのが、平成17年規制(新長期規制)と最新の平成30年規制だ。乗用車の条件とは、「専ら乗用の用に供する乗車定員10名以下のもの(二輪自動車は除く)」である。
また、吸蔵型NOx還元触媒を装着した筒内直接噴射ガソリンエンジン搭載車およびディーゼル車を対象とした平成21年規制(※1)などもあるが、どちらかというとトラック・バスが対象。ここでは平成17年規制と平成30年規制を中心に紹介する。
自動車排出ガス規制における基準値には、「平均基準値」と「許容限度値」の2種類がある。より重視されるのが、量産車の平均排出ガス量が満たさなければならない平均基準値だ。適用対象車の各型式の完成検査における排出ガス量の平均値が、この値以下である必要がある。一方、許容限度値は個々の車両が満たさなければならない値だ。平均基準値より若干高い数値が設定されており、新規検査または予備検査において、各車両はこの値以下でないとならない。なお以下に掲載したリストでは、平成17年と平成30年のガソリン・LPG車とディーゼル車それぞれの平均基準値を記載した。
平成17年規制のガソリン車・LPG車で対象としている大気汚染物質は、一酸化炭素(CO)、非メタン炭化水素(NMHC)、窒素酸化物(NOx)の3種類。ディーゼル車はそこに粒子状物質(PM)も加わる。平成30年規制は、ガソリン車もPMが対象となっている。ここでは、平均基準値を掲載した。なお単位は、どの大気汚染物質についても1km当たりに何g排出されるかを表す、g/kmだ。
【平成17年規制(ガソリン・LPG車)】
CO:1.15
NMHC:0.05
NOx:0.05
【平成17年規制(ディーゼル車)】
CO:0.63
NMHC:0.024
NOx(小型・車重1.25t以下):0.14
NOx(中型・車重1.25t超):0.15
PM(小型):0.013
PM(中型):0.014
【平成30年規制(ガソリン・LPG車)】
CO:1.15
NMHC:0.1
NOx:0.05
PM:0.005
【平成30年規制(ディーゼル車)】
CO:0.63
NMHC:0.024
NOx(※2):0.15
PM(※3):0.005
ガソリン車の平成17年規制と平成30年規制を比較すると、平成30年規制はPMも対象としているので、より厳しくなったといっていいだろう。ただしNMHCのように、平成17年規制では0.05だったものが平成30年規制では0.1になったりと、逆に緩和されたものもある。
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1桁目の意味から説明
左から1桁目が示すのは規制年と認定内容
話を3文字の意味に戻して、まずは左から1桁目の文字の意味について解説しよう。1桁目はどの年の規制において、排出ガスの基準値からどれだけ低減させることができたか、つまりどのレベルの「低排出ガス認定」を受けたかがわかるようになっている。詳しくは、以下の通りだ。
【平成17年規制】
A:平成17年規制に適合させたもの(低減レベルはなし)
C:平成17年基準排出ガス50%低減レベル(平成17年規制に適合した上で、基準排出ガスよりも50%低減させたもの)
D:平成17年基準排出ガス75%低減レベル(平成17年規制に適合した上で、基準排出ガスよりも75%低減させたもの)
【平成30年規制】
3:平成30年規制に適合させたもの(低減レベルはなし)
4:排出ガス25%低減レベル(平成30年規制に適合した上で、基準排出ガスよりも25%低減させたもの)
5:排出ガス50%低減レベル(平成30年規制に適合した上で、基準排出ガスよりも50%低減させたもの)
6:排出ガス75%低減レベル(平成30年規制に適合した上で、基準排出ガスよりも75%低減させたもの)
7:なし(排出ガスの上限値規制)PHP車対象(※4)
平成17年規制における環境性能の高さは、A⇒C⇒Dの順で高くなる。「プリウス」や「ノート」、「インプレッサ」、「スペーシア」などのDで始まる車種は、平成17年度規制において基準の75%まで低減させたことを意味する。平成30年規制の場合は3⇒4⇒5⇒6の順。つまり、「フィット」や「タント」(の一部)のように6から始まる車種は、最新の平成30年度規制の基準から75%まで低減させてあることを示す。現行の乗用車では、Dや6で始まる車種がよりクリーンなのである。
2桁目が示すのは「燃料の種別」と「ハイブリッドの有無」
続いて2桁目に移ろう。こちらは、「燃料の種別」と「ハイブリッドの有無」を示す。燃料の種別とは、ガソリン・LPG、軽油、CNG、メタノール、ガソリン・電気/LPG・電気、軽油・電気、そのほかの7種類だ。そして燃料ごとにハイブリッドシステムを搭載しているかいないかがわかるようになっている。ここでは、一般的な燃料に絞って掲載する。
【ガソリン・LPG】
A:ハイブリッドあり
B:なし
【軽油(ディーゼル)】
C:ハイブリッドあり
D:なし
【ガソリン・電気/LPG・電気】
L:ハイブリッドあり(※5)
なお、一般的なガソリン・ハイブリッド車はAで、プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)はLとなる。これは、一般的なハイブリッド車はエネルギー源としてガソリンしか使わないが、PHEVは外部から充電してのEV走行が可能だからである。Lのハイブリッドとは、一般的にいわれるハイブリッドではなく、エネルギー源がハイブリッドという意味だ。ちなみに、2桁目にLなのは、「プリウスPHV」や三菱「アウトランダーPHEV」などである。
最後の3桁目が示すのは「用途」と「重量条件など」
3桁目は乗用車、貨物・乗合、二輪車、特殊自動車といった用途と、それぞれの重量条件などがわかるようになっている。二輪車や特殊自動車に関しては割愛した。
【乗用車】
A:平成17年規制のディーゼル車以外
B:平成17年規制のディーゼル車(車重が1265kg以下)
C:平成17年規制のディーゼル車(車重が1265kg超)
【貨物、乗合】
D:軽自動車
E:車両総重量が1.7t以下
F:車両総重量が1.7t超、3.5t以下
この分類だと、例えばディーゼル車の「CX-30」や「デリカD:5」はBかCになるように思われるが、実はどちらもA。ここは一般的な乗用車の場合、現行の国産車に関してはガソリン車もディーゼル車も問わずほぼAしかないようだ。
以上の3桁の文字から、例えば「プリウス」や「ノート」の一部、「スペーシア」はDAAなので、平成17年基準排出ガス75%低減レベル、ガソリン・ハイブリッド車、平成17年規制のディーゼル車以外の乗用車ということがわかる。また「フィット」の一部や「タント」は6BAなので、平成30年基準排出ガス75%低減レベル、ガソリン・ノンハイブリッド車、平成17年規制のディーゼル車以外の乗用車だ。「マツダ CX-30」の一部と「デリカ D:5」の3DAの場合は、平成30年規制に適合、ディーゼル・ノンハイブリッド車、平成17年規制のディーゼル車以外の乗用車ということがわかるのである。
余談だが、商用車になると乗用車とはかなり異なる3文字になる。例えば、トヨタ「ハイエース」はQDFだし、スズキの軽ワンボックス「エブリイ」はEBDだ。QDFは平成21年規制排出ガス10%低減レベル適合車、ディーゼル・ノンハイブリッド、貨物・乗合用途の車重1.7t超~3.5t以下を示す。 EBDは平成19年規制の適合車(低減レベルはなし)、ガソリン・ノンハイブリッド、貨物・乗合用途の軽自動車となる。なお平成19年規制とは、軽貨物車などが対象で、一般の乗用車には関連しない規制だ。
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排出ガスを出さないクルマについて
排出ガス規制の適用を受けないクルマのための識別記号も
説明するまでもないがEVは排出ガスそのものを出さないし、燃料電池車(FCV)が排出するのは水だ。そのため、これら2種類は排出ガス規制の対象外であり、ほかとは異なる意味の3文字が使われる。
【1文字目】
Z:排出ガス規制の適用を受けない車種
【2文字目】
A:電気
B:水素(圧縮水素)
【3文字目】
A:乗用車
B:貨物
C:乗合
例えば日産「リーフ」や三菱「i-MiEV」、フォルクスワーゲン「e-Golf」などの乗用EVの場合はZAA。そしてトヨタ「MIRAI」やホンダ「クラリティ FUEL CELL」などの乗用FCVはZBAとなるのである。
新たな規制が設けられるとき、3文字から4文字に切り替わる?
最後は、識別記号の1文字目に使用可能な残りの文字数の話をしよう。1文字目は新しい規制が設けられる度に新しい文字を使用するため、実はもう残りの文字数が少ない。アルファベット+数字で最大36字使用できるが、以下の通り、使ってない文字はすでに7個しかない。
数字(残り4字):0、1、8、9
アルファベット(残り3字):I、O、V
このうち、どうやら数字の0とアルファベットのO、数字の1とアルファベットのIは混同を防ぐためにどちらも使用を避けたようだ(0は使われる可能性もある)。Vに関しては、ローマ数字の5との混同を避けたと思われる。それらが使えないとなると、残りは8と9だけということになる。0を加えたとしても3字しかない。これでは、次の排出ガス規制のときに不足することもあり得るだろう。そこで、おそらく4桁にするのではないかと推測される。
識別記号の4桁化は、歴史を見ると可能性としてあることがわかる。車両型式の先頭に環境性能を表すための識別記号が付けられるようになったのは、1975年(昭和50)4月1日から。最初はアルファベット1文字だったが、不足したために1998年(平成10)10月1日からはアルファベット2文字に。さらに、2005年(平成17)10月1日からは現在の3文字となった。また、ディーゼル特殊車両用の平成26年規制において1文字目はアルファベットを使い切ったので、ディーゼル重量車および二輪車用の平成28年規制からは数字を使用するようになったのである。
今後、どのぐらいのペースで新たな排出ガス規制が設けられるのか正確なところはわからないが、平成17年規制から平成26年規制までの10年間では、22字が使用された。仮に同程度のペースが維持されるのであれば、早ければ5年以内、遅くても10年以内には識別記号は4桁化するのではないだろうか。
識別記号は既述したように1975年の1桁から始まって、現在の3桁まで来た。そこには、環境性能の改善の歴史が集約されているといってもいいだろう。これまで愛車の型式を意識して見たことがなかったという人は、次に運転する際にぜひ車検証で確かめてみてほしい。