トヨタはなぜNTTとタッグを組むのか? 見えてきたトヨタのスマートシティ構想
トヨタは3月24日、スマートシティの基盤技術の開発を目指すコアなパートナーとしてNTTと資本提携したことを発表した。トヨタはなぜいまNTTとタッグを組む必要があったのか? ITジャーナリストの会田肇氏が、その真意を紐解く。
ハードとソフトの関係性が変わる時が来た
トヨタは3月24日、スマートシティの基盤技術の開発を目指すコアなパートナーとしてNTTと資本提携したことを発表した。出資額は相互に2000億円規模。トヨタは自動運転などを街全体で活用するスマートシティとして「Woven City」を静岡県裾野市に建設する計画だが、今回の提携はその実現に向けた大きな一歩となる。
この日、最初に登壇したのはNTTの澤田純社長だ。澤田氏は冒頭、「トヨタ自動車、NTTの資本業務提携に非常に興奮している」と現在の心境を述べた後、「我々はスマートシティを広げていくべきで、モビリティの世界でナンバーワンのトヨタと一緒に住民や社会基盤の構成に貢献していきたい」と提携に向けた抱負を述べた。日本を代表する通信業界のトップと自動車業界のトップが共に一つの目標に向かって動き出す。澤田社長の言葉にはそんな想いが込められていたはずだ。
続いてトヨタの豊田章男社長が登壇。そこでまず語られたのは、社会が2つの大きな流れの中にあるということだ。一つは「ソフトの進化がハードを上回り、”ソフトウェアファースト”の考え方が(社会に)広がってきている」ということ。これまでクルマはハードとソフトが常に一体開発されてきたが、その一方でスマートフォンは、ハードはそのままでもアップデートによって進化することができる。これをとうの昔に実現していた。
豊田社長は「(今後はクルマも)フルモデルチェンジはハードを更新するタイミングで、その際に車を買い換えていただき、マイナーチェンジではソフト更新だけにする。それだけで新たな機能や価値を提供できるようになる」と述べた。「ソフトとデータがカギを握る、高度運転支援機能など先進技術」が欠かせなくなった今、クルマもついにその時代に入ったということを豊田社長はここで強調したのだ。
トヨタがNTTをパートナーに選んだ理由
ただ、これを実現するには、安全安心を必須とするクルマの場合、しっかりとしたハード設計がなければ難しい。幸いにしてトヨタが提供するハードには3つの大きな強みがあると豊田社長は語る。「ひとつは耐久性の良さであるDurability。次に交換部品の手の入りやすさを意味するParts Availability。最後に、修理のしやすさであるRepairability」。つまり、「ソフトがその都度、最新のものになり、ハードをより長期間使用することになれば、この3つの強みがより発揮されることになる」とし、これを評価して「協業相手のMaaS事業者もトヨタ車を選んでくれた」と豊田社長は話した。
そして、もう一つの社会の流れとして豊田社長が語ったのが「くるまの役割の変化」だ。その例として掲げたのが2011年の東京モーターショーに出展した「Fun-Vii(ファン・ビー)」であり、2018年1月にCESで発表した「e-Palette」だ。特に「e-PaletteはTRI(自動運転を手掛けるトヨタの子会社)やトヨタコネクテッドとソフトウェアのエンジニアたちがクルマを作ったらどうなるかという新たな試みだった。それを走らせるために生まれた発想が”Woven City”であって、それはモノの見方や考え方を180度変えていくことを意味する」(豊田社長)という。
豊田社長はこの実現によって、「(クルマは)有事の際は非常電源になり、ハザードマップなど、センサーを通じて社会に役立つ情報を提供できる。さまざまな可能性が生まれ、それ故にクルマの進化は社会の進化と密接な関係を持つことになる」と解説。Woven City構想ではe-Paletteだけでなく、ロボットやドローンを活用するほか、各家庭はネットワークで結ばれたセンサーを使って住民の健康管理にもつなげていく予定だ。ただ、その実現には「Woven City」など社会インフラの一体開発も欠かせない。その実現に向け、「社会システムに組み込まれたクルマを最も上手に活用できるパートナーがNTT」(豊田社長)というわけだ。
避けることのできないGAFAとの競争
グローバルな観点で言えば、スマートシティにはGAFAや中国勢の参入も相次いでおり、今後はこの分野での競争が激化することは避けられない。記者会見で澤田社長は「(今回の提携は)ライバルとしてGAFAが念頭にある」と言い切った。その実現にあたって成果を左右しそうなのがデータの活用方法だが、今回の提携ではグーグルのようにデータを保有する形は採らない。豊田社長は「使ってもらう人が幸せになるやり方がいい」と語り、収集したデータについては、トヨタとNTTは保有せずに利用者や社会側に帰属する考えだ。
豊田社長はWoven City構想の発表時に、この構想が多くの企業が参加できるオープンプラットフォームであることを強調した。トヨタとNTTはこの構想について海外での展開も視野に入れるが、重要なのはそのプラットフォームに参加しやすい形になっているかどうか。トヨタが持つ「つながる車」とNTTの情報インフラを組み合わせ、世界が注目するスマートシティの分野で主導権が握れるかは、両社が目指す今後の基盤作り戦略にかかっていると言えるだろう。