「ギャランGTO」は時を超えて蘇る。【ジオラマ作家・杉山武司の世界:その2】
YouTube「JAFで買う」チャンネルにて、ミニカー「ノレブ」シリーズのプロモーション動画が公開中だ。映像作家・尾形賢氏とジオラマ作家・杉山武司氏のコラボレーションによって制作され、4作品を視聴できる。動画中で使用された杉山氏のジオラマの魅力に迫る第2弾は、1970年当時、国産スポーツカーとしてトップクラスの性能を誇った三菱「ギャランGTO」編だ。
世界的な知名度を持つフランスのスケールモデルのブランドである「ノレブ」。JAF通販紀行では、同ブランドの「1/43スケール 懐かしの名車シリーズ」のプロモーション動画4作品を、YouTube「JAFで買う」にて公開中だ。そのバックを飾っているのが、杉山武司(すぎやま・たけじ)氏が製作したジオラマ(ミニチュアの建物)である。
杉山氏は、2002年に立体画家のはがいちよう(芳賀一洋)氏に師事し、2007年からは故郷の滝川市(北海道)にて本格的な創作活動を開始した。ミニチュアの建物の創作を得意としており、ウェザリングのテクニックによって経年劣化した雰囲気を醸し出すその作風は、日本屈指といわれている。そんな杉山氏のジオラマに惚れ込んだ映像作家の尾形賢氏が、プロモ動画の撮影に際して打診。昭和の香りが漂う1960~70年代の国産車のミニカーを主役にしたプロモ動画が完成した。プロモ動画「三菱 ギャランGTO 1970年式」は、記事の最後に掲載した。
プロモ動画「ギャランGTO」編に登場するふたつのジオラマをピックアップ
4本のプロモ動画のうち、今回は「ギャランGTO」編の前半に登場する、クルマのショールーム(画像1)と、後半に登場するバイク用車庫の小屋(画像2)の2作品の魅力と製作のポイントを紹介しよう。なおショールームは、その看板がかれている店名にちなんで「メキシコカーズ」とし、バイク用車庫の小屋も看板にちなんで「ハーレーダビッドソンの小屋」とする。
なお主役である「ギャランGTO」(画像3)は、三菱が1970年に発売した2ドアクーペのスポーツカー。「ギャラン」と名はつくが、初代「コルト・ギャラン」とは別個に開発された車種だった。クルマに関する詳細は、プロモ動画で解説されている。
「メキシコカーズ」のポイント1:見る人が自由に想像できる”無国籍な”雰囲気
「メキシコカーズ」はクルマのショールームを題材にしたジオラマだが、その看板などから日本ではない雰囲気だ。杉山氏は作風のひとつに、昭和のレトロな雰囲気のジオラマがある。その一例が、その1のマツダ「ルーチェ ロータリークーペ」編の町の整備工場「ワーゲンガレージ」である(画像4)。一方で、アメリカンな要素が入りつつも、どこともいえない無国籍な感じのジオラマも数多く作っている。
今回の「メキシコカーズ」も無国籍系の1種で、外観は海外風だが、よく店内を見てみるとポスターに日本語が使われていたりもする(画像5)。必ずしもレトロというわけでもないが、現代的というわけでもない。いつの時代のどの国にあるショールームなのか判然とせず、不思議な雰囲気をまとっているのだ。
具体的に参考にした実際のショールームなどがあるわけではなく、杉山氏自身も明確な設定を決めているわけではないという。見た人があれこれ想像して楽しむのが、杉山作品の正しい見方のようだ。
「メキシコカーズ」のポイント2:店内に展示されるクルマは入れ替え可能
「メキシコカーズ」は、ショールームらしく、店内のクルマのラインナップを変更できるようになっている。建物の後方を取り外すことができ、ミニカーなどの出し入れを容易にできるようにしてあるのだ。この仕組みにより、プロモ動画でもカットごとに店内の車種が変わるのである(画像6)。
ちなみに店内の車種は、日産の初代・S30型「フェアレディZ」、「ギャランGTO」の弟分的存在である三菱「ギャランFTO」、マツダ「ルーチェ ロータリークーペ」など。「ギャランGTO」と同時代の車種がそろえられている。またショールームらしく前面がガラス張りに見えるよう、0.3~0.4mmという薄さの塩ビを使って作成したそうだ。そして天井にライトが仕込まれており、店内を照らせるようにもなっている。
ショールーム「メキシコカーズ」は、子どもも大人もウインドーに張り付いて店内の日本車をのぞき込んでいそうな様子が思い浮かぶ。メキシコにある日本車専門店なのかもしれないし、日本のどこかのショールームなのかもしれない。設定は、鑑賞する人が自由に決めていいのだ。
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続いて、動画後半のジオラマの解説
プロモ動画後半に登場するジオラマも無国籍系
続いては、プロモ動画の後半に登場する、「ハーレーダビッドソンの小屋」(画像2)の魅力に迫る。ハーレーダビッドソンというとアメリカンバイクの代表であることから、同作品は看板が見える角度からだとアメリカンな香りがある。しかし画像7のように看板が見えない角度から見ると、日本のどこかにありそうでもある。やはり無国籍系といえそうだ。
「ハーレーダビッドソンの小屋」のポイント1:ウェザリングによるリアルさ
「ハーレーダビッドソンの小屋」は、もともとはバイクが主役のジオラマとして製作された。建物の横に止められているハーレーダビッドソンの車庫というわけである。
このジオラマの見るべきポイントは、杉山氏の真骨頂ともいえる建物のウェザリング(汚し)だ(画像8)。サビの浮き出た屋根、はげたり色あせたりしたペンキ、傷のついた出入口の柱など、まるで実際に建てられてから何年も風雨にさらされてきたような小屋にしか見えない。
ウェザリングといっても、その表現方法は多様だ。日光や風雨などによる劣化も、建物の材質によって異なるからそれぞれ表現は異なるし、同じ材質でも日の当たる側と当たらない側では厳密には傷み方が異なる。また、何かが流れたように見せるのなら、もちろん重力を考慮しなければいけない。見たときに不自然にならないようにするには、さまざまなことに配慮する必要があるのだ。なおかつ全体で統一感も取れていて初めて、長い間、日に当たり、雨に打たれ、風に吹かれてきた年季を感じられるリアルな存在感を持った建物となるのである。
「ハーレーダビッドソンの小屋」のポイント2:ハーレーダビッドソン
小屋の脇に置かれたハーレーダビッドソンは、1/43の「ギャランGTO」とスケール的に違和感がないので、同程度のサイズのスケールモデルと思われるかもしれない。実はこのハーレーダビッドソン、かつて缶コーヒーのオマケとしてつけられていたものなのだという。
近年の食玩はクォリティが高いため、こうしたジオラマに使えそうなものが入手可能なとき、杉山氏は一通りそろえておくのだそうだ。日頃からリサーチして雰囲気作りのための小物類を集めておき、それらをジオラマに合わせて塗装やウェザリングを施して効果的に配置。すると、よりリアリティを演出できたり、そのジオラマが一層引き締まったりと、完成度を高められるのである。
こうして完成したジオラマに「ギャランGTO」を置くことで、見る人それぞれのストーリーが生まれる。ハーレーダビッドソンも「ギャランGTO」のオーナーのものなのか、それとも友人を訪ねてきたのか、などなど。「ハーレーダビッドソンの小屋」は、そんな想像も膨らむジオラマなのである。
なお、今回の「ギャランGTO」編の後半には、もうひとつジオラマ「機関庫」が配されている。こちらは杉山氏の作品ではなく、同じくはが氏に師事した盟友である山野順一朗氏の作品だ(杉山氏、山野氏、そして日本ドールハウス協会会長の相澤和子氏は、はが氏門下の三羽ガラスといわれ、各方面で活躍中だ)。今回のプロモ動画4本を尾形氏が撮影するに際して山野氏と渋谷クラフト倶楽部が協力している。「ハーレーダビッドソンの小屋」がサイズ的に小型のジオラマだったことから、その背景に「機関庫」が配置されたのである。なお「機関庫」に関しては、後ほど別記事にてその魅力や製作のポイントなどをお伝えする。