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最終更新日:2020.02.18 公開日:2020.02.18

ソニーがCES2020で発表したEV「VISION-S」に世界が驚いた理由とは?

ソニーは今年1月、米国ラスベガスで開催されたIT家電ショー「CES(セス)2020」で、同社初の電気自動車「VISION-S」を発表した。なぜソニーはこのタイミングで披露する必要があったのか。ITジャーナリストの会田肇氏が、ソニーの未来を考察する。

文・会田 肇

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ソニーがオリジナルでデザインしたというEVコンセプト「VISION-S」。車両製作は大手サプライヤーであるマグナが担当した

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「次のメガトレンドはモビリティだと信じている」

 CES2020のプレスカンファレンスでそう言い放ったのはソニーの吉田憲一郎社長だ。これまでの10年の間、生活を根本から変えたのはスマートフォンで、今後はクルマのEV化が新たなモビリティのソリューションを生み出していくきっかけになるというのだ。

 振り返ればCESで自動車メーカーが出展し始めたのは2008年のリーマンショック以降のこと。2012年には北米自動車ショーを差し置いてフォードがフュージョン・ハイブリッドをCES会場で発表。それ以降、雪崩を打つように自動車メーカーの出展が相次ぎ、CESは今やEVや自動運転を主軸とした最先端モビリティを披露する場へと変貌した。そんなCESにふさわしい取り組みとしてソニーは「VISION-S」を発表して世界を驚かせたのだ。

乗員を包み込むように取り囲んだダッシュボード。左右には電子ミラー用モニターも備えられている

 実は「VISION-S」は、aiboなどを手掛けたロボティクスビジネス担当役員が深く関わって、生まれたという。ソニーはビデオカメラ等で培ったイメージセンサーで世界を席巻しており、その勢いはスマートフォンから自動車用デバイスにも及ぶ。ただ、そのデバイスを表現する方法をソニー自身は持ち合わせていなかった。

 そんなある日、ソニーの担当役員は、トヨタのGRスープラも生産するカナダの大手サプライヤー「マグナ・インターナショナル(以下:マグナ)」の生産現場を目にする。そこで担当役員が気づいたのは「EVならソニーも新たなモビリティとしては関われるかもしれない」ということだったという。それが2018年初頭のこと。そこからVISION-Sの開発はスタートした。

 開発にあたっては全体のデザインをソニーが行い、そのデザインに基づいてマグナが完成車までを担当した。マグナには多くのサプライヤーをまとめ上げるノウハウがあり、わずか2年で実走行できるレベルにこぎ着けたのも、そんなマグナの協力があって実現できたのは間違いない。

 とはいえ、開発の目的にあったように、VISION-Sにはソニーならではの取り組みが随所に採り入れられている。将来の自動運転を見据えたコンセプト「Safety Cocoon」をコアに、車載向けCMOSイメージセンサーを中心とした計33個のセンサー(カメラ×13個、レーダー×17個、ソリッドステート型LiDAR×3個)を車内外に搭載。これによって「霧や夜間など、視界不良な状況で走行しても、周囲360度にわたってセンシングしながら安全な走行を追求できた」(ソニー担当者)のだ。

「VISION-S」のリアビュー。外回りも取り囲むようにライティングするのは、ソニーのデザイナーのこだわりだという

VISION-Sの開発の狙い

 見逃せないのはこのソリッドステート型LiDARの分野でもソニーの参入が明らかになったことだ。

 実は、カメラには形状認識や遠方の視認性では高い優位性を持つ一方で、人間の目と同じように霧や暗闇などで視界不良ではセンシング能力が一気に下がるという弱点がある。そこでこの弱点を補完できるセンサーを組み合わせる”センサーフュージョン”が主流になりつつある。中でも赤外線レーダーのLiDARは、ミリ波レーダーが苦手な非金属の物体も検出できるメリットがある。つまり、LiDARならヒトの検知でも優位性を発揮できるのだ。

 ただ、LiDARは部品価格が高価であることから、現状では普及率がほぼゼロの状態。イメージセンサーで高度な技術を持つソニーなら、生産性を上げることでLiDARの価格を引き下げることも不可能ではない。この将来有望なLiDARの分野へソニーが参入するにあたり、よりわかりやすい形で提案できるVISION-Sの開発は欠かせなかったというわけだ。

フロントウィンドー上部には、焦点距離が異なるレンズを組み合わせたカメラが3つ取り付けられていた

ソニーが新たに参入したソリッドステート型LiDARは、フロントバンパー下に取り付けられていた

 ソニーによれば、VISION-Sが実現できる自動運転レベルは”運転支援”の「レベル2」で、将来的には緊急時も自動車側に操作を委ねる「レベル4」をクリアすることを前提に設計しているとのことだ。さらにVISION-Sは次世代通信網である5Gにも対応させる予定で、ソニーのスマホメーカーとしてのノウハウも活かしていく予定だという。

 一方、パワートレーン系を除くボディやインテリア、インターフェイスについてはソニーがほぼすべてを担当して開発したという。フォルムやキャビンに与えられたデザインテーマは「オーバル(楕円)」で、ボディ周囲にはドアロック操作のたびに光を走らせるLEDが組み込まれ、ドアの取っ手もロックのON/OFFに連動して自動開閉する仕組みが採用された。ここはデザイナーのこだわりだったという。

Xperiaを持つソニーらしくスマートフォンでの操作にも対応。ドアロックのON/OFFでイルミが周囲を走るギミックも用意されていた

33個のセンサーによって、安全な走行を可能とする様々なセンシングを実現。各設定もディスプレイ上で行える

ソニー製EVの可能性と課題

 ソニーが得意とするAVシステムの導入についてもVISION-Sは忘れていない。車内に乗り込むと、そこはまさにAV機器メーカーらしいソニーの世界。ダッシュボードには3枚の液晶パネルを一体化した超ワイドなパノラマスクリーンが広がり、サイドミラー表示部分をラウンドさせることで包み込まれた落ち着きを感じさせる。インターフェイスは「求める機能までの階層が深くならないよう配慮し、好みの設定に簡単にカスタマイズできる」(担当者)ことで、指先ひとつで表示を自在に切り替えられるフリック操作も採用した。

 その中で同乗者をエンターテインメントの世界に引き込む技術として搭載されたのが、「360 REALITY AUDIO」だ。ヘッドレストに内蔵されたスピーカーにより没入感のあるサウンドを再生する技術で、聴いてみると全体にふんわりとした雰囲気を作りながらも、ボーカルはしっかり前方に定位させていることがわかる。車内にいながらコンサートホールにいるようなライブ感を楽しめるのだ。この時は前2席のみで対応していたが、最終的には4席すべてで対応できるようにしたいとのことだ。

3枚の液晶パネルを一体成形したディスプレイ。左右にフリックすることで、表示は瞬時に切り替わる

前2席にはヘッドレストの下の部分に「360 REALITY AUDIO」を組み込み、没入感あふれるサウンドを再現する

車内の各スイッチ一つひとつについても、手に触れる素材感がAV機器に近い感触を表現していた

 なお、展示されたVISION-Sは、現状では車両ナンバープレートを取得していないため、現時点では公道には出られない。しかし、担当者によれば、車両自体は実際に走行できる能力を備えており、今回の搬入でも自走して入ってきているという。2020年度中にも公道で走行実験する予定で、走行することでさまざまな課題の解決にもつなげていきたいとのことだ。

 運転席に座った印象は細部までかなり造り込まれており、このまま市販されても不思議ではないレベルに仕上がっていた。取材に対して担当者は「市販予定はない」とその時、答えていたが、最近は「何とも言えない」に対応が変わってきているとも伝え聞く。果たしてソニー製EVの実現はあるのか、今後もソニーの動向から目が離せない。

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