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クルマ最終更新日:2019.06.04 公開日:2019.06.04

ただ棄てるだけだった排気ガスの高熱で発電して燃費向上!【人とくるまのテクノロジー展2019】

現在、量産エンジンの熱効率はようやく40%を超えたところであり、まだ多くが排熱として有効活用できずに逃がしてしまっている。どの自動車メーカーもまだ当分の間はハイブリッド車としてエンジン搭載車を生産する予定であり、CO2の排出量を抑えるにはさらなるエンジンの高効率化がポイントだ。そこで注目されているのが「排熱発電」の技術である。「人とくるまのテクノロジー展2019」で、「排熱発電コンソーシアム」ブースを取材した。

排熱発電は「温度差」を利用して発電

 排熱発電は、棒状の導体の両端に温度差を設けると「ゼーベック効果」によって電位差(電圧)が生じる「温度差発電」または「熱電発電」と呼ばれる技術を用いる。温度差のない導体では内部の電子もしくは正孔(※1)が均等に分布しているが、一端を加熱するとその付近の電子/正孔は活性化されて(運動エネルギーが増えて)、低温側の端へ拡散(移動)しようとする。この現象がゼーベック効果であり、これによって発電できる導体のことを「熱電発電素子」という。電気を流すと温度差が生じるペルチェ素子はすでに使われているが、その反対の動作をしているわけだ。

※1 正孔:電子が抜けて不足した状態。電子がマイナスの電荷を持っているから、相対的にプラスの電荷を持った粒子のように見える。導体の素材によって、多く分布しているのは電子か正孔か異なる。電子同様に移動する。

温度差(熱電)発電のイメージ。温度の高い側から低い側に対し、電子もしくは正孔が移動する結果、電位差=電圧が生じ、電気が流れる。電子が多い熱電発電素子(半導体)は「n型半導体」と呼ばれ、逆に正孔が多い(実際には電子が少ない)半導体は「p型半導体」と呼ばれる。排熱発電コンソーシアムのパネル「熱電発電」より。

クルマで温度差発電を行うには「排気ガス」と「冷却水」を利用

熱電発電モジュールの実装イメージ。排熱発電コンソーシアムのパネル「熱電システム車両実装時のイメージ」より。

 温度差で発電を行うには、温度差があればあるほどいい。クルマの中で最も温度差があるのが、排気ガスと冷却水だ。排気ガスはアイドリング時で200~300度、全開時には700~800度といわれる。エンジンに近い触媒は1000度に到達するようなこともあるという。それに対し、冷却水は適正温度が70~90度。この温度差を利用するのだ。

 今回展示されたクルマへの実装を想定したプロトタイプの装置は、冷却水が通る低温側熱交換器、低温側緩衝材を挟んで熱電発電素子で構成された熱電発電モジュール、そして高温側緩衝材を挟んで排気ガスが通る高温側熱交換器というサンドイッチ構造となっている。

 発電した電気はDC-DCコンバーターを通してバッテリーに蓄えられ、補機類の動作に使われる。それにより、オルタネーターの稼働率を減らすことができ、燃費の向上につながるのだ。

装置を取り付ける位置を表した模式図。排気系の一部に熱電発電モジュール(図中では「熱電装置」)を取り付け、そこに冷却水も通す。これにより、熱い排気ガスと冷たい冷却水が接近し、温度差を利用しやすくなる。右下は排熱発電装置のプロトタイプ。排熱発電コンソーシアムのパネル「熱電システム車両実装時のイメージ」より。

排熱発電装置のプロトタイプ。(1)から(2)へ冷却水が抜けていく。一方、(3)から(4)へ排気ガスが抜けていく。(5)は低温側熱交換器。(6)が高温側熱交換器。(7)熱電発電素子。低温熱交換器と高温熱交換器で熱電発電素子をサンドイッチにし、温度差で発電している。

熱電発電は体温と室温程度の温度差でも発電可能

 排熱発電コンソーシアムには、熱電発電を体感できるよう、グリップを握るとLEDが点灯するライトが展示されていた。また高温側で110度、低温側で38度という温度差を作り出して熱電発電を行い、風車を勢いよく回すデモンストレーションも行っていた。わずかな温度差でも電気を生み出せるのだ。

体温で発電できるLEDライト。

高温側が110度、低温側が38度、温度差72度で風車が勢いよく回るほど発電していた。

実用化はいつごろ? 課題は?

 排熱発電コンソーシアムの参画企業で、今回プロトタイプを出展していた1社が株式会社三五だ。2018年12月に今回展示したものとは別のプロトタイプを発表しており、2024年の実用化を目指しているとした。排熱発電によってオルタネーターの稼働率を減らすことで、燃費を1~1.5%ほど向上できるという。課題は熱電発電モジュールのコストだが、量産効果で下げられるとしている。

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