「プロパイロット2.0」で本当に手放し運転できるの?【人とくるまのテクノロジー展2019】日産編
日産の安全運転支援技術「プロパイロット」。現在、日本や北米など世界で販売されている7車種に搭載され、約35万台が販売されている。その最新バージョン「プロパイロット2.0」が5月16日に発表された。この秋にマイナーチェンジを受ける13代目「スカイライン」に世界で初めて搭載される予定で、5月22日から24日まで開催された「人とくるまのテクノロジー展」でもパネル・動画を用いた展示が行われた。
「プロパイロット2.0」は、3D高精度地図データと数多くのセンサを組み合わせたセンシング技術を用いて “インテリジェント高速道路ルート走行” を実現した機能だ。同機能が利用できる高速道路上では、ドライバーが設定した速度を上限とし、前走車との車間距離を一定に保ちながらレーン中央を走行するよう運転支援してくれるのだ。そう言うと、従来の「プロパイロット1.0」と変わらないイメージだが、技術的には大きな進歩がある。
条件を満たした状態であればハンドルから手を離しての運転が可能に!
最大の特徴は、条件を満たした高速道路の同一レーンであればハンズオフが可能なことだ。ハンズオフとはハンドルから両手を離すことで、その条件とは「ドライバーが常に前方を注意し、道路・交通・自車両の状況に応じて直ちにハンドルを確実に操作できる状態にあること」である。
一方でハンズオフできない状況もある。対面通行路、トンネル内、急なカーブ、料金所、合流・分岐地点とその手前などは、ハンズオフできない設定になっている。ハンズオフ中に、そういった区間が近づいたときは、ハンドル操作を引き継ぎやすいよう事前にシステムがドライバーに伝える仕組みになっている。
「プロパイロット2.0」を実現する3要素:3D高精度地図データ
「プロパイロット2.0」を実現するのが、3つの要素だ。ゼンリン製の3D高精度地図データ(HDマップ)、カメラ・レーダー・ソナー・GPSを組み合わせて自車の全周囲をセンシングする技術、そしてインテリジェントインターフェースである。
HDマップは高速道路をセンチメートル単位で高精度にデータ化した3D地図(道路の高度に関する情報が含まれる)である。すべてのレーンの区分線、速度標識、案内標識、高度などの情報を含んだものだ。「プロパイロット2.0」はまず誤差10メートルほどのGPSで現在位置を把握する。その上で、カメラが映し出す案内標識版などのランドマークによって、HDマップ上で正確な現在位置を把握。その精度は自車の左右方向で誤差5cm程度、前後方向で誤差1mだという。
この高精度によって実現されるのが、従来よりも滑らかな自動ステアリング制御である。さらに、カーブの曲率や高低差などの詳細な情報もマップによって先読みで得られるため、先を見越した精密な速度制御も可能だ。速度低下が起きやすいサグなどにも対応できるのである。
「プロパイロット2.0」を実現する3要素:周囲360度センシング情報
複数車線の道路であっても、どの車線にいるかなどを正確に確認するために用いられるのが、周囲360度をセンシングする技術だ。こういった機能を実現するには、赤外線等を使って周囲を3次元で認識するLIDAR(ライダー)がよく使われるが、今回は搭載していない。代わりに7個のカメラ、5個のレーダー、12個のソナーで白線、標識、周辺車両などの検知を行っているという。カメラのうちの3個は、画角150度・54度・28度(焦点距離もそれぞれ異なる)がワンセットになった「トライカム」で、残り4個はAVM(アラウンドビューモニター)カメラという構成。レーダーはフロントに1個とサイドに4個だ。
「プロパイロット2.0」を実現する3要素:インテリジェントインターフェース
「プロパイロット2.0」を使うためには、リアルタイムに情報を伝えるインターフェースも重要だ。「プロパイロット2.0」は、車線変更や分岐のタイミングをディスプレイへの表示と音でシステムが提案し、それに対してドライバーが応答するというインタラクティブな仕組みを持っている。
例えば、設定速度よりも遅い前走車がいる場合、システムが追い越し可能と判断すると、サウンドを伴った下記画像のような表示が行われ、ドライバーに車線変更のための確認を促す。その後、ドライバーが安全を確認したうえでハンドルのスイッチで承認すると、右側のレーンへ車線変更をシステムが行ってくれる。追い抜きが完了して元の車線に戻るときも同様で、車線変更が可能なタイミングをシステムが判断して提案、それをドライバーが承認すると実行される。
ドライバーが車線変更したい場合も、自身で安全を確認したうえでハンドルに手を添えてウインカーを操作すると、システムが車線変更可能かを判断し、大丈夫であればシステムが車線を変更してくれる。
ドライバーの状況をシステムが把握できるモニタリング機能
「プロパイロット2.0」があれば、長距離運転でハンドルから手を離せるようになり、快適さが増しそうだ。その一方で、両手が空くことでスマホなどを使ってしまい、ドライバーが前方を注視しなくなる可能性がある。そうした状況を防ぐために搭載されているのが「ドライバーモニターカメラ」だ。このモニタリング機能は、前方を注視していないときだけではなく、居眠りや、体調不良による意識喪失など、ドライバーが運転できない状況すべてに対応している。
ドライバーがハンドルを握るべき区間で握らない場合は、まずアラートで促される。しかし、どれだけアラートを出してもハンドルを握らないときは、クルマがゆっくりとハザードランプを点滅させながら、そのレーンで停車するようになっているそうである。
ハンズオフで運転しても本当に道交法違反の心配はない?
多くの方が、ハンドルから手を離すことは、道路交通法に違反するのではないかと思っていないだろうか? 「プロパイロット2.0」が機能的にハンズオフが可能だったとしても、法律的に違反だったら意味のない機能である。
道交法において、ハンドルについて触れている条項は第55条2と第70条のふたつだ。特に運転時のハンドル操作そのものに関わるのが、第70条「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」だ。
この点「プロパイロット2.0」は、ハンズオフが可能な区間で、かつドライバーがいつでもハンドルを握れるように前方を注視していることを前提に、ハンドルから手を離しても確実な操作が行える。このことから、日産では国土交通省や警察庁に入念な確認を行った結果、ハンズオフがOKになったという。
ハンズオフ中に事故を起こした場合の責任は?
ただし、ハンズオフ中の事故の責任はドライバーが負うことになる。「プロパイロット2.0」が作動中で、ハンドル操作をシステムが行っていたとしても、万が一事故が起これば、それはドライバーの責任だ。これは「プロパイロット2.0」がまだ自動運転ではなく、運転支援の技術だからだ。
もちろん、「プロパイロット2.0」で搭載された技術は、将来の自動運転を見越して開発されたものであり、レベル3と呼ばれる次世代の車の登場を予見させるものでもある。ただし現状は、あくまでも可能な範囲でドライバーを助けてくれるシステム、つまり運転支援システムであり、運転操作の責任はすべてドライバーにあることは、しっかりと認識しておきたい。
現在、日産は『【中継録画】新世代「 プロパイロット 」報道向技術説明会』と題したYouTube動画を公式に配信中だ。1時間強の長さがあるが、おおよそどの時間帯からどのような内容の発表が行われているかを記した。興味のある方はご覧いただきたい。