【自動車カメラマンの旅のしおり】自転車も一緒に。JALが開始した新サービスの中身とは。【後編】
輸送における新しいサービスを展開し続けるJALですが、自動車の輸送はどうしているのかご存知ですか?その詳細をこちらでお伝えします。
僕達が普段使う道路にはバスやトラックが走っているのと同じように、飛行機にも旅客機と貨物機があるというのは皆さんご存知だと思います。もちろん旅客機にも貨物スペースはありますが、それはあくまで旅客の荷物です。旅を楽しむ人、出張で利用する人、そんなたくさんの利用者が乗り込むキャビンの下に、実は車が積めることは想像しにくいのではないでしょうか。
一般的に考えれば「車のような大きな物は貨物機で運べばいいじゃん」と思います。しかし前編で触れたように、JALは2010年の経営破綻後、再建にともなう機材整理のため同年秋に貨物専用機を全て手放してしまっているので、現状赤い鶴のマークで飛んでいるのは旅客機しかありません。そこでJALは旅客機であっても、なんとか車も積んでしまおうと考えたわけです。
どうやって積み込むのか。それが問題だ
さて、上部に乗客を乗せた旅客機の、決して広いとはいえない貨物室にどうやって車を積み込むのでしょう?
その答えは新開発の専用パレットや、パレットと車を固定する器具にあります。このパレットには自動車を搭載する際に航空機との接触を防止しつつ作業員(グランドハンドリングスタッフ)が円滑に作業できるハンドルを設置し、なおかつ輸送中の重力加速度などに耐えうる強度を持たせます。車を機体に固定するためにベルトで縛る作業が必要ですが、その効率を考えた固縛器具も同時に開発しました。そして、積み込みを行う作業者への教育プログラムを用意することによってJALは旅客機による自動車輸送を実現したそうです。
この写真は今年の春、ドイツで行われたニュルブルクリンク24時間レース参戦のためトーイングトラクターに引かれ積み込みを待つ「スバルWRX」です。車体の前後にバーハンドルが付いた専用パレットが見えます。このパレットに載せられた車体は通常の荷物同様、荷物を貨物室の扉の高さまで持ち上げるハイリフトローダーで持ち上げられ、機内へはグランドハンドリングスタッフによる手作業で積み込みます。
積み込みはすごく難しそうだが…
積み込みは、車体の向きを入り口で90度変える必要があるため、慎重な作業が求められます。この作業は非常に慎重さを求められるもののように見えますが、実際に作業を行うスタッフに尋ねると、「難易度は通常の積み込み作業と変わらず作業時間もさほどかからない」とのことでした。
使用する機材はボーイング777、787に限定され、積み込み可能な車体のサイズも全長5140mm×全幅1890mm×全高1490mmと、特に高さに関しては、人気のSUVやミニバンは積めません。機体上部大半を客室で占める旅客機では致し方ないところでしょう。実際に積み込まれたスバルWRXを見ても本当に高さはギリギリです。
どこの空港へなら飛べるのか?
このシステムの導入により、車のサイズに制約はあるものの、今後は貨物便未就航空港でも旅客機のボーイング777、787が運行されている空港であればおおむねどこでも自動車輸送が可能になります。海外はもちろん国内空港でももちろんOKです。
この自動車輸送は、前編で紹介した簡便な自転車輸送のように個人で簡単に利用できるものではありません。ですが、世界中をひっきりなしに行き交い、定時到着率では世界トップクラスの評価を得ているJALの旅客機です。今回取り上げたレースマシンのように、1分1秒でも多くマシンセッティングに時間が欲しいレース活動に利用する。この世にたった1台しかないショーモデルを世界各地のモーターショー会場へ運ぶ。そうした需要に応えてくれることでしょう。
2018年9月19日(自動車カメラマン・高橋学)
高橋学(たかはしまなぶ):フォトグラファー。1966年北海道生まれ。スタジオに引きこもって創作活動にいそしむべくこの世界に入るが、なぜか今ではニューモデル、クラシックカー、レーシングカーなど自動車の撮影を中心に活動中。日本レース写真家協会(JRPA)会員。