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道路・交通最終更新日:2023.06.20 公開日:2021.08.05

“きんちょうしかん”って何?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第1回

JAF Mate誌の人気コーナー「危険予知」の監修者である大阪大学名誉教授の長山先生に聞く、危険予知のポイント。本誌では紹介できなかった事故事例から脱線ネタまで長山先生ならではの「交通安全のエッセンス」が溢れています。

話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

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“きんちょうしかん”で危険の発見が遅れる?

編集部:今回の問題は「夜間の歩行者事故」ですが、注意すべき点はどこでしょうか?

長山先生の「危険予知」よもやま話 第1回|問題写真|くるくら

矢印

長山先生の「危険予知」よもやま話 第2回|結果写真|くるくら

長山先生:自分が運転していて問題のような場面に出くわしたら、横断歩道を無事に女性が横断するところなので、ホッとして、”緊張弛緩”が生じるでしょうね。

編集部:“きんちょうしかん”ですか??? どういう意味でしょうか?

長山先生:運転時に危険な対象を見つけたり、危険を予測すると、心理的に緊張状態になります。適度な緊張は、運転に意識が集中し、危険が回避しやすくなるメリットがあります。今回の問題では、前方の横断歩道を女性が渡り切るまで緊張状態にありますが、女性が横断し終わって「もう危険はない」と判断すると、緊張状態から解放されます。それが緊張弛緩です。

編集部:なるほど。ずっと緊張して運転していては疲れてしまうので、特に危険を感じない状況では、緊張状態から解放して運転するんですね。

長山先生:そのとおりです。しかし、危険につながる問題が一つであれば、緊張弛緩は良いのですが、今回のように別の歩行者が横断してきて、さらに緊張して注意しなければならない場合、緊張弛緩が生じると、危険の発見が遅れて問題を起こしかねません。これが危険予測の心理的な問題点です。

編集部:今回の場合、女性が渡り切ったあとでも緊張状態を保つ必要があったのですね。

長山先生:そうです。事例1のように対向車の後ろを渡ってくる歩行者をはねてしまう事故は多いので、対向車と完全にすれ違うまでは緊張状態を維持することが大切です。特に夜間は対向車のライトで目が眩んで視力が低下し、対向車の後ろを渡ってくる歩行者を見落としてしまいがちです。つまり、対向車の後ろは「暗くて見えない空間」なのです。今回のように単独の対向車とすれ違う際や、複数台続いて来た場合、最後の対向車とすれ違う際に歩行者が渡ってくる可能性があるので、速度を十分落として、歩行者が出てきても避けられるように準備しておくことが大切です。

事例01 横断歩道を横断中の歩行者との事故|長山先生の「危険予知」よもやま話 01|くるくら

“照明の谷間”にも注意!

編集部:今回のような照明の少ない暗めの住宅街では注意が必要ですね。

長山先生:住宅街ばかりが危険なわけではありません。実は事例2のガソリンスタンドのように、明るい店舗の周囲でも事故は起きているのです。パチンコ店やコンビニなどもそうですが、明るい店舗の前後に”照明の谷間”となる暗い部分があると、そこを横断する歩行者を見落とす危険性があります。一部明るい地点がある場合、どうしてもそこに目が行ってしまったり、目がその明るさに慣れてしまうので注意しましょう。

事例2 横断歩道付近を横断する歩行者との事故|長山先生の「危険予知」よもやま話 01|くるくら

“蒸発現象”による事故はない!?

編集部:今回のように停止した対向車の前を歩行者が横切る際には、”蒸発現象※”で歩行者が見えにくくなる危険性もありますね。

※対向車のライトと自車のライトが重なる部分に入った歩行者が、蒸発するように一瞬見えなくなる現象。夜間の歩行者事故の原因のひとつと言われる。

長山先生:“蒸発現象”は教習所でも教えられており、夜間の歩行者事故の重大原因であるかのように教育されていますが、私は以前から蒸発現象の存在には疑問を感じています。以前、警察署が主催する講習会で、トンネル内のように暗くした施設で対向車と自車のヘッドライトが交錯する状態で蒸発現象が起こることを体験させてくれましたが、私自身ははっきり理解できませんでした。動画サイトでも片側3車線の道路を使った検証映像がありましたけど、私が見た限り、両者のヘッドライトが交錯する状況は生まれず、その中を通る歩行者が蒸発する現象も認められませんでした。

編集部:でも、実際にライトを点灯している対向車の前を横切る歩行者は見えづらいですよね? 実際に事故原因になっているのではないですか?

長山先生:対向車のライトで眩惑され、見えづらい瞬間はありますが、それは一瞬で、歩行者はライトの光を遮って移動するわけですから、それを見落としてしまう危険性は低いと思われます。実際、私が過去に約4000件の事故事例分析を行いましたが、蒸発現象が原因によるものは1件も見当たらず、今回のように対向車の後ろを渡ってくる歩行者の発見が遅れてはねてしまうという事例が圧倒的に多かったのです。繰り返しになりますが、ドライバーとしては対向車の後ろから道路を渡ってくる歩行者の存在を決して忘れないようにしてください。

月刊『JAFMate』 2014年10月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。91年より『JAF Mate』危険予知ページの監修を務める。

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