2020年06月03日 17:00 掲載
旧車
吉田 匠の
『スポーツ&クラシックカー研究所』
Vol.03
ヨーロッパを魅了した最初の
日本製スポーツカー「ホンダSシリーズ」。
スポーツ360。ただしこれは1962年東京ショーで発表されたクルマそのものではなく、2013年にホンダがリプロダクションしたレプリカ。
ホンダの4輪参入の切り札
さて、2回続いたポルシェに代わって、今回は日本のスポーツカーの歴史の話。日本で最初の市販型スポーツカーは、すでに1950年代前半にホンダ以外のメーカーから発売されているが、これは当時のトラックやセダンのボディ後半部をオープンにしたクルマで、ほとんど見掛けだけのスポーツカーだったといえる。
では今回の主役ホンダSシリーズはというと、シャシーもボディもエンジンもこのクルマ専用に開発された小さいながら本格的なスポーツカーで、まずは1962年秋の東京モーターショーに、スポーツ360とスポーツ500の2モデルがプロトタイプとしてデビューした。その頃までには2輪の分野でレースの世界でも生産台数でも世界一になっていたホンダが、4輪の世界に乗り込むために生み出したのがSシリーズだったのだ。
全長3000×全幅1300mm以内という当時の軽自動車規格にしたがったため、リアオーバーハングが極端に短い。
F1エンジンのミニチュアのようだといわれたスポーツ360のDOHC4気筒4キャブレターエンジン。356ccから33ps以上/9000rpmのパワーを出すとされた。
ホンダ=当時の本田技研工業が4輪の発売を急いだのには理由があった。当時の通産省が4輪車メーカーへの新参入を制限する「特振法」を発表。それが施行される前に発売しようと急遽開発したのが、当時の360cc軽自動車規格に収まるオープンスポーツカーのスポーツ360と、そのエンジンを使った軽トラック、T360だった。ただしスポーツ360の動力性能は本田宗一郎社長が望むレベルに達しなかったらしく結局市販はされず、1963年8月に発売されたT360がホンダ初の市販型4輪車となった。
待望のホンダスポーツはその2か月後の63年10月、ホンダS500として発売された。ただしそれは前年の東京ショーに360と一緒に展示されたスポーツ500とは別物で、軽自動車規格に合わせて全幅1295mmだったそのスポーツ500と違って、市販されたS500のボディは、ホイールベースこそ同じ2000mmのまま、全長3300×全幅1400×全高1200mmという、5ナンバー車サイズに拡大されていた。しかも、本田宗一郎御大が造形室を連日訪れてデザイナーに注文を出しながら仕上げたというそのボディやインテリアのデザインは、初めて4輪車を生み出したメーカーのものとは思えぬほど洗練されていて、魅力的だった。
エンジンはモーターサイクルで培ったオールアルミ製DOHC4気筒4キャブレターの超高回転型で、排気量531ccから44ps/8000rpmのパワーを発生、4段MTを介して675kgの車重を最高速130km/hで走らせた。サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアがチェーン駆動用ケースを使ったトレーリングアームとコイルの独立という、いかにも2輪車メーカーのクルマらしい独特のものだった。しかも公表された価格は45.9万円と一般の予想を大きく下回るもので、S500は性能でもプライスでも当時のクルマ好きを驚かせた。
初の市販型ホンダスポーツ、S500。軽自動車規格に収める必要がないため、ボディサイズは3300×1400×1200mmに拡大されている。
S500とS600のテールランプはシンプルな丸形。シルバーのメーターパネルにウッドリムステアリングが標準装備。
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