2022年08月25日 06:00 掲載

次世代技術 日産が目指すのは究極の運転支援技術──清水和夫が徹底解説「先進運転支援システム 2022」<日産篇>

モータージャーナリストの清水和夫氏が、各自動車メーカーが開発する次世代の運転支援技術を解説する短期集中連載。今回は「やっちゃえNISSAN」でお馴染みの日産自動車を特集。自動運転ではないが、かなり高度な運転支援「グラウンド・トゥルース・パーセプション」とはいったいどんな技術なのだろうか?

文=清水和夫

交通事故の大半は人間のミスである

日産は緊急回避操作を自動化させることで事故ゼロの世界を目指す。

 ここのところ、自動車業界ではカーボン・ニュートラルの話題で盛り上がっているが、自動車メーカーや政府関係者のホンネはやはり交通事故だ。池袋で起きた高齢者のペダル踏み間違いと思われる暴走事故は記憶に新しい。交通事故は高齢者だけではないが、その原因の大半が人間のミスである。

  そんな人間のミスをなくすべく自動車技術で課題を解決したいと思うのは、自動車技術の研究者としては当然のこと。今回は、先日発表された日産自動車の高度な運転支援技術をレポートする。

 その前に、交通事故の現在地を知ってもらいたい。日本では2021年度の交通事故死者数は2,636人と、年々減少してきているが、依然として多くの命が失われていることに変わりはない。減少した理由はコロナ禍において私たちの行動が変容したことも影響していると思うが、自動車大国のアメリカの死者数は42,915名と増加。コロナ禍で飲酒運転が増え、また無謀な運転が増加したと分析されている。

 同じ先進国の中でも、各国では色々な事情がありそうだ。しかし、人間のミスである点では共通しているわけで、そのミスを技術でカバーできれば(仮にぶつかっても速度が下がれば被害は低減)、人の命を救うことができる。

日産は運転支援技術で何を目指しているのか

グラウンド・トゥルース・パーセプション技術のデモンストレーション

グラウンド・トゥルース・パーセプション技術のデモンストレーション

日産の最新運転支援技術「グラウンド・トゥルース・パーセプション」が道路の先にあるクルマと障害物を認識。デモカーのインパネにその様子を映している。

 ところで、運転支援技術はどのようにして開発されているかご存知だろうか。その手法はこうだ。現実に起きている交通事故のデータを分析し、テストコースで実車を使って再現テストを実施。そのデータをサイバー空間(コンピューターの中)でシミュレーションする。そのPDCA(計画・実行・評価・改善)を繰り返し、現実の交通事故に対応できる運転支援技術を開発する。これを世界中の自動車メーカーが採用する。

 今年の4月に日産が発表した技術は「グラウンド・トゥルース・パーセプション」と呼ばれるもので、自動運転ではないが、かなり高度な運転支援(ドライバーをアシストする技術)である。この「グラウンド・トゥルース・パーセプション」は、クルマが自律的に交通のリスクを検知し、コンピューターがどう回避するかを判断するというものだ。ハンドルやブレーキが自動的に介入し、事故を未然に防ぐ。いわゆる"レベル3"以上の自動運転ではないが、究極の運転支援技術を目指している。

 つまり、この技術はレベル2の範囲であるが、かなり高度な危険回避能力を目指している。そのために、周囲の状況を「認知・判断」(パーセプション)するセンサーが必要で、日産は米国ルミナー社製のライダー(LiDAR)を搭載している。

どこまで危険回避が可能なのか

ProPILOT-コンセプトゼロ 試作車

ProPILOT-コンセプトゼロ 試作車

 このライダーはクルマのルーフトップに取り付けられ、前方を隅々まで検知できる高性能ぶりだ。その解像度は300m先まで見通すことが可能で、垂直方向は25度の視野を持つ。すでにライダーを搭載する日本車も市販されているが(リース販売も含む)、その価格が高いのがネックだ。そのほかにも、高速道路や市街地の自動運転を実現するために、このライダー以外に、10個のカメラと7個のレーダー(電磁波を使うミリ波レーダー)を装備している。

 開発を担当する飯島部長は「この技術は将来の自動運転に進化する基盤技術」と述べている。日産は日本だけでなく、日産車が走る世界中の地域で、事故を未然に防ぐことを考えており、事故を自律的に回避できてこそ、自動運転が可能だと考えている。

次世代のライダーでは現行の2倍以上となる300m先までの検知距離を目指している。その理由は、世界の高速道路の一般的な最高速度130km/hで走行中に、渋滞末尾の停止している車両を検知して、通常の車線変更で回避することをできるようにするため、と日産は語る。

AIは交通状況をどのように解析しているのか

グラウンド・トゥルース・パーセプション技術のデモンストレーション

グラウンド・トゥルース・パーセプション技術のデモンストレーション

 テストコースでは「ProPILOT-コンセプトゼロ」(事故をゼロにというメッセージが込められている)と名づけられたスカイランの実験車が現れた。リモコンで動くダミー車(歩行者ダミーのテストも行った)とニアミスさせ、ドライバーが運転する実車がどのように回避できるのか、私はその様子を後席から見守った。

 走行中のスカイラインの前に、急に現れたダミー車をシステムが自律的にステアリングで回避し、その直後に歩行者が現れる。すると、今度はブレーキで対応し、見事に二つのダミーをかわしたのである。このアルゴリズムは「早期発見、早期回避」という基本的な考えで実行されているそうだ。

グラウンド・トゥルース・パーセプション技術のデモンストレーション

グラウンド・トゥルース・パーセプション技術によって衝突を回避する様子をビジュアル化したもの

 だが、ここで疑問が生じた。その判断基準はどこにあるのか。実際の交通シーンでは、ベテランドライバーでもハンドルで回避するべきか、ブレーキで回避するのか、迷うことがある。いや、迷うという表現は正しくなく「とっさの判断」で危険回避する。事故を避けることができたのか、あるいはぶつかったのか。これは神のみぞ知る現実だ。しかし、膨大なデータをAIが読み解けば、将棋のように最善手が打てるかもしれない。

 いずれにしても、そのときの交通状況でAIが的確に判断する必要があるが、そのためにAIはディープ・ラーニングや機械学習で鍛えられている。日産はこの「グラウンド・トゥルース・パーセプション」を2020年代半ばごろから新型車に搭載し、2030年には新型車に標準装備する計画だ。

 今後も世界中の自動車メーカーで、ドライバーが前方を監視する義務のない自動運転(レベル3~4)と、ドライバーが前方を監視する義務(安全運転義務)がある運転支援(レベル2)の、両面の技術開発が進められるだろう。レベルの数字が高いほうが高性能というわけではなく、現実の交通事故をいかに減らすのかという視点では、レベル2の運転支援技術の高度化も重要なのである。

日産は次世代運転支援技術「グラウンド・トゥルース・パーセプション」の開発を2020年代半ばまでに完了させ、順次、新型車へ搭載し、2030年までにほぼすべての新型車に搭載することを目指している。

日産は次世代運転支援技術「グラウンド・トゥルース・パーセプション」の開発を2020年代半ばまでに完了させ、順次、新型車へ搭載し、2030年までにほぼすべての新型車に搭載することを目指している。