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クルマ最終更新日:2018.10.11 公開日:2018.10.11

「渋滞吸収走行」のタイミングと速度を通知するシステム研究開発中

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 高速道路における渋滞の原因は、50%以上が「交通集中」とされる。そして、現在ではその交通集中の主因とされることが多いのが、サグ部(下り坂から上り坂に切り替わる区間)や上り坂でのドライバーの無意識な速度低下だ。そこで近年では、渋滞を早期に解決する運転手法として「渋滞吸収走行」が唱えられている(詳しくはこちら)。

 渋滞吸収走行は”スローインファストアウト”を心がける走りだ。渋滞車群の先頭車両は上り坂に入ったらアクセルを踏んで速度の低下を防ぎ(低下していたら速やかな速度回復を心がける)、さらにその直後で追従する車両もファストアウトで走行。一方、渋滞車群から離れた後方を走るクルマはゆっくりと走って渋滞に時間をかけて到着するようスローイン走行をするというものである。渋滞吸収走行は、特にこの後方からのスローインを指す場合も多い。

渋滞吸収走行はゆっくり走ればいいけど、渋滞はどこ?

 しかし、渋滞吸収走行をするにしても、ひとつ大きな問題がある。それは、「いかにして素早く渋滞を検出し、それをリアルタイムで後方のドライバーに通達して適切な速度制限を促すか」ということである。渋滞がどこでどの規模で発生しているかというのは、VICSなどの情報によるカーナビや、ラジオから得られるとはいえ、では実際に今自分がどれだけの速度でスロー走行すればいいかというのは少々わかりづらい。

 そこで渋滞吸収走行をより確実に行える手段として、芝浦工業大学情報通信工学科の森野博章准教授が2018年7月に車々間通信を用いた手法を発表した。使われる無線は、かつてアナログTVの放送で用いられていた周波数の700MHz帯。インフラ協調型安全運転支援システムの構築を目的として、車々間通信用の無線通信方式として、一般社団法人 電波産業会(ARIB)が定めた700MHz帯の「ARIB STD T-109」を使用する。

 今回の車々間通信では、送信電力を変化させることで、伝搬距離が100m程度の短距離通信モードと、最大約1000mの長距離通信モードを切り替えて利用する。既存のFM多重放送などを用いる方法よりも短い遅延で渋滞情報を各車両に伝搬させることができ、速度制御を早い段階で開始できるという。

 具体的には、まず通常の状態で各車両は短距離通信モードを用いて、定期的に自車の速度や位置情報を周囲の車両と交換していく。そして自車の低速走行状態が一定時間以上継続し、なおかつ前方に車両がいる場合に、渋滞の初期状態であると判断して長距離通信モードに切り替え、その情報を後方の車両に送信。そして長距離通信モードで受信した後方の車両は、走行速度があらかじめ決められた値より高ければ減速するようドライバーを促し、スローインを実行させるというものである。

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今回のシステムのイメージ。画像提供:芝浦工業大学

シミュレーションの結果たったの20%でも効果が!

 東北自動車道・矢板IC付近(上り)は、NEXCO東日本が発表している高速道路の主な渋滞ポイントのひとつ。ICの合流の影響もあるが、サグのための速度低下が発生して渋滞が起きてしまう箇所である。

 同地点で渋滞が発生した時に測定された車両速度および時刻データを用いて、汎用シミュレーターにて性能評価を実施したところ、車々間通信が可能な車載器を搭載した車両が全体の20~40%あれば、サグ部での交通渋滞の所要時間を約5~10%減少させられることが判明したという。

 森野准教授によれば、今回は人が運転する車両への適用を前提として性能評価を実施したが、自動運転に組み込むことも可能だという。人が運転する車両と自動運転車両が同じ道路に混在する状況でも、この車々間通信による渋滞吸収が作用することをシミュレーションにて確認する予定とした。自動運転車なら、情報を受け取れば精密な速度を素早く計算し、その速度でもって走り続けるのは難しくはないはず。自動運転車にはこの機能を最初から盛り込むべきではないだろうか。

 また、既存のクルマに700MHz帯の無線装置を後付けが可能かどうかを問い合わせた。すると、「だいたい、ETC車載器程度のサイズをイメージしていただければ問題ありません。ダッシュボードなどに置いたり取り付けたりできるものと考えています。アンテナに関しては5.8GHzを使うETCが1cmほどですが、700MHzの場合は10cmほどになります」という森野准教授からの返答をもらった。

 もし製品化され場合にいくらぐらいの価格になるのかも聞いてみたところ、「主なコストは『ARIB STD T-109』に準拠した通信機器が占めるかと思いますが、実はその準拠した機器が市販されていません。そのため、厳密な価格は見積もれないのが現状です。そこで、市販の機器が存在する900MHzの無線(LTEで低頻度のパケット送信をサポートする方式)の利用も視野に入れて検討を行っているところです」とした。

 また、現状では具体的な計画は決まっていないとのことだが、今後は各種機関と連携して実証実験による検証と実用化を目指していくとしている。

 これまで、ドライバーの経験やスキルに頼らざるを得なかった渋滞吸収走行。しかし、今回の車々間通信を用いたシステムなら、誰でもどのタイミングでどれだけの速度で走ればいいのかが一目瞭然となる。サグによる渋滞対策として、国としても検討してもらいたいところである。

 現状では、渋滞吸収走行をするのはなかなか難しいのも事実。渋滞吸収走行とはいかないまでも、少しでも近いのが「車間距離を十分に取る」走り方だ。交通安全の面からもここは基本に立ち返り、車間距離を十分に取るよう心がけてほしい。

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