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クルマ最終更新日:2018.07.20 公開日:2018.07.20

75歳以上の軽乗用車ドライバーによる死亡事故が10年で2倍以上に!

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 75歳以上の高齢ドライバーが軽自動車を運転しているとき、第一当事者(事故当事者のうちで最も過失が大きい者)となった死亡事故の件数が増加中だ(事故死者は75歳以上の高齢ドライバー当人だけでなく、その同乗者、相手のクルマのドライバーや同乗者、歩行者などを含む)。2007年に対して2016年の時点で約2.3倍という集計結果が出ている。いったい何が原因なのだろうか?

 10年間で約2.3倍という数値を発表したのは、交通事故の集計や原因の究明などを行っている公益財団法人 交通事故総合分析センター(ITARDA)だ。ITARDAは、無料配布している交通事故分析レポートシリーズ「ITARDA INFORMATION No.126」で、「軽乗用車運転中の後期高齢者による死亡事故~幹線道路での車線はみ出しに注意!~」という特集を組み、その中で警鐘を鳴らしている。

 その約2.3倍という結果を示したのがグラフ1だ。折れ線グラフが75歳以上の死亡事故件数を表したものだ。普通乗用車が徐々に下がってきているのに対し、軽乗用車と軽貨物車は右肩上がりで増えている。中でも、軽乗用車は増え方が急激だ。

 その要因のひとつが、グラフ1(棒グラフ)にある通り、軽乗用車の保有台数の増加だ。

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グラフ1。2007(平成19)年から2016(平成28)年の10年間を対象とした、軽乗用車の保有台数の推移(棒グラフ)と、75歳以上の高齢ドライバーが第一当事者となった軽乗用車、普通乗用車、軽貨物車の3種類に分類した死亡事故件数の推移(折れ線グラフ)。ITARDA INFORMATIONより。

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高齢者の軽乗用車保有状況は?

軽乗用車の保有者のうちで高齢者の割合が増加

 グラフ2は、高齢者の軽乗用車の保有台数が増えていることを示したものだ。2007(平成19)年と2015(平成27)年を比較した、軽乗用車保有者の年齢層別構成率の変化を示している。

 10年弱の期間で、20代以下が7ポイントも大きく減った一方で、60代が6ポイント、70代以上が5ポイントと増加しており、保有者層の高齢化がはっきり見て取れる。このことにより軽乗用車の死亡事故において、75歳以上のドライバーが急増しているのもうなずける。

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2007(平成19)年と2015(平成27)年の、軽自動車保有者の年齢層構成率の変化。70代以上が保有する割合も確実に増えている。ITARDA INFORMATIONより。

高齢者は衝撃耐性が低いことが死亡事故増加に!

 次に、高齢者が交通事故に遭った場合、事故死につながりやすいという事実を見てみる。

 軽乗用車は1998(平成10)年に規格改定が行われ、衝突安全基準が強化された。さらに近年では、追突を未然に防ぐもしくは被害を軽減する「衝突被害軽減ブレーキ」などの先進安全運転支援システムも搭載されるようになり、確実に新しい年式のクルマほど安全性が上がっている。

 しかし、高齢者は下の年代なら死亡事故まで至らないような比較的軽微な衝突事故でも、死亡事故に至ってしまうことがある。高齢者の衝撃耐性が低いことが大きな要因だという。

 グラフ3はそれを如実に語るデータだ。軽乗用車の運転者の、正面衝突事故における車両年式別の死亡割合を示している。年式が新しくなることによる効果は確実に見られるが、75歳以上が全年齢に対して大きく突出していることは、どの年式でもあまり変わっていない。高齢者ほど事故が死につながる危険性が高いのである。

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グラフ3。軽乗用車の運転者の、正面衝突事故における車両年式別の死亡割合。死亡割合とは、死者数を全死傷者数で割ったパーセンテージのことだ。年式が新しくなるほど確実に減ってはいるが、全年齢と75歳以上の死亡割合の差はあまり縮まっていない。グラフ中の「1当」とは第一当事者のことで、「2当」とは2番目に責任がある第二当事者のこと(正面衝突の相手のドライバー)。ITARDA INFORMATIONより。

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高齢者にとって最も多い死亡事故とは?

高齢者の事故は工作物への衝突・次いで正面衝突が多い!

 それでは、高齢ドライバーはどんな事故を起こしているのだろうか。グラフ4は、全年齢と75歳以上の死亡事故における事故の種類別に比較したもの。一目見て75歳以上は、正面衝突と工作物への衝突の2種類が突出しているのがわかる。工作物への衝突は全体の4分の1、正面衝突もそれに次ぐ。

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グラフ4。軽乗用車並びに普通乗用車の、高齢者の死亡事故の事故類型構成率。どちらも、全年齢に対して人対車両の死亡事故はおおよそ半分ととても少ないが、その代わりに単独事故の工作物への衝突が大きく増える。そして軽乗用車に限っていえば、75歳以上はクルマとの正面衝突も高い。グラフ中の「1当」とは第一当事者のこと。ITARDA INFORMATIONより。

75歳以上の正面衝突死亡事故はいつ・どこで起きやすい?

 次に、死亡事故を起こしている時間帯を見てみよう。一般的に、交通事故は人が移動する朝(通勤・通学時)と夕方(帰宅時)に多く発生している。ところが、75歳以上では、10~11時台に20%を超え、14~15時台まで20%弱から20%前半という高い割合をキープ(普通乗用車は12~15時台が高い)。日中に事故が多いのは、通勤がなく、日中に外出するケースが多いためだと考えられている。

 また場所に関しては、市街地の人口集中地域、市街地のそのほかの地域、そして非市街地の3種類のうち、高齢者に限らずどの条件においても非市街地が多く、差が見られなかった。つまり、正面衝突死亡事故に共通する特徴として、非市街地が圧倒的に多いということが挙げられるという。

 さらに場所について詳しく調べると、正面衝突事故の発生地点としては、対向車線にはみ出しての事故が4分の3を占めており、中でもカーブでのはみ出しが半数強であることが確認された。それも、片側一車線と思われる「幅員5.5m以上9m未満」の国道や地方主要道での事故が6割を占めていたのである。

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軽乗用車に乗る高齢者の死亡事故を減らすには?

道路側で可能な工夫は?

 高齢者の軽乗用車オーナーが増えており、そして75歳以上のドライバーは対向車線にはみ出してのクルマとの正面衝突、そして工作物への単独衝突が突出していることがわかった。その時間帯は一般的に交通事故の発生しやすい朝夕ではない、といった特徴があるようだ。

 それに対して、高齢者の死亡事故を減らすために取り得る道路(インフラ)側および車両側では何ができるのだろうか。

 正面衝突死亡事故のケースとして、反対車線へのはみ出しが多いことに対してITARDA INFORMATIONでは、中央線を突起部が一定間隔で連続する高視認性の路面標示、もしくは降雪地域用の窪みを連続して設ける「ランブルストリップス」で整備することが効果的だとしている。

 どちらも、中央線を含むとタイヤがバイブレーションを起こしてそれをステアリングで感じ取ることができ、またロードノイズの変化を耳で聞くこともできることから、高齢者が事故を起こすことの多い運転状況である、脇見や居眠り、考え事などの注意散漫な状態でも気がつきやすい。

 これを、事故の発生地点の多くを占める非市街地にある片側一車線の国道や主要地方道に対し、確実に整備していくことが有効だと主張している。

車両側で有効な予防安全策は?

 車両側で可能な有効策は、先進安全運転支援システムのひとつである、車線の逸脱を知らせてくれる「車線逸脱警報」や、さらに一歩踏み込んでステアリングを自動操舵することで逸脱を防いでくれる「車線逸脱抑制」などの「車線逸脱予防システム」を軽自動車にも普及させることだとする。これらは、路面側の対策のない中央線でも有効だ(先進安全運転支援システムに関する記事はこちら)。

 ただし、現状で高機能な先進安全運転支援システムを軽自動車に搭載すると、どうしても車両価格が上がってしまうという点があり、高性能でいて安価な先進安全運転支援システムの開発が望まれる。また、100%の安全を保証するシステムではないため、逆に頼り切ってしまうことによる危険性も内包している。

 また、現状の車線逸脱予防システムの作動速度領域に関しては、改良すべき点があるという。というのも、75歳以上における軽乗用車が正面衝突死亡事故を実際に起こしてしまっている速度域は全年齢(普通乗用車+軽乗用車)と比べて少し低く、191件のうちで時速30~50kmが約68%を占めているからだ。

 このことから、車線逸脱予防システムの作動速度域をより低速側へ拡大することで、さらに多くの死亡事故を未然に防げる可能性がある、としている。

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