ジャンクションに使われている「人体に優しい曲線」とは?
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こんにちは、ライターの横内です。
突然ですが、私、高速道路のジャンクションが大好きで、暇さえあればインターネットでジャンクションの画像を検索して眺めているんです。直線と円が複雑に絡み合う独特の美しいフォルムは、見ているだけでうっとりしてしまいますね。
それにしても、あの曲線はどのように描かれているのでしょうか? 何か特別な秘密はないのでしょうか?
そこで今回の「なんちゃってエジソン」は、ライター横内が趣味を満喫する企画として、テーマはジャンクションの曲線美に! NEXCO東日本さんに、曲線美の優美な描き方を教えてもらってきました。
あの曲線美のヒミツは、円ではない曲線
今回お話を伺ったのは、NEXCO東日本の技術士(建設部門)・鈴木孝さん。
私が開口一番「ジャンクションの曲線美が大好きなんです!」とお話しすると、「いいですね~」と笑顔で返してくれるなど、鈴木さんもあの曲線美のとりこになっているご様子。
そこで「ジャンクションの滑らかな円の描き方」について質問すると、ニコニコしていた鈴木さんがにわかに険しい表情に。やはり、ジャンクションの曲線美については企業秘密で教えてはもらえないのだろうか・・・。
なんてことも考えましたが、よくよく話を聞いてみるとそうではなく、私のある思い込みが気になったんだそうです。
「横内さん、高速道路の曲線は、単純な円と直線だけではありません! もう一つ、高速道路建設には欠かせない重要な要素があるんです。それが、円ではない曲線、クロソイド曲線です!」とのこと。
円ではない曲線? クロソイド曲線? 耳慣れない単語に、目をしばしばしていると、鈴木さんが詳しく説明してくれます。
一定の速度で走る車が一定の速度でハンドルを回した時に、車が描く軌跡(曲線)が、クロソイド曲線になるのだそうです。言い替えると、慌てず、無理なくハンドルが切れる曲線ということになります。
これは、どういうことでしょうか?
車で直進しているとき、ハンドルを持つ両手は、時計の長針短針の関係で言うと9:15の位置だとします。例えば、このハンドルを持つ手を90度回転させた状態を維持しないと曲がりきれないカーブに差し掛かった場合、直進の体勢(ハンドルを持つ手は9:15)から一気にハンドルを90度回転させなければなりません。車はハンドルを回す間も走行しているわけですから、高速で一瞬にして90度ハンドルを回さないとカーブを曲がれないことになります。
そこで、鈴木さんによると、高速道路ではこのクロソイド曲線を直線と円をつなぐ曲線として利用しているのだそうです。クロソイド曲線が、ハンドルを回す余裕を与えてくれるというわけです。図で表すと以下のようになります。
たくさんの曲線の組み合わせで、ジャンクションはできていた
それでは、クロソイド曲線は、どのように実際のジャンクションに使われているのでしょうか。鈴木さんに説明してもらいました。
写真は、私も大好きな「三郷ジャンクション」(埼玉県)。外環と常磐道、首都高をつなぐジャンクションです。綺麗な曲線が幾重にも立体交差するその美しさは、見る者を惹きつけて止みません・・・。
この中にも多数のクロソイド曲線が含まれているそうです。
う~ん、私にはさっぱりわからない。そこで、クロソイド曲線を色分けしてもらいました。
するとビックリ! 思っていたより以上に円と直線に挟まれるようにクロソイド曲線が使われていました。
オレンジ色の部分がクロソイド曲線です。異なる2本のクロソイド曲線がS字につながっている箇所(オレンジと濃いオレンジで色分け)があるなども見て取れます。
鈴木さんに解説をお願いしました。
「例えば設計速度が時速100kmの高速道路の場合、その速度で走行していれば、慌てることなくゆっくりとハンドルが切れるように設計されています。直線と円のつなぎ目には、設計速度に応じたクロソイド曲線が採用されているんです。そのため、ジャンクションなどカーブの多い場所のドライバーの動きとしては、直線からクロソイド曲線(オレンジ部分)に入る時はゆっくり一定の速度でハンドルを切り、円に入るとハンドルを固定、その後また、一定の速度でハンドルを戻す(オレンジ部分)・・・という安定した操作の繰り返しになります。これにより、車に一気に遠心力が働くこともありません。ただし、クロソイド曲線に安心せず、あくまでもスピードは出し過ぎずに安全運転でお願いいたします」
※4000R以上の円には、一般的にはクロソイド曲線は使用されていません。
なるほど・・・。話としては分かりましたが、実際にはクロソイド曲線を使うことで、どれくらいカーブの運転が楽になるのでしょうか。
なんちゃってエジソン得意の実験で、体験します!
※クロソイド曲線の設計速度は時速30km。設計速度が変わるとクロソイド曲線の曲率も変わります。
クロソイド曲線のあるなしを、実際に走って体験してみた
「直線から円に入るカーブ=ここでは仮に『円カーブ』と名付けます」と「直線からクロソイド曲線を介して円に入るカーブ=これも仮に『クロソイドカーブ』と名付けます」の2つのコースをつくって、車で走行してドライバーのハンドル操作と車内にかかる遠心力を比較検証したい。でも、私たちでは正確なクロソイド曲線のコースは描けません。
そこで、引き続きNEXCO東日本の鈴木さんにご協力を要請し、クロソイド曲線を描くための資料を作っていただきました!
圧倒的な数字の量に一瞬、目を覆いたくなったのですが、エジソンスタッフがコースを計測して、この座標を地道に拾いながら、クロソイド曲線のコースを描いていきました。
車内の目に見えない遠心力の変化を確認するために、ルームミラーに蛍光イエローの振り子をぶら下げました。この振り子の揺れ方にも注目します。
こうして「円カーブ」と「クロソイドカーブ」の2つのコースをつくり、それぞれを実際に車で走行して実験します。
クロソイド曲線は安全曲線だった
エジソンスタッフが運転する車に横内が乗り込み、実験をスタート!
まずは、「円カーブ」のコースから実験です。車がスピードを上げ、時速30kmをキープしたままカーブに差し掛かりました! と、その瞬間、ドライバーは手早く、若干慌て気味にハンドルを切りました。振り子は一気に傾き、最もキツイ角度に振れます。
ちょっとでもハンドルを回すのが遅れるとコースアウトしてしまうのでは・・・と、助手席の横内も不安になるような運転でした。私の体も思わず、遠心力で運転席側に引っ張られてしまいましたね。
続いて、「クロソイドカーブ」で実験スタート。こちらも時速30kmに到達、ドライバーは・・・全然慌てる様子はありません。それどころか比較的ゆっくりハンドルを切っていました。そして振り子も、徐々にゆっくりと傾いていきました。円カーブと比べて、振り子が激しく揺れることはありませんでした。
また、不思議だったのが、体感としてどこからカーブの入り口だったのかよく分からなかったことです。助手席の横内が遠心力で運転席側に引っ張られるようなこともなく、安心して車に乗っていられましたね。
「円カーブ」と「クロソイドカーブ」の2つの振り子の様子を、こうして見比べると、最終的に振り切れる角度は近いように感じました。
恐らく最終的にかかる遠心力は同じなのではないでしょうか。
ただ、円カーブでは一気にハンドルを切る必要があるため、遠心力の最大値が短時間で体にかかり、クロソイドカーブでは、徐々にハンドルを切っていくため、遠心力の最大値に到達するまでの時間が緩やかになるようです。これが、結果的に人体にかかる影響(負担)が少ないカーブ、ということになるのだと思います。
そういえば、NEXCO東日本の鈴木さんが、身近な例を使って分かりやすく解説してくれていましたっけ。
「遊園地のジェットコースターにもクロソイド曲線が使われています。円と直線だけで空中を縦に一回転するレールを作ってしまうと、カーブにさし掛かった瞬間に一気に遠心力が身体にかかるため、むち打ちになってしまう場合もあるそうです。そこにクロソイド曲線を挟むことで、遠心力が体にかかる勢いが緩和されます。ジェットコースターが安全に楽しめるのは、実はクロソイド曲線のおかげなんですよ」
なるほど、クロソイド曲線は緩和曲線。ジャンクションのクロソイド曲線も、見た目の美しさに加え、急激なGを緩和して安全運転を支える「安全曲線」でもあったんですね。