2020年12月15日 12:50 掲載

クルマ 宇宙に一番近いクルマたち「JAXA編」。H-IIIロケット運搬用の新型56輪車登場!

日本は独自開発したロケットを有し、各種人工衛星を打ち上げられる技術力を持つ。ここでは、ロケットを発射地点まで運搬する特殊車両や、ロケットのパーツや人工衛星など、日本の宇宙開発の最前線で活躍するクルマたちを紹介する。

神林 良輔

JAXAが新型ロケット「H-III」用に開発した、大型ロケット移動発射台運搬車、通称「ドーリー」の新型車。

JAXAの大型ロケット移動発射台運搬車、通称「ドーリー」のニューモデル。

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)が運用するロケット発射場は2か所ある。ロケットは赤道に近い地点から打ち上げるほど、地球の自転エネルギー(遠心力)を利用できて燃料の節約につながることから、どちらも鹿児島県にある。ひとつは、鹿児島市の南方、海を渡った先にある種子島宇宙センターだ。ここは総面積が970万平方mある日本最大のロケット発射場で景観も素晴らしく、「世界一美しいロケット発射場」ともいわれている。

 そしてもうひとつが、鹿児島市の南東、大隈半島の東側、太平洋に面した内之浦宇宙観測所だ(画像1)。こちらは60年近い歴史を有し、日本初の人工衛星「おおすみ」(大隅半島に由来)が打ち上げられた日本で最初のロケット発射場でもある。また、初代「はやぶさ」が2003年に打ち上げられたのもここだ。種子島宇宙センターと甲乙つけがたい美しい景観のロケット発射場だ。

JAXAのロケット発射場のひとつ、内之浦宇宙観測所。南国らしい青空と青い海、濃い木々の緑と、とても美しい景観のロケット発射場だ。

画像1。内之浦宇宙観測所。南国の青い海と青空と木々の緑が映える、種子島宇宙センターの景観と比肩する美しさ。

2台1組で移動発射台ごとロケットを運ぶJAXAの56輪車「ドーリー」

JAXA最大のロケット発射場「種子島宇宙センター」。鹿児島市の南東に位置する種子島にある。

画像2。鹿児島県にあるJAXAの種子島宇宙センター。世界で最も美しいといわれるロケット発射場だ。

 JAXAの基幹ロケット「H」シリーズ(※1)を打ち上げているのが、種子島宇宙センターだ(画像2)。同センターは種子島の東南東の海岸線に設けられており、大型ロケット発射場、大型ロケット組立棟、衛星組立棟など、打ち上げのための各種施設があるほか、液体エンジン試験場、固体ロケット試験場など、ロケット(エンジン)開発のための試験場も備える。

※1 Hシリーズ:日本独自の技術だけで開発した、液体燃料型の純国産基幹ロケットのシリーズ(それ以前のロケットは米国製の技術も使われていた)で、Hは燃料の(液体)水素を意味する。当初、2020年に最新型の「H-III」初号機の打ち上げが予定されていたが、2021年に延期された。

 ロケットの発射地点を「射点」といい、種子島宇宙センターの場合は、そこから500mほど離れたところに大型ロケット組立棟がある。「H」シリーズを製造している三菱重工から搬入された各種パーツは、この巨大な組立棟において、「大型ロケット移動発射台」(以下、移動発射台)の上に立てた状態で組み立てられる。そして燃料の注入以外のすべての準備が整えられてから、ロケットは移動発射台に載せられた状態で射点まで運び込まれ、打ち上げとなる。ちなみに、2007年から打ち上げはJAXAから三菱重工に移管され、現在は商用サービスとして行われている。

JAXAの大型ロケット発射台運搬車「ドーリー」の従来モデル。これまで、「H-IIA/B」などを発射台ごと運搬してきた。

画像3。H-IIA/Bロケットを搭載した移動発射台を組立棟から射点まで運搬するドーリーの従来モデル。1000トンを超える重量を2台で支えて運搬する。

 移動発射台の足として、2台1組で息を合わせて射点と組立棟の間で運搬を担うのが、「ドーリー」の通称で呼ばれる専用運搬車だ(画像3)。三菱重工製で、25mを超える全長のボディに56輪を備え、クルマというよりは列車に近い迫力を持つ。ドーリーは2台で移動発射台の下に入り、ロケットごと移動発射台を持ち上げ、運搬を行う(画像4・5)。

H-IIA/Bロケットを搭載した大型ロケット移動発射台は1000トンを超える。それをドーリーが下から2台でジャッキアップの要領で持ち上げて組立棟から射点まで運ぶ。

画像4。ドーリーは移動発射台の下に2台で入り、車体全体でジャッキアップする要領で持ち上げ、H-IIA/Bロケットを搭載した状態のまま射点まで運搬する。

 ちなみにロケットや衛星などを含めた移動発射台の合計重量は、通常のH-IIAロケットと、国際宇宙ステーション(ISS)用無人補給機「こうのとり」専用の推力を増強した大型のH-IIBでは大きく異なる(※2)。H-IIAの場合は、ロケット本体が約290トン、衛星・探査機の重量が最大10トンまで、H-IIA用の第1移動用発射台約850トンで、合計すると最大で約1150トン。

 一方のH-IIBの場合は、ロケット本体がより大型なので約530トン、「こうのとり」が貨物を含めて最大16.5トン、H-IIA/Bどちらにも対応している第3移動発射台が約1100トンで、合計すると最大で1650トン弱となる。この大きな重量物を支え、最高時速2kmでゆっくりと確実に運搬するのがドーリーの役目である。まさに、日本の宇宙開発を支えるなくてはならない運搬車なのだ。

※2 「こうのとり」とH-IIBロケットについて:「こうのとり」は2020年5月21日に打ち上げられた9号機で打ち上げ完了。それに伴い、「こうのとり」の打ち上げ専用であるH-IIBも打ち上げ終了。今後は、開発中の「こうのとり」の後継機「HTV-X」(「こうのとり」の正式名称は「HTV」)と、H-IIBの発展型ともいえる新型H-IIIがあとを引き継ぐことになる。

JAXA・種子島宇宙センターの大型ロケット組立棟の巨大な1枚スライドドアが開いて、ドーリーがH-IIAロケットとともに移動発射台を運搬してくるところ。

画像5。地上15階・全高81mの大型ロケット組立棟の前面にある世界一巨大な1枚スライドドアが開いて、H-IIAロケットを搭載した移動発射台がドーリーの運搬で出てくるところ。全高67.5×全幅27.0×厚さ2.5m、重量400トンという巨大スライドドアは川崎重工製。開閉は油圧駆動で行われる。

 なお、ドーリーのタイヤはパンクの危険性をなくすため、空気を使用しないウレタンソリッド製となっている。56輪の向きは90度真横に向けることも可能で(画像6)、左右真横への移動(横行)や、その場で旋回する超信地旋回も行うことが可能だ。また移動時は、路面に埋設された磁気マーカーを検知して自動走行する機能も備えている。スペックは以下の通りだ。

全長×全幅:25.4×3.3m
全高:2.84~3.44m(移動発射台運搬時に全高を高くして持ち上げる)
総重量:約150トン
タイヤ数:14軸列・56本
タイヤ素材:ウレタンソリッド
最高速度:時速2km
駆動方式:ディーゼル発電式モーター
備考:ロケットを搭載した移動発射台を積載して前進後進、横行(真横への移動)、定地旋回(その場での180度回転)が可能

JAXAの大型ロケット移動発射台運搬車「ドーリー」。56輪の向きは自由自在で、画像は真横を向いている状態。ドーリーは真横への移動や超信地旋回が可能だ。

画像6。56輪がすべて90度横を向いた状態。横行(真横への移動)や、超信地旋回(その場旋回)なども可能だ。

新型ロケット「H-III」の開発に合わせてドーリーも新型が登場

2018年に登場した、JAXAの大型ロケット移動発射台運搬車のニューモデル。

画像7。2018年に登場した、ドーリーのニューモデル。その点検中の様子。前方から見ると運転席があるので、クルマらしく見える。

 新型基幹ロケットH-IIIの打ち上げのため、騒音を従来よりも低減させる仕組みを備えるなど、移動発射台も新型が開発された。そのため、ドーリーもH-III用移動発射台を運搬することのできる新型が2018年に公開された(画像7・8)。ドーリー2018年式は56輪車である点など、従来型とほぼ同じ仕様となっているが、信頼性や運用性などの点で向上が図られている。なおH-III専用ではなく、従来のH-IIA/B用の移動発射台の運搬も可能だ。

 ドーリー2018年式の信頼性は大幅に高められており、万が一故障しても30分以内に復旧して運搬作業を継続できるという。そして、これまでの運用経験を活かし、メンテナンスしやすいよう部品の配置に工夫がなされている。

 それらに加え、維持費の低減にも力が入れられた。まず部品は汎用のものを多用したという。そして、これまで定期的に人の目で点検していた項目の一部に対してセルフチェック機能を導入。健全性データをモニタリングし、定期的に行うのではなく必要になったときに必要な点検を行うことで、年間のメンテナンス費用を従来の半額以下に抑えたとしている。

JAXAの大型ロケット移動発射台運搬車の新型2018年式を上方から。まさに列車のようである。

画像8。ドーリー2018年式の整備中の様子を上方から。横方向から見ると、もはやクルマには見えず、列車である。

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ロケットや衛星などの輸送の様子を紹介

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