2020年09月09日 10:30 掲載
クルマ JAXA×トヨタの月面探査車「ルナ・クルーザー」。なぜ燃料電池が必要なのか?
JAXA×トヨタで開発中の月面探査車「ルナ・クルーザー」のイメージ(正面)。
2020年代は、米中露欧に加えて宇宙開発の新興国インドなど、世界中の複数の国や地域が月を目指す計画を発表している。しかし、50年前のアポロ計画ですでに人類は月に到達しており、今さらなぜと疑問に思うかもしれない。「次は火星では?」と。
アポロ計画は、宇宙飛行士を月に送り込むことが大きな目的であった。結果として、科学的にも大きな成果があったが、米ソの覇権争いの中、大国同士が多額の国家予算と大量の人員を動員し、威厳をかけて有人月着陸を競い合ったのだ。
それに対して2020年代以降の計画は、月の具体的な"利活用"が目的となる点が大きな違いだ。どの国や地域にとっても、もはや月は行けるかどうかではなく、月の資源をいかに活用するかがポイントになっている。また米国や日本などは、国際協力による火星への有人探査を推し進めるため、その前線基地とすることも目的としている。
日本は、米国を中心とした国際協力による月面開発計画に参加することを表明した。その一環として、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、月の資源を利用できる可能性を調査するための「月極域探査ミッション」を、米国とともに、2029年から2034年までの間に5回にわたって実施するという構想を練っている。このミッションにおいて中核をなすのが、月面に降り立った宇宙飛行士の移動手段となる有人与圧ローバ「ルナ・クルーザー」である。
「ルナ・クルーザー」の前方からのイメージ。右は同スケールで描かれた宇宙飛行士。
「月極域探査ミッション」ではどのような活動が行われるのか
「月極域探査ミッション」では、宇宙飛行士が「ルナ・クルーザー」で移動し、極域の探査を行う。岩石サンプルの採取や現場での分析なども行われると予想されるが、"水の探索"も行われるはずだ。というのも、月の極域のクレーター内には、角度的に太陽光が当たらない"永久影"と呼ばれる極寒のエリアがある。NASAの月探査衛星などにより、そうした永久影に彗星が運んできたと思われる水が氷の形で存在しているようなのだ。
そこで、日本だけでなく月探査を計画する各国が極域を調査する計画を立てており、実際に氷があるのか、それがメタンなどではなく水の氷なのか、またどれくらいの量があるのかを調べようとしているのだ。水があれば、月面に恒久基地を建設したとき、宇宙飛行士の飲料水や生活用水、機器の冷却水などに使える可能性や、電気分解することで燃料電池の燃料となる水素を作れる。
「ルナ・ローバー」は車内が与圧されており、宇宙飛行士2名が宇宙服を脱いで搭乗することが可能だ。万が一の故障を考慮し、2台に2人ずつ乗り込んでペアを組んで移動。もし1台が故障した場合は、緊急事態として残りの1台に4人が乗って有人着陸機のある探査拠点まで引き返すという、宇宙飛行士の安全を最優先してミッションは行われる。それに加え、探査エリアも拠点からあまり離れずに100km以内とする予定だ。
「ルナ・クルーザー」の側面からのイメージ。左側面にだけにある長い筒状のパーツの中に、太陽光電池パネルを収納している。
探査エリアは5か所の予定で、2029年から2034年まで毎年1回行われる。1回のミッションに要する日数は42地球日。もしも、月の自転1回転を1月日とするなら、約1月日半である(月は約27日で1回転)。ちなみに、宇宙飛行士が帰還して無人となったあとは、自動運転で「ルナ・クルーザー」は次の探査エリアへと向かうことになる。
"必ず生きて帰ってくる"というスピリットを引き継いだその名
JAXAがその困難な開発を達成できるとして協力を要請したのが、トヨタだ。同社はそれに応えて2018年5月より概念検討をスタートさせた。そして2019年7月に2019~2021年度の共同研究協定が両者間で締結され、本格的な開発がスタートしたのである。
"クルーザー"とつくことから、トヨタの4WDクロスカントリー車「ランドクルーザー」を思い浮かべる人も多いことだろう。実際、同車にちなんで命名されている。そこには、"必ず生きて帰ってくる"という同車に与えられたスピリットや、その品質、耐久性、信頼性を、月面という過酷な環境で使用する「ルナ・クルーザー」にも引き継いでいきたいという想いが込められているという。
トヨタ「ランドクルーザー」(200系)。世界屈指の高い不整地踏破能力を有する。
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