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クルマ最終更新日:2020.02.03 公開日:2020.02.03

省エネ法改正でEVがトップランナー制度に追加。次期燃費基準算定法も変更

政府は「エネルギーの使用の合理化などに関する法律施行令の一部を改正する政令」を2020年1月21日に閣議決定した。改正点は、燃費基準の向上を促すトップランナー制度の対象に電気自動車が追加されることだ。同時に2030年度燃費基準の算定方法に「Well to Wheel」が加わることになった。

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ガソリン車とEVの給油・給電のイメージ図

ガソリン車とEVの給油・給電のイメージ図 © petovarga – stock.adobe.com

トップランナー制度で全体の燃費を向上させる

 「エネルギーの使用の合理化などに関する法律」は、1970年代の石油危機の経験を経て1979年に制定されたもので「省エネ法」とも呼ばれている。工場や輸送、建物、機械で使われるエネルギー(石油、ガス、電気)の省力化を企業に求めるものだ。

 この法律に1998年から追加されたのが、民生・運輸部門の省エネ施策である「トップランナー制度」。トップランナー制度は、現段階でエネルギー消費の効率のもっともよい製品(トップランナー)をベースに、将来のエネルギー消費の基準を定める。そして、他の製品もトップランナーと同等以上の効率を達成するように、生産者・輸入者へ求めることになっている。

トップランナー制度

現時点(基準設定時)で一番燃費の良いクルマが、目標年度の「燃費基準」となるのが、トップランナー制度。 出典:経済産業省

 トップランナー制度を開始した当初の対象機器は、自動車やエアコンなどの11品目だったが、改正のたびに品目は増え、2019年には32品目が対象となっている。そして今回の改正では、自動車にEV、建築材料の残熱材に硬質ポリウレタンフォームが新たに加わることになった。

 同制度で、クルマに課せられているエネルギー消費効率は燃費だ。将来の目標は「20XX年 燃費基準」という名で設定され、各メーカーには202X年までに燃費2X km/Lを達成するよう促される。たとえば、それを達成した証が、クルマのリアウインドーなどに貼られている、「2020年度 燃費基準達成車」と入れられた緑色の楕円形ステッカーになる。

燃費基準達成車ステッカー

トップランナー制度の2020年度燃費基準を達成したクルマに貼られるステッカー。中央の+30%という表示は、当該車種の燃費が、基準値より30%伸びていることを示す。 出典:国土交通省

EVの消費電力量をガソリンの燃費に換算

 閣議決定された政令は202041日から施行される予定だ。施行されれば、EV・プラグインハイブリッドは2030年度のトップランナー制度の対象に追加されることになる。

 EV・プラグインハイブリッドが追加されることによって、2030年度の燃費基準の算定方法を見直す必要が出てくる。ガソリン、軽油、LPガス、電気というようにエネルギーの種類が増えるだけでなく、エネルギー消費の方法もエンジン、モーター、両者の併用と多様化する。また併用についても、従来のハイブリッドとプラグインハイブリッドでは異なる。燃費の算定と単位にしても、EV・プラグインハイブリッドは交流電力量消費率「Wh/km」という1kmを走るのに必要な電力(ワット時:Wh)というもの。対してガソリン車は1リットルのガソリンで何km走れるという「km/L」。消費者から見ても、ガソリン、軽油、LP、EV、プラグインハイブリッドのどれが、いちばんエネルギー消費効率がよいのかも見えにくい。

 そこで国土交通省と経済産業省は、2020年度のガソリン車の燃費基準とEV・プラグインハイブリッドの電費を比較するため、交流電力量消費率に、ガソリンの発熱量に換算する係数9140で割ったもので、直接比較を行うという案を公表している。ちなみに、軽油やLPガスにもガソリン車と比較するための係数がある。

2020年度燃費基準とEV・プラグインハイブリッドを比較する具体的な算定方法(案)

9140÷交流電力量消費率「Wh/km」

2030年度採用を検討している算定方法「Well to Wheel」

 係数によってエネルギーや消費率が異なるクルマ同士を比較したが、一方で燃費を算定する考え方にも異論が出始めている。

 そもそも燃費は、クルマの燃料タンクや電池に貯めたエネルギーの消費効率だけで算定する、Tank to Wheel(以下TtW)という考え方だ。意味は「タンクから車輪まで」。クルマの燃料タンク・電池から、車輪を動かすまでに限ったエネルギー消費効率を比較している。これはクルマ単体にとどまった視点の考え方だ。

 これに対して、より上流からの視点に立って、ガソリン精油・輸送や発電・送電といったクルマに給油・給電されるまでのエネルギー効率も考慮すべき、という考え方に注目が集まっている。この考え方を”Well toTank”「油田からタンクまで」(以下WtT)と呼んでいる。

 近年になるまでクルマのエネルギー源はガソリンなどの石油を原料としたものが主流だったため、TtWによる評価で十分だった。どのクルマもWtTに大差がないためである。しかし電気や水素などをエネルギー源とするクルマが商品化されると、TtWの差を論じてもWtTが異なるので公平性が担保されていないという声が出てきた。

 そこで政府はクルマ単体ではなく、クルマ1台を動かすのに社会で消費しているエネルギー量を算定する方法Well to Wheel(以下WtW)を、2030年度の燃費基準に取り込むことを公表した。WtWとは「油田から車輪まで」という意味で、WtTとTtWの両方をあわせた枠組みでエネルギー消費効率を考えることだ。

Well to Wheelの概念図

赤がTtWの部分。青がWtT。両者を足してWtWとなる。2030年度燃費基準に採用予定のWtWは国内に限定。なお過去の燃費基準と比較するため、TtWによる燃費公表も継続される。 出典:経済産業省

 将来はガソリンや電気だけがクルマのエネルギー源とは限らない。たとえば、すでに商品化されている水素による燃料電池車もWtWで算定すると違った側面が見えてくるかもしれない。そのような多様性に対応するためにも、WtWによる算定法へのシフトを、政府は検討しているのだ。

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