クルマの冬支度。冬を前に必要な準備とは
まもなく冬本番となりますが、寒冷地を走る場合、「クルマの冬支度」は欠かせません。タイヤやチェーンの準備はもちろんですが、そこには意外な見落としもあります。本格的な冬に”夏仕様”で突入することがないよう、計画的に準備を進めたいものですね。ここでは、過去の「JAFユーザーテスト」の結果から、冬支度に必要なことを整理しました。
タイヤ・チェーン
「クルマの冬支度」でドライバーなら真っ先に思い浮かべるのが、冬タイヤへの交換でしょう。1本のタイヤはハガキ1枚分ほどの接地面でグリップしています。クルマの重さをたったそれだけで支えているのですから、その重要性は言わずもがなです。
一方で「そうはいってもタイヤは高いし、少しの雪なら替えなくても走れるし」との声もよく聞きます。雪道でも平坦路ならノーマルタイヤ(夏タイヤ)で走れてしまう場面もあるからかもしれません。しかし、「走る」ことはできても「止まる」、「曲がる」については、雪や凍結路にめっぽう弱いのがノーマルタイヤの特徴です。
ノーマルタイヤとスタッドレスタイヤの制動距離を比較したテストがあります。スタッドレスタイヤがおよそ17mで止まれた圧雪路で、ノーマルタイヤは約30mもかかって止まりました。その差は約13mで、小型車3台分の距離が余計にかかったことになります。止まり切れずに、信号待ちをする車に追突するといった危険性がぐっと高まるわけです。
ではノーマルタイヤにチェーンを装着した場合はどうでしょうか。結果は28m以上かかって止まりました。ノーマルタイヤよりは短く止まりましたが、スタッドレスタイヤに比べると心もとない結果になりました。雪の降らない地域のドライバーのなかには「チェーンがあるから大丈夫」と、ノーマルタイヤでスキー場に行くことがあると思われますが、この制動距離の差ひとつとってみても危険と言わざるを得ません。
ただし、スタッドレスタイヤだからといって過信は禁物です。凍結した道路を模した「氷盤路」でのテストでの制動距離は78.5mもかかっているからです(このときのノーマルタイヤはおよそ105m!)。
では、「曲がる」についてはどうでしょうか。半径20mの円状のコースを走るテストでは、スタッドレスタイヤだと時速40kmで走ることができましたが、ノーマルタイヤでは時速30kmで外側に大きく膨らみコースを外れました(写真上)。
また、ノーマルタイヤにチェーンを装着(前輪)した場合では、前輪と後輪のグリップ力の差が大きく、時速30kmで急に後輪が滑り出し、前輪を軸にスピンしました。深雪路や凍結路で強みを発揮するチェーンですが、特にノーマルタイヤに装着する場合は、クルマの挙動が不安定になりやすいので注意が必要です。
以上のことから、路面に雪があるときだけでなく、雪の予報が出ているときや低温で路面凍結が予想されるときは、ノーマルタイヤでの走行は控えるようにしましょう。
バッテリー
バッテリーは寒くなると性能が低下します。JAFロードサービス救援依頼の中で「過放電バッテリー」が占める割合は7月・8月が30%程度なのに対し、1月や2月になると35%程度に上がります。
低温下でバッテリーの性能がどうなるのか調べたテストでは、新品のバッテリーと使い古したバッテリーで差が出ました。このテストは氷点下10度以下の北海道で実施。エンジン始動に使うセルモーターを何回回せるのかというものです。セルモーターは1回あたり15秒間回し続けるという、バッテリーにとっては過酷なテストでした。
結果は、新品バッテリーでは25回回しても性能の低下が見みられなかったのに対して、4年間通常使用してきたバッテリーは、1回目からセルモーターが弱々しく、12回目以降は際立って回り方が弱くなりました。21回目以降はセルモーターが回りはしたものの、途中で止まってしまいました。テスト前にはどちらも満充電し、電圧は両方とも12.6Vでしたが、古いバッテリーはそれだけ性能の低下が内在していたということになります。
最近のバッテリーはぎりぎりまで性能を維持できるようにできているので、長い間使っても性能の低下が分かりにくいという特徴があります。ですから、「昨日まで普通にエンジンがかかっていたのに、突然かからなくなった」ということも珍しくありません。使用状況にもよりますが、2年以上使っているバッテリーの場合は、性能低下が進んでいると考えディーラーや整備工場で点検してもらいましょう。
冷却液(LLC:ロングライフクーラント)
エンジンを冷却するのに使われている液体がLLCです。このLLCの濃度が薄いと、寒冷地では凍ることがあります。LLCが凍るとエンジンの冷却ができなくなってエンジントラブルになったり、LLCが通る管やパイプなどが破損する恐れがあります。テストでは気温が氷点下10度以下の環境で一晩放置しました。結果、通常濃度(30%)のLLCはシャーベット状になりましたが(写真上)、寒冷地仕様(濃度50%)のLLCは凍りませんでした。寒い場所を走る前にあらかじめディーラーや整備工場で濃度を上げておくことをお勧めします。
ウインドーウオッシャー液
ウインドーウオッシャー液も凍るので注意が必要です。特に寒い地域の高速道路を走る場合は、前走車が跳ね上げた融雪剤がフロントガラスに付着して視界が非常に悪くなることがあります。走行中、これを除去するのにウインドーウオッシャーが必須です。ところが、ウオッシャー液をフロントガラスに噴射するや否や瞬時に凍り付いて視界を奪い、とても怖い思いをしたというドライバーの声を聞きます。
これを防ぐためには、走行前にウオッシャー液の濃度を上げておく必要があります。テストでは、気温が氷点下10度以下の環境で一晩放置しました。濃度30%のウオッシャー液は完全に凍り(写真上)、濃度50%でもほぼ凍結しました。一方で原液のままのウオッシャー液は凍らなかったことから、なるべく濃い状態にしておくとよいでしょう。
軽油
ディーゼルエンジン車の燃料は軽油です。この軽油、実は凍るって知っていましたか? 軽油は、温暖な地域のガソリンスタンドで販売されているものと、寒冷地で販売されているものでは仕様が異なります。このため、温暖な地域で給油してスキー場などへ出かけた場合、軽油の凍結が原因でトラブルになることがあります。
テストでは、気温が氷点下10度以下の環境で一晩放置しました。一般用の軽油は一部がシャーベット状になり(写真上)、一般用と寒冷地用を50%ずつ混合したものは、凍りかけました。一方で、寒冷地用の軽油は凍りませんでした。
軽油が凍結すると、エンジンを損傷する可能性が出てくるので、現地で寒冷地用の軽油を入れるようにしましょう。