2019年08月06日 13:50 掲載
クルマ ハーフカットモデルで迫る現行車種の内部メカニズム!「フィット」&「レジェンド」編【クルマ解体新書】
5代目「レジェンド」に採用された世界初の3モーター式4WDハイブリッドシステムとは?
ホンダの5代目「レジェンド」のハーフカットモデル。同カットモデルも次世代自動車支援センター埼玉の依頼で製作された。
2015年に登場した5代目「レジェンド」も埼玉県産の車種で、生産工場は狭山工場。5代目「レジェンド」最大の技術的な特徴は、前部に1基、後部に2基のモーターを搭載した、世界初の3モーター式AWDハイブリッドシステム「SPORT HYBRID SH-AWD」を搭載していること。同システムは、走行モード(EV、ハイブリッド、エンジン)と駆動方式(前輪、後輪、全輪)をドライバーからの要求や走行状況に応じて、連続的にかつ自動的に切り替えるというものだ。インテリジェントなハイブリッドシステムなのである。
5代目「レジェンド」のエンジンとハイブリッドシステム。エンジン、前部モーター「H2」、後部モーター「H3」×2基によるシステム合計の最高出力は416馬力、最大トルクは665N・m。(1)ブレーキ用電動サーボ。電動サーボブレーキは、「レジェンド」用に調整済み。(2)排気量3471cc・V型6気筒直噴SOHC・i-VTECエンジン「JNB」。(3)湿式デュアルクラッチ。摩擦熱を短時間で冷却できる湿式が採用されている。(4)ギアチェンジ用アクチュエーター。(5)高出力モーター内蔵7速DCT。エンジンなどとのバランスを考慮し、トルク重視型の高出力モーターが内蔵されている。(6)エアコン用コンプレッサー。(7)アクティブ・コントロール・エンジンマウント。エンジンの振動を能動的に打ち消す仕組みを備えたエンジンマウント。エンジンの低振動性を大きく高めた。
フロント部分を左サイドから。(1)i-VTECエンジン「JNB」の左右それぞれのバンク。(2)湿式デュアルクラッチ。(3)ギアチェンジ用アクチュエーター。(4)デュアルクラッチ用ブースター。(5)ブレーキ用電動サーボ。(6)高出力モーター内蔵7速DCT。
「レジェンド」のフロントの足回りは、サスペンションがダブルジョイント式ダブルウィッシュボーン。ロアアームがダブルジョイント式となっており、一般的なA型ロアアームに対し、タイヤの転舵中心であるキングピン角(キングピン軸の傾き)を大きくでき、直進安定性、操舵応答性、そして乗り心地を向上できるのが特徴。ブレーキはベンチレーテッドディスク(回生ブレーキ・電動ブレーキサーボ装備)。
左フロントタイヤの辺りからリアを見たところ。(1)シート下に見えるのはパワードライブユニット。(2)ガソリンタンク。(3)リチウムイオンバッテリー及び制御機器。
「レジェンド」の後輪を駆動させるのが2基のモーターを組み込んだTMU(ツイン・モーター・ユニット)。TMUは走行モードがAWDのとき、エンジンの動力によりフロントモーターが発電した電力で駆動する。TMUは、コーナリング時に路面状況やコーナーの回転半径などに合わせ、内輪をマイナストルク(回生ブレーキをかけ、外輪よりも回転数を減らす)で駆動して、内向きのヨーモーメントを発生させる。同時に内輪の回生ブレーキで発電した電力を外輪のプラストルク駆動に利用する仕組みだ。(1)リチウムイオンバッテリーとDC-DCコンバーター、バッテリーECU。左リア用モーター。(3)ガソリンタンク。
TMU(ツインモーターユニット)の左側のモーターのアップ。後輪を左右それぞれ別のモーターで駆動する仕組みは、スーパースポーツの2代目「NSX」にも採用されている機構。
リチウムイオンバッテリーとその制御機構のアップ。(1)DC-DCコンバーター。(2)リチウムイオンバッテリー(青い機器)。(3)バッテリーECU。
「レジェンド」は右リアドアも外され、フレームが見られるようになっていた。色は、引っ張り強度の違いを表す。赤は引っ張り強度1500MPaの超高張力鋼板。青は590MPa、黄色は980MPa。近年、センターピラーなどは1000MPa以上の超高張力鋼板を採用し、薄く細くしながらも必要な強度を維持し、軽量化が進められている。ただし衝突安全性能上の観点から、全フレームを超高張力鋼板に置き換えればいいというものではない。壊れることで力を受け止める部分も必要なため、引っ張り強度が低いものも同時に使用されているのだ。
「レジェンド」をリア方向から。「レジェンド」のリアの足回りは、マルチリンク(ウィッシュボーン)式/トーションバー。A型アッパーアーム、2本のロアアーム、コントロールアームの計4本で構成されている。
こうして現在のクルマの内部を見てみると、驚嘆することしきりだ。スペースが限られている中で、より高性能にするため、新規のものと従来からのメカニズムをコンパクトにまとめ、無理なく収めている点には感心させられる。しかも、新しいメカニズムは搭載すればいいという話ではなく、メンテナンス性も重要だし、また生産性の問題もあるのだ。ハーフカットモデルを見ていると、単に内部のメカニズムだけでなく、クルマが誕生して百年以上の時間を使ってここまで進化するため、どれだけ多くの開発者の英知が結集されているのかということも見えてくるのである。今後もクルマの限られたスペースに新しい技術を搭載し続け、とどまることなく進化していくのだろう。埼玉自動車大学校の学生によるハーフカットモデルは、その歴史を記録していくのだ。
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