いいクルマ、いい空間、いい演出。モビショーを歩いた僕らの本音━━YOKOHAMA Car Sessionの「ジャパンモビリティショー2025」潜入レポ!
11月、東京ビッグサイトで開催されたジャパンモビリティショー2025。会場を歩いたのはYOKOHAMA Car Sessionのカーマニア3人組。クルマだけじゃない、モビリティに興味を持ってもらうための、趣向を凝らした演出に思わず足が止まる。気づけば僕らは「演出」の話に夢中だった。
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目次
■YOKOHAMA Car Session(YCS)とは?
“35歳以下”のクルマ好きな若者たちが集う自動車イベント「YOKOHAMA Car Session(ヨコハマカーセッション)」の主催者である、後藤和樹、本田浩隆、甲野大輔で結成した3人組のグループ。
YCSのメンバー3名。左から後藤和樹(愛車:いすゞ ピアッツァXE)、本田浩隆(愛車:シトロエン BX19TZi)、甲野大輔(愛車:ホンダ S2000)。トヨタ「KAYOIBAKO」前にて。
クルマ好きな僕らが、モビショーで心に残ったポイントを自由に語り合う座談会企画。「クルマ編」「ブース編」「まとめ編」の3部構成の中から、今回はメーカーの見せ方が光った「ブース編」をピックアップする。
ポール・スミスご本人登場で大興奮のMINIブース
本田 さて、いろいろなブースがありましたが、今回はどうでした?
甲野 すごくシンプルに言うと、「トヨタがすげぇ」。
本田 まあホール丸ごとですからね(笑)。
後藤 それを言っちゃうとね(笑)。みんなの共通認識としてトヨタはすごかったんで、また後で語るとして、他のブースはどうだった?
甲野 コンセプトカーじゃないんだけど、ポール・スミス・ミニ。MINIブースの展示方法は素直にクルマが欲しくなるよね。
後藤 MINIのロゴの横には巨大なキーリング型のオーナメントがぶら下がっていたり、オリジナルのポール・スミス・ミニやアパレルとか、木箱とかいろんなマテリアルが使われていて世界観が良かった。
手前にあるモデルは「MINI ポール・スミス エディション」。アパレルショップのように展示されたブースの奥上段にはガソリン車を電気自動車にコンバージョンした「MINI リチャージド by ポール・スミス」の姿が! こんなお洒落な置き方されたら絶対に見ちゃうよね。
甲野 MINIブースはアパレルショップに入ったような感覚があった。クルマもお洒落なんだけど、“クルマを着る”感覚を体現していたと思う。
本田 そうだ、ポール・スミス・ミニと言えばさ!
甲野 なんとサー・ポール・スミス本人と写真を撮らせてもらって! 一緒に来ていたカメラマンさんまで写っちゃったりして(笑)。
後藤 いろんな意味で、思い出に残ったブースだった(笑)。
まさかポール・スミスご本人と一緒に写真が撮れるなんて!
ライブ感を情景に落とし込んだ演出が好き
後藤 ほかに展示方法で目を引いたブースはあった?
甲野 俺はスバルかな。ど真ん中に置いてあったのがレオーネ!(※GLファミリー・ハックスター)こんなに新しいクルマが並ぶ中で、魔改造したアナログカーがセンターだってことにビックリした。
後藤 しかも北米で展開されているウィルダネスシリーズが出ていて、今までのスバルブースと違う世界観の作り込みを感じたよね。
本田 スバルブースだと、個人的にはフォレスター・ウィルダネスの展示が良かった。砂地の上に置かれたクルマのルーフラックにカヌー載せていて、こういう使い方がまた似合うんだ。
後藤 今までも床の木目を変えるとか、タイルを変えるとかで空間を表現してたけど、情景そのものを作り込んできているのが印象的だったな。
スバルのレオーネ・ツーリングワゴン(1983年)を、HOONIGANとトラビス・アラン・パストラーナとでチューンした「GLファミリー・ハックスター」。まさか、こんなモンスターマシンがスバルブースのセンターを飾るとは……。
本田 三菱ブースはデリカがダイナミックな展示していたよね。わざわざタイヤを泥で汚してステージに搬入して、そのまま斜め45度の状態で展示してるっていう。
後藤 個人的には、ボディも汚しておいて欲しかった(笑)。
本田 確かにね! でも時間が経ってもデリカってやっぱりカッコいいし、唯一無二で変わらない良さがある。
10月30日に大幅改良された「デリカD:5」。三菱は東京オートサロンでもトライトンが壁を突き破っていたし、ダイナミックな演出でみんなをワクワクさせてくれる。
甲野 ラリーで優勝したトライトンは、傷とか細かな泥汚れはそのままで展示されていたのが良かったね。
後藤 そう。ボコボコで泥だらけになっているのも含めて、勝った勲章だから。
本田 戦い抜いた証が、クルマについた傷であり、その傷ひとつひとつにもドラマがあるからね。
誰が言うでもなく、三菱ブース内に隠された「デリ丸。」を探すスタンプラリーをクリアしてしまう3人。メーカーが用意した演出は全部楽しむのがYCSの流儀!
モビリティの未来を体験できる「Future Tour」、今回の演出は?
後藤 俺の中で絶対に外すことのできないモビリティショーのブースが「Tokyo Future Tour 2035」エリア。クルマ編でも話をしたけど、そもそもモビショーって来年、再来年に出ますっていうクルマの話をする場じゃないなって思っていて。未来がこうなっていると楽しいよねっていう世界観を俺的には見たいんだよね。
甲野 例えばバック・トゥ・ザ・フューチャーの世界みたいな? ホバーボードがあって、とか?
後藤 俺はだから、前回から始まったFuture Tourが結構楽しみだったね。
甲野 実は前回も3人でモビリティショーの会場を見て回ったんだけど、後藤は真っ先にFuture Tourに行きたいって言っていたよね。
Tokyo Future Tour 2035入口。テーマパークのようなワクワク感がいいよね。
本田 実際、見てどうだった?
後藤 これに関しては正直言って、2年前の方が良かったね(笑)。前回って明確なビジョンがあって、それを寸劇っぽく仕立てていたのが、すごくわかりやすかった。
甲野 今回はブース全体で演出というよりも、個々でやっている感じがちょっと強かったかもね。
後藤 そうそう。個々でやっていることは良いと思うんだけど、共通のテーマとか一貫性はなくて「それぞれを見てってね」っていうふうになっていたのが、ちょっと残念だったかなあ。
甲野 前回って確か、災害とか今後の社会問題を解決するためには、こういう風にやらないといけないよねっていう中で、各社が知恵を持ち寄りました、みたいな感じだったよね。
後藤 イエス。俺はその時の世界観がすごく楽しかったから、今回もかなり期待していたんだけどねぇ。でも代わりに、俺は1つ貴重な体験をさせてもらったんだよ!
本田 ミズノの「MOBILARIA β(モビラリア ベータ)」ね。
ミズノが考える未来のモビリティのひとつ、炭素繊維強化プラスチック板バネを使用したフットギアコンセプトモデル「MOBILARIA β」
後藤 そう! そのシューズをデザインした山本卓身さん(※代表作として「GT byシトロエン」のデザインを担当)とお話できたんだけど、その内容にすごく共感しちゃって。MOBILARIA βってもともとのアイデアは、スポーツ用の義足なんだよね。
本田 パラリンピックの陸上100mとかで使うやつね。
後藤 それをベースにして作ったっていうことなんだけど、単純に速く走るとか、そういうことではなくて、あのフットギアも新しいモビリティだと。そういう解釈でデザインされたっていうのが、すごく「あぁ、なるほど」って思っていて。
甲野 確かに移動って一番初歩に立ち帰ると、自転車って言いそうになったけど、それ以前に自分の足で歩くっていう話から始まるもんね。
カーデザイナーの山本卓身さんから、貴重なお話をじっくりとうかがえたYCS。
後藤 そうなんだよ。で、山本さんの話によれば、100年以上前にヘリコプターとかクルマっていう新しい乗り物が誕生しますってなったとき、世間は「なんだよそんなもん。危ねえし、怖えし、そんな動力で人間が移動できるわけねえだろ」っていう風に揶揄していたと。ところが現代を見渡せば、それらは今では当たり前の乗り物として残っている。
本田 当時、いつか未来のモビリティの時代が来ると信じた人がいたから、今のクルマ社会があるんだね。
甲野 いつ来るかは分からないけど、未来を信じないと何も始まんないよと。
後藤 そう。でね、まだ続きがあるんだ。いつの時代も人は見慣れないものや理解できないものに対して拒否感を示すもの。だけど、それを変えることができるのがデザインの力だよ、っていうふうに山本さんがおっしゃっていて。いやもう、ものすごくわかるなあって胸をつかまれちゃって。
俺自身の仕事がデザイナーってのもあるんだけれどね。そういう考え方でモビリティっていうものが、クルマ以外のものに普及していくっていう面白さなんかに、俺はすごいワクワクしたんだよね。
甲野 俺らは大のクルマ好きでやってきているけど、もしかしたら今後、新しいモビリティができて、そこから新時代のエンスー(熱狂的なファン)が生まれる可能性もあるかもしれないね。
後藤 俺はそういうのも含めてね、いろいろな人たちの「移動を楽しくしたい」っていう考えが一堂に会している場所っていうのが、モビリティショーないしFuture Tourだと思っていて、やっぱワクワクしたよね。
甲野 もし2年後のモビショーでもFuture Tourのブースがあるとしたら「今こういう問題が起きています。だからその問題を解決して、こんな未来にしたいです」っていうところに、1本スジが通っていると、見てる側としては面白いかもね。
本田 その点で言うと前回はさ、こういうビジョンですっていうのが明確だったから、多分一般の人にもわかりやすいと思うんだよね。こんな未来があったら面白いね、こんな技術あるんだ、みたいな。
後藤 俺はそこに、次回以降も期待したいって思う。
“トヨタグループ”だからできた、圧巻の演出
南棟1F入口にはドーンとTOYOTAの文字が! スケールの大きさに期待が膨らむ3人。
甲野 トヨタブースに行って思ったのは、トヨタって社会インフラを作っているんだなって。トヨタグループの総力を上げて、ダイハツからセンチュリーまで、すべてのユーザーのために隙間なく、いろいろな車種で埋めていて、あぁ、これが世界のトヨタグループか、って実感できる展示でもあったよね。
後藤 ラインナップの充実ぶりもすごかったんだけど、ショー空間のデザインを生業としている俺の立場で見ても、今回のトヨタはやっぱりすごいと思った。1F南ホールが全部トヨタグループだったのは事実なんだけど、グループ感っていうものを強く意識させられたんじゃないかな。
トヨタとダイハツの説明員の方って同じ白いツナギだったでしょ。あれって、トヨタの最初の工場が白いツナギだったことに由来しているんだって。だから、それのオマージュをダイハツがやっているっていう、今までなら考えられなかったメーカー同士の繋がりが、あそこにハッキリ表れていて、俺はまずそこに感動したな。
本田 なるほどね。
トヨタブース全体の様子
後藤 南棟1Fにあったのは、ダイハツ、トヨタ、レクサス、センチュリー。で、このすべてのブースの一体感っていうのが本当に良くて。
たとえばクルマ編でも挙げた「IMV Origin」のコーナーは、バンダイとコラボして、来場者にプラモデルを作らせてくれるわけよ。プレスデーでは実施していなかったから別日に改めて作りに行ったんだけど、そういう体験も含めて、よくできていると思った。
甲野 あれ、プラモデルの余ったランナーを使って自由に作れるんだよね。
後藤 もらったプラモはグレーの素地色で、好きなように色を付けていいですよっていうスタイル。
甲野 実際ブースには、いろんなIMV Originプラモの完成品が置いてあったよね。本当に山のようなバリエーションで、いろんな使い方を想定したジオラマも並んでた。
本田 宇宙にまで飛ばされていたIMV Originもあったね(笑)。
モジュール式のコンセプトカー「トヨタ IMVオリジン」の活用イメージをプラモデルで表現。作り込みがすごい!
後藤 あの見せ方、ブースの作り方は個人的に完璧だと思った。それから、トヨタブースの角にあったアールが付いた壁面に、昔のトヨタ車のレリーフがキャッチコピーと一緒に立体で表現されていて、しかも全部グレー単色。IMV Originの方も真っ白だったけど、今回のトヨタは大きな色を使ってないし、派手な装飾物もない。統一感がものすごく良かった。
このまま、もう最初に言いたいこと全部言っていい? センチュリーのブースって黒い幕が張られていたでしょ。で、そこに模様が投映されていたと思うんだけど。
甲野 オレンジの輪みたいなやつね。
センチュリーブースの黒い幕にうっすらと浮かび上がるオレンジの輪。この演出を実現するのがどれだけ大変なことか!
後藤 そう。あれは本来なら、ひとつのブースの中ですべてを完結させるのが普通なの。誰が作るのか、どこの施工業者がやるか、というのも本来はバラバラ。でも今回は他社同士で連携して、センチュリーブースの模様を、隣のレクサスブースとトヨタブースから投影していたっていう。
本田 本来は他所の空間を使うなんてタブーだけど、1F南ホール全体がトヨタグループだからこそできた技ってことね。
甲野 トヨタとダイハツの連携でいえば、「KAYOIBAKO(カヨイバコ)」シリーズも分かりやすかった。今回は4サイズあったと思うけど、小はダイハツが担当していて、KAYOIBAKOっていう共通テーマの中で、ダイハツに小、トヨタに中・大・特大が配置されていた。そのあたりの連携が、素人目にも分かりやすかったよね。
ダイハツが展示していた「KAYOIBAKO-K」。KAYOIBAKOシリーズの“小”にあたる位置付けで、AI搭載の次世代軽商用EVバンというコンセプトモデル。
本田 トヨタとダイハツって白が基調だったじゃん? それに対して高級ブランドのセンチュリーとレクサスは、黒基調でシックに仕立ててあって。でもそれが急に切り替わる感じじゃなくて、段階を踏んでやっていてさ。
甲野 センチュリーのブースは、いい匂いするのはもちろん、カーペットもふっかふかだし、ブース周りの幕も特殊な造りで外の音が遮断されるのよ。だから中は静寂に包まれていて。
後藤 あれって高級車に乗ってドア閉めたときの「スン……」ってなる感じを、ブース全体として表現しているわけでしょ。いい匂い、ふかふかのカーペット、静けさ、そしてクルマもいい。
甲野 ベタだけど、やっぱりね。当たり前のこと言われてもと思うかもしれないけど、素直な感想を言うと、あの世界観の造り込みがで出来るトヨタには勝てない。
本田 やっぱね、トヨタなんですよ。ダイハツブースの展示車が全部、黄色に黒文字のナンバーだったり、そういう小ネタ仕込んでくるのもうまいなと思った。映像に出てくるコペンのナンバーも池田だったり(笑)。
甲野 なんてったって、大阪発動機ですからね。
後藤 初代ミゼットの展示も良かったし、今回は古いテイストをオマージュしたものが特に目を引いたかな。
本田 原点回帰というか、過去をリスペクトしているからこそ、今のものづくりがあるし、クルマ作りがある。
甲野 当時良かったもの、当時すごく重宝したものを、今の技術で再解釈するとこうなります、みたいなのをすごく感じたね。
【モビショーまとめ編につづく!】
歴代トヨタ車のレリーフが、ブースの壁面に採用されていた。ニクい演出だ。




