ロータス特製チューンを採用した異色のホットハッチ「いすゞ ジェミニZZハンドリング・バイ・ロータス」を振り返る!【世界の名車・珍車図鑑】Vol.23
歴史に名を残した名車・珍車を紹介するコーナー。今回はいすゞ「ジェミニZZハンドリング・バイ・ロータス」が登場!
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コンパクトな実用ハッチバック車をベースとする高性能モデルが、スポーティカーおよびモータースポーツ用ベース車両の新たなジャンルとして認知され始めた1980年代。この時期には本家たるヨーロッパのほか、日本からも人気の「ホットハッチ」、あるいは「ボーイズレーサー」とも称された魅力的なモデルたちが数多く登場した。
そんなクルマたちをご紹介するのが、「80年代ホットハッチの名車たち」。
今回は、日本で独自の発達を遂げた「テンロク(1.6L)」ホットハッチのなかでも、ちょっと異色のキャラクターを持つ「ジェミニZZハンドリングbyロータス」をご紹介したい。
ボーイズレーサー全盛の80年代に登場した大人のホットハッチとは……?
ホットハッチは、その全盛期である1980-90年代には「ボーイズレーサー」とも呼ばれたように、主に若者のための高性能車としてもてはやされた。でも、若者のみならずベテランのエンスージアストたちをも対象とした「大人のホットハッチ」も存在した。
そのひとつが、1987年秋の東京モーターショーにてショーデビュー。翌88年2月に正式発売されたいすゞJT190系「ジェミニZZハンドリング・バイ・ロータス」である。
ジェミニとしては二代目となるJT190系、1985年にリリースされた通称「FFジェミニ」は、西ドイツ(当時)生まれの元祖世界戦略小型車「オペル・カデット」をベースに開発された初代ジェミニに対して、いすゞ独自で開発した前輪駆動モデルである。
エクステリアデザインにはイタルデザインのジョルジェット・ジウジアーロ氏が関与しており、4ドアセダンに加えて初代のクーペに代わる3ドアハッチバックをラインナップしていた。
いすゞ ジェミニZZハンドリング・バイ・ロータス(イベント参考出品車)
この時代、欧州ではVWゴルフ、日本でも五代目マツダBD系ファミリアを端緒に人気上昇中だった小型ハッチバック車のなかでも、FFジェミニは欧州車的に垢ぬけた雰囲気で日本国内マーケットにて一定のヒットを得ることにはなったものの、同じく当時のトレンドである高性能バージョンの設定はなかった。
そこでいすゞは、西ドイツのチューナーであるイルムシャー社との協業で開発した1.5L直列4気筒SOHC+インタークーラーつきターボエンジン搭載モデルを、その名も「イルムシャー」として1986年6月に追加する。
当時のいすゞは、アメリカを本拠とするGMグループと提携関係にあり、とくにGMの西独である「オペル」との関係は深いものとなっていた。
そして、アダム・オペル社公認のチューナーとして実績を挙げていたイルムシャーのコラボ作として、ドイツ製チューニングカーの雰囲気も漂わせるジェミニ・イルムシャーの3ドアハッチバック版は、専用装備としてレカロのバケットシートやMOMOのステアリングホイールなどが与えられるなど、たしかに「ホットハッチ」として充分な資質を備えていたといえよう。
しかし、この時代のいすゞ開発陣では、次なるアイデアが実行に移されようとしていた。いすゞと同様に当時のGMとの関係を深めていた英国のスポーツカー専業メーカー、エンジニアリング会社としても実績を重ねていた「ロータス」とのコラボレーションで、ジェミニのハイパフォーマンスモデルを開発することだった。
いすゞ ジェミニZZハンドリング・バイ・ロータス|Isuzu Gemini ZZ Handling by Lotus
ロータスの力を借りたサスチューンと、玄人向けのコスメチューン
いすゞでは、伝統的に若手スタッフを積極的に登用する企業文化があったそうで、ロータスとコラボでFFジェミニを再チューニングする……、というプロジェクトも、当時の若手たちのアイデアからスタートしたものだったという。
その内容について、まずは「ハンドリング・バイ・ロータス」の由来となった最大のトピック、サスペンションチューニングから、お話しせねばなるまい。
「イルムシャー」が硬派のスポーツ指向、ハードなサスセットアップだったのに対し、ロータスにサスペンションのチューンを委託し、快適さの両立を図るセッティングを目指したとの由。
いすゞ ジェミニZZハンドリング・バイ・ロータス|Isuzu Gemini ZZ Handling by Lotus
前輪に低圧ガス封入、後輪には高圧ガス封入式ダンパーを採用したほか、ロータス特製チューンのラバーブッシュや、底付きを防ぐ発泡ウレタン製ヘルパースプリングなど、ロータスが長年にわたってF1GPをはじめとするレース活動や、画期的なスポーツカーづくりで構築してきたテクノロジーを注入。
ホットハッチらしくアシをかっちり固められたイルムシャーとは対照的に、優れたロードホールディングと快適性を両立したセッティングが施されている。
いっぽうフロントに横置きされるパワーユニットは、このモデルで初めて市販車に搭載された、総排気量1588ccの直列4気筒のいすゞ自製エンジン「4XE1」型。この時期のトレンドにしたがって、自然吸気ながら気筒当たり4バルブのDOHCヘッドが与えられ、カムが直接バルブを駆動するダイレクトカムの駆動方式や可変吸気システム、デュアル排気システムなどを採用していた。
いすゞ製1588cc直列4気筒エンジン「4XE1」型
ボア×ストロークは80.0mm×79.0mmと、ほぼスクウェアに近い数値ながら、各部のフリクションを軽減するなどのデバイスを積み重ねることで、レッドゾーンは7700rpm以上という高回転性能を実現。
最高出力135ps/7200rpm、最大トルクは14.3kgm/5600rpmという同時代のライバル・ホットハッチたちと遜色のないパワーに加え、吹け上がりやレスポンスでも非常に心地よいフィーリングを獲得した。
そして、のちにM100「エラン」用のパワーユニットを求めていた本家ロータス・カーズ社にも採用を認めさせた、実はなかなかの名機だったのだ。
ロータス エラン|Lotus Elan
こうして、初代ジェミニ後期に設定されたDOHCエンジン搭載モデル「ZZ」のグレード名に、ロータスのサスペンションチューンであることを組み合わせた「ZZハンドリング・バイ・ロータス」では、いわゆる「小さな高級車」の要素も盛り込まれ、イメージカラーもシックな「ブリティッシュ・レーシング・グリーン」としたほか、BBS社製のアロイホイールやMOMO社製のステアリング、RECARO社製のシートなど高級な輸入ブランドのパーツを贅沢に投入した。
ただし、レカロのシートはイルムシャーでも採用されていたのだが、ZZではツイード調の生地を採用。これも英国風にシックな雰囲気を目指したものという。
このコーナーは「ホットハッチ」をフィーチャーするものゆえに、今回は3ドアハッチバック版を中心にお話しさせていただいたが、ジェミニZZハンドリングbyロータスではやはりというべきか、1990年に三代目JT191系に代替わりしたのちにも、一貫して4ドアセダン版が販売の多勢を占めていたといわれている。
それでも3ドアハッチバック版についていえば、これほど玄人向けチューニングと渋めのいで立ちを与えられたホットハッチというのは、歴史的にも稀有。大人の上級エンスージアスト向けの国産ホットハッチだったという点においても、伝説的な存在と断じて良いかと思われるのである。
いすゞ ジェミニZZハンドリング・バイ・ロータス|Isuzu Gemini ZZ Handling by Lotus





