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公開日:2025.11.17

モーターショーはこれからどうなる? ドイツ「ミュンヘン・モーターショー(IAA モビリティ2025)」で見つけた新たなテーマと価値。

その造り込みに度肝を抜かれた「オープンスペース」に設営されたメルセデス・ベンツのブース(写真:IAA)

2025年9月8日から14日までの1週間(初日のメディアデーを含む)、ドイツで「ミュンヘン・モーターショー(IAA モビリティ2025)」が開催された。かつて世界五大モーターショーの一角を占めていたドイツ国際モーターショー(IAA)が、2021年に開催地をフランクフルトからミュンヘンに移して、今年で3回目。今年は37カ国750以上の出展社が集結し、前回を上回る50万人以上の来場者を集め、盛況のうちに閉幕した。

その造り込みに度肝を抜かれた「オープンスペース」に設営されたメルセデス・ベンツのブース(写真:IAA)

文と写真=会田 肇

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コンセプトを「オープンスペース」と「サミット」の二つに分けて展開

「ミュンヘン・モーターショー(IAA モビリティ2025)」最大の特徴は、「オープンスペース」と「サミット」の二つの会場に分けて開催されていることだ。中でもミュンヘンならではの魅力を実感したのがオープンスペースの方で、ここはミュンヘン市中心部にある歴史的建造物を活用した展開が実施されており、街全体がモーターショーとしてのお祭りに参加しているという印象を受けた。

ステージではライブなどが頻繁に行われ、各ブースでも大人から子供まで楽しめる様々なイベントを展開するなど、これまでのモーターショーとはまったく趣が違うものとなっていた。しかも入場料は無料。オープンスペースは朝から夜に至るまで多くの人出で賑わい、来場者が途切れることはなかった。また、新たにプロジェクションマッピングを歴史的建造物に投影するなどして、夜まで来場者の目を楽しませる。こうした展開こそ、先進国で開催するモーターショーのあり方なのかもしれないと思った次第だ。

一方のサミットの方は、市内中心部から電車で30分ほど移動したところにあるメッセ会場で開催された。こちらはほぼ展示があるものの、講演やセミナーを中心としたB to Bイベントが中心。会場で見る限り、一般来場者はほとんどいなかった様子だ。それでも来場者が絶えることはない。このような明確な区分けの中で開催されたのが「ミュンヘン・モーターショー」と言えるだろう。

バイエルン国立歌劇場の前にある広場を使って展示ブースを設営したBMW。いつも長蛇の列ができていた(写真:IAA)

バイエルン国立歌劇場の前にある広場を使って展示ブースを設営したBMW。いつも長蛇の列ができていた(写真:IAA)

かつて世界五大モーターショーとは、東京モーターショー、デトロイトモーターショー、ジュネーブモーターショー、フランクフルトモーターショー、パリサロンの5つを指していたが、現在ではいずれのショーも参加メーカーが減少し、ほぼ自国のメーカーが出展するだけで、ジュネーブショーに至っては開催を終了してしまった。もはや先進国で開催されるモーターショーは注目度の低さばかりが目立つようになってしまった感がある。

一方で、中国で開催される北京/上海ショーや、東南アジアであるバンコクやジャカルタでは多くの出展メーカーや来場者を集め、その落差が際立っていた。その意味で今回のミュンヘン・モーターショーへの訪問は、景気が今ひとつと伝えられている中で、先進国で開催されるモーターショーの落日を追認するつもりだったのだ。ところが会場に着くと、「ミュンヘン・モーターショー」は想像以上の熱気に包まれており、その予想は完全に覆されたというわけである。

出展の規模感や内容で他を圧倒していたドイツ勢

オペル史上最強のBEVとしてワールドプレミアされた新型オペル「モッカGSE」(左)と、四輪駆動電気自動車「オペル・グランドランド・エレクトリックAWD」(写真:IAA)

オペル史上最強のBEVとしてワールドプレミアされた新型オペル「モッカGSE」(左)と、四輪駆動電気自動車「オペル・グランドランド・エレクトリックAWD」(写真:IAA)

「サミット」会場では中国勢メーカーの存在感に圧倒された。写真はファーウェイ系の「AITO」

「サミット」会場では中国勢メーカーの存在感に圧倒された。写真はファーウェイ系の「AITO」

中国勢のプレスカンファレンスはいつも黒山の人だかり。写真は長安汽車のDEEPAL「S05」

中国勢のプレスカンファレンスはいつも黒山の人だかり。写真は長安汽車のDEEPAL「S05」

シャオペンは高級セダン「P7」の第2世代モデルを発表。AIを活用した高級車としての新たな進化を体現したモデルとした

シャオペンは高級セダン「P7」の第2世代モデルを発表。AIを活用した高級車としての新たな進化を体現したモデルとした

「オープンスペース」ではこのような歴史的建造物が数多く並ぶ。写真はマリエン広場にある新市庁舎

「オープンスペース」ではこのような歴史的建造物が数多く並ぶ。写真はマリエン広場にある新市庁舎

ではどんなメーカーが出展していたのかというと、もちろん地元ドイツの自動車メーカーであるフォルクスワーゲンやBMW、メルセデス・ベンツ、オペルが出展していたのは言うまでもない。そのほか、海外勢ではフランスのルノー、韓国のヒョンデ、KIAが出展。トルコの新興EVメーカー「Togg(トグ)」も初めて出展した。ちなみに日本メーカーの出展は残念ながら前回に引き続きゼロだった。

圧巻だったのは中国勢で、前回より出展しているBYDや吉利汽車傘下のスマートやポールスターに加え、VWの中国パートナーでもあるシャオペン(Xpeng)やステランティスの出資を受けたローコスト&ハイバリューのリープモーターのほか、チェリー(Chery)やオモダ(Omoda)、ジェイクー(Jaecoo)が出展。さらにファーウェイ系のアイト(AITO)や、高級ブランドとして、国有企業系の第一汽車の「ホンチー(紅旗)」、長安汽車系の「アバター(Avatr)」などが出展し、その数の多さから存在感は抜群だった。

とはいえ、ドイツ勢はオープンスペースで歴史的建造物とのコラボを進めるなど、その出展の規模感や内容で他を圧倒していたのは間違いない。

VW、フルハイブリッド(HEV)へ参入を決定!

VWグループは、フォルクスワーゲンが「ID.CROSS」を、シュコダが「Epoq」を、クプラが「RAVAL」を「エレクトリック・アーバンカー・ファミリー」としてワールドプレミア(写真:IAA)

VWグループは、フォルクスワーゲンが「ID.CROSS」を、シュコダが「Epoq」を、クプラが「RAVAL」を「エレクトリック・アーバンカー・ファミリー」としてワールドプレミア(写真:IAA)

まずフォルクスワーゲンは傘下グループそれぞれの紹介をする中で、フォルクスワーゲン(VW)、シュコダ(Skoda)、クプラ(Cupra)から登場する4モデルの「エレクトリック・アーバンカー・ファミリー」を発表し、注目が集まった。それらのベース価格は約2万5000ユーロ(約400万円)とされ、最大航続距離は450km。スケールメリットによるコスト効率化も図り、この新型BEV群によって、欧州コンパクトBEV市場において中間期で20%シェア獲得を目指すとした。

その中でフォルクスワーゲンは、電動コンパクトSUVの新型「ID.CROSS Concept」をワールドプレミア。同コンセプトカーの量産モデルとなる「ID.CROSS」は2026年末の発売が発表された。中でも見逃せなかったのは、これまで内燃機関モデルで親しまれてきたモデル名を、BEVの「ID.」にも引き継ぐ方針を決めたことだ。その最初のモデルとして披露されたのが「ID.Polo」で、2026年にも発売を予定。さらに、スポーツモデルとして親しまれてきた“GTI”モデルの登場も明らかにされた。

新たに発表された新型「T-ROC」。2026年にもフルハイブリッド化され、トランスミッションとしてDSGを組み合わせることが発表された

新たに発表された新型「T-ROC」。2026年にもフルハイブリッド化され、トランスミッションとしてDSGを組み合わせることが発表された

一方、日本では展開されていないシュコダは都市型SUV「Epiq(エピック)」を発表。家族やライフスタイルを重視するユーザーにとって理想的な日々のパートナーとなるべく開発されたという。また、同じく日本で未展開のクプラはブランドと旧のスポーティで型破りな特徴を備えたハッチバックモデル「Raval(ラヴァル)」を2026年にBEVとして投入する。

そして、ミュンヘン・モーターショーにおける発表で、VW最大のトピックとなりそうなのが、2026年中に新型「T-Roc」でフルハイブリッド(HEV)へ参入を決定したことだ。ただ、HEVとはいえ、トヨタとVWではその開発コンセプトが大きく違う。新型「T-Roc」に搭載されるハイブリッドエンジンは、報道によれば出力とトルクもアウトバーンを走るにも十分なパワーを発揮し、しかもエンジンとモーターがDSGを介して接続されるとされる。同じHEVとはいえ、トヨタとはかなり異なったドライブフィールになりそうではある。

BMWはノイエクラッセのBEV版第一段を、メルセデスはGLCのBEV版を発表

BMWは、「ノイエ・クラッセ」とも呼ばれる新世代BEVの第1弾「iX3」を発表。航続距離は最低でも600km前後を確保したとされる

BMWは、「ノイエ・クラッセ」とも呼ばれる新世代BEVの第1弾「iX3」を発表。航続距離は最低でも600km前後を確保したとされる

1960年代に販売されていた「ノイエ・クラッセ」も会場内に展示された

1960年代に販売されていた「ノイエ・クラッセ」も会場内に展示された

BMWは「ノイエ・クラッセ」とも呼ばれる新世代BEVの第1弾「iX3」を発表した。新世代の車載バッテリーと800V仕様のE/Eアーキテクチャの採用で、航続距離は最低でも600km前後を確保。その上で300kW以上の急速充電に対応して充電時の使い勝手を大幅に高められているという。価格は6万8900ユーロと発表された。また、「iX3」に続く第2弾となる新世代EV「ノイエクラッセ」は『i3』となったことも明らかにされた。

デザインもフロントフェイスを中心にブラッシュアップされ、iX3はBMWのアイコンであるキドニーグリルをよりタテ方向に凝縮する形状へと変更されている。元々1960年代の「ノイエ・クラッセ」に倣ったデザインとしていたが、そのコンセプトはこのiX3の登場でより明確になったとも言える。また、車内ではAピラー左右いっぱいに広がる「パノラミックビジョン」に車両情報やナビ画面などさまざまな情報を投影する機能を展開して、その先進性をアピールしていた。

SUV「GLC」の新型EVを披露したメルセデス・ベンツ。グリルそのものがイルミネーションとして発行する機構が組み込まれている(写真:IAA)

SUV「GLC」の新型EVを披露したメルセデス・ベンツ。グリルそのものがイルミネーションとして発行する機構が組み込まれている(写真:IAA)

「GLC」のダッシュボードには幅1m近い「ハイパースクリーン」を組み込み、生成AIによる会話型アシスタントを搭載する(写真:IAA)

「GLC」のダッシュボードには幅1m近い「ハイパースクリーン」を組み込み、生成AIによる会話型アシスタントを搭載する(写真:IAA)

メルセデスベンツはSUV「GLC」の新型EVを披露したが、同社にとって主力となる車種でもあり、その展示はかなりの力の入れようだった。メルセデスベンツならではのクロームグリルは、丸みを帯びた柔らかなデザインとなり、その中心にはより大型化された“スリーポインテッドスター”が配置される。注目はそのグリルそのものがイルミネーションとして発行する機構が組み込まれていること。夜間での存在感はひときわ輝くものなるはずだ。

ダッシュボードには長さ1m近い「ハイパースクリーン」を組み込み、これはSクラスなどで採用されていたものをさらに精細感を高めたものとなる。特にその精緻さは美しささえ感じさせるもので、生成AIによって音声でのやり取りが可能となる会話型アシスタントの搭載は3種類のアバターを用意。ナビゲーションの目的地設定はもちろん、天気情報やニュースといった話題の提供までもサポートした。

存在感の高さで圧倒した中国勢。ルノーやヒョンデ、KIA、トルコのToggも出展

BYDが発表したステーションワゴン型PHEV「シール6DM-iツーリング」。HEVということでなんと1300kmを超える航続距離を実現(写真:IAA)

BYDが発表したステーションワゴン型PHEV「シール6DM-iツーリング」。HEVということでなんと1300kmを超える航続距離を実現(写真:IAA)

次に海外勢であるが、前述したように存在感で圧倒したのは中国勢だ。関税という高い障壁などどこ吹く風。周りを見回せば、中国メーカーの名前が必ず目に入ってくるほどだった。中国メーカーのプレスカンファレンスが始まると大勢のメディアや関係者がステージを囲み、少しでも出遅れると人の頭しか見えない状態となるほどの盛況ぶり。

そうした中で注目を浴びたのがBYDが発表したステーションワゴン型PHEV「シール6DM-iツーリング」である。BYDがステーションワゴンタイプをラインナップするのは初で、第5世代DMテクノロジーを搭載したPHEVにより、DMテクノロジーを搭載し、HEVということでなんと1300kmを超える航続距離を実現する。もう一つBYDで来場者の関心が高かったのが、アジア圏では「シーガル」と呼ばれるコンパクトハッチ「ドルフィンサーフ」だ。ハンガリーで生産することで高い関税を回避するのが目的とみられるが、BYDの欧州市場参入の本気度を示した例と言えるだろう。

中国国内での景気の落ち込みが進む中、中国メーカーにとって今や海外進出は避けて通れない。ただ、急激な現地生産化を進める中でのいつまでその投資が続けられるかはわからない。このことから欧州市場で生き残れる中国メーカーは限られるとの見方が有力だ。

ルノーは新型『クリオ』(日本名:『ルーテシア』)を発表。フルハイブリッドである「E-Tech 」エンジンは最高出力160PSを発揮する

ルノーは新型『クリオ』(日本名:『ルーテシア』)を発表。フルハイブリッドである「E-Tech 」エンジンは最高出力160PSを発揮する

ヒョンデはIONIQ初のコンパクトBEVとして「IONIQ3コンセプト」を世界初公開。「Inster「と「Kona」の中間を埋め、欧州でのシェア拡大を狙う(写真:IAA)

ヒョンデはIONIQ初のコンパクトBEVとして「IONIQ3コンセプト」を世界初公開。「Inster「と「Kona」の中間を埋め、欧州でのシェア拡大を狙う(写真:IAA)

KIAは都市部に住む若い世代向けにコンパクトなクロスオーバー車として「EV2コンセプト」を世界初公開

KIAは都市部に住む若い世代向けにコンパクトなクロスオーバー車として「EV2コンセプト」を世界初公開

その他の海外勢はどうか。フランスからはルノーが出展した。その目玉は「E-Techフルハイブリッド」エンジンを搭載した第6世代となるルノー「クリオ(日本名:ルーテシア)」だ。1.6リッターエンジンに2つのモーターを組み合わせ、システム出力は160PSを発生、エクステリアも全体を一回り大きくして伸びやかなフォルムを実現した。

韓国から出展したのはヒョンデとKIA(キア)の2ブランド。ヒョンデはIONIQ初のコンパクトBEVとして「IONIQ3コンセプト」を世界初公開。「Inster」と「Kona」のすき間を埋めるためお重要な位置付けとされ、欧州でのBEV市場シェア拡大を狙うための重要な使命が課されてもいる。また、KIAは都市部に住む若い世代向けにコンパクトなクロスオーバー車として「EV2コンセプト」を世界初公開した。機能と個性を融合させたモデルとして、2026年中の発売が予定されている。

中東・トルコからは新興EVメーカー「Togg(トグ)」の出展もあった。すでにSUV型BEV「T10X」を発表していたが、今回のミュンヘン・モーターショーでは新たに量産仕様のファストバックBEVセダン「T10F」を世界初公開。しかもこの2モデルをドイツ市場に投入することが明らかにされ、関心を集めた。

人々の関心が車から消えたわけではない。ミュンヘン・モーターショーはそれを教えてくれた

ミュンヘン・モーターショーにもゆるキャラがいた。ショー会場の各所に頻繁に現れていた(写真:IAA)

ミュンヘン・モーターショーにもゆるキャラがいた。ショー会場の各所に頻繁に現れていた(写真:IAA)

今回の「ミュンヘン・モーターショー」を振り返って言えることは、マイカーの普及が進んでしまった先進国であっても、人々がクルマへの関心がまったくなくなっているわけではないということだ。

日本でもオートサロンでは開催期間3日間で25万人以上が来場する。クルマをいかに楽しむか、その原点に立ち返ってもう一度ショーのあり方を考えるべき時が来ているのかもしれない。

その意味でも「ミュンヘン・モーターショー」は、そのきっかけ作りとして価値あるショーとなっていたと言えるだろう。

ミュンヘン・モーターショーの「オープンスペース」では週末になるとこの人だかりができていた(写真:IAA)

ミュンヘン・モーターショーの「オープンスペース」では週末になるとこの人だかりができていた(写真:IAA)

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