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公開日:2025.10.10

『イタリア発 大矢アキオ ロレンツォの今日もクルマでアンディアーモ!』第61回【Movie】━━ミュンヘンIAA 2025リポート(メッセ会場編)“推し活ドライブ”の時代到来か!?

2025年9月8日にミュンヘンで開催されたIAAモビリティのプレスデイで。BMWはEVの新型「iX3」を公開した。

BMWとメルセデス・ベンツ、新型SUV対決!イタリア・シエナ在住のコラムニスト、大矢アキオ ロレンツォの連載コラム第60回は、ドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティ 2025」の模様をお届けします。

2025年9月8日にミュンヘンで開催されたIAAモビリティのプレスデイで。BMWはEVの新型「iX3」を公開した。

文・写真=大矢アキオ ロレンツォ(Akio Lorenzo OYA)

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欧州を代表する自動車ショーのひとつ「IAAモビリティ 2025」が9月8日から14日までドイツ・ミュンヘンで開催され、会期中50万人以上の来場者で賑わった。

IAAモビリティは隔年開催。1951年以来フランクフルトで行われていた自動車ショーを継承するかたちで、2021年に第1回が開かれた。有料で業界関係者向けのメッセと、無料で一般向けのミュンヘン市内会場の2拠点形式で、今回で第3回となった。

欧州の乗用車需要鈍化、技術革新の加速、中国での価格競争、米国の関税問題、保安・環境基準の厳格化、さらにはBEV(電気自動車)市場の期待を下回る伸び、といった諸問題を抱えるなかでの開催となった。

AMG「GT XXコンセプト」。最高出力1000kW超で最高速度は360km/hを超える4ドア・ハイパーEV。2025年6月に発表済だが、十分すぎるオーラを発していた。

AMG「GT XXコンセプト」。最高出力1000kW超で最高速度は360km/hを超える4ドア・ハイパーEV。2025年6月に発表済だが、十分すぎるオーラを発していた。

2大プレミアム、それぞれのアプローチ

メッセ会場におけるドイツ系ブランドのスターは、いずれもBEVであるBMW新型「iX3」と、メルセデス・ベンツ新型「エレクトリックGLC(以下GLC)」といえた。ただし両車におけるデザインの方向性は、かなり異なる。

BMW iX3。効率性・環境保護性能などに優れた新EVプラットフォーム「ノイエ・クラッセ」使用モデルの第一弾。第二弾は2026年に登場する新型3シリーズになる。

BMW iX3。効率性・環境保護性能などに優れた新EVプラットフォーム「ノイエ・クラッセ」使用モデルの第一弾。第二弾は2026年に登場する新型3シリーズになる。

iX3は、同社が展開する新プラットフォーム「ノイエ・クラッセ」を使用した第一弾モデルである。エクステリア・デザインは、従来の同社製SUVにみられたアグレッシヴなデザインからの方向転換が確認できる。実際に、BMWグループのデザイン責任者であるアドリアン・ファン・ホーイドンクは、そのクリーンな造形を強調する。フロントフェイスのキドニーグリルも従来のクローム多用に代わる、すっきりとした解釈が導入されている。

BMW iX3。日本への導入は、2026年夏以降が予定されている。

BMW iX3。日本への導入は、2026年夏以降が予定されている。

いっぽうのメルセデス・ベンツ・エレクトリックGLCは、往年のメルセデス車のラジエターグリルを想起させる新フロントフェイスを採用。オプションで用意された942ドットのピクセルグラフィック機能を選択すると、多様な光を放つことができる。なお、メルセデスによれば、このフェイスは今後のモデルにも応用してゆくという。

「メルセデス・ベンツGLC」。Sクラスに既採用のリアアクスル・ステアリングにより、最小回転半径をより小さくしている。

「メルセデス・ベンツGLC」。Sクラスに既採用のリアアクスル・ステアリングにより、最小回転半径をより小さくしている。

メルセデスの伝統的グリルをドットで再現している。

メルセデスの伝統的グリルをドットで再現している。

メルセデス・ベンツGLC。後部ラゲッジルームの570リッターに加え、フランク(フロントトランク)にも128リッターのスペースを確保している。

メルセデス・ベンツGLC。後部ラゲッジルームの570リッターに加え、フランク(フロントトランク)にも128リッターのスペースを確保している。

いっぽうで、最新OSの搭載は両モデルとも同じだ。iX3を司るのはBMWオペレーティング・システムXである。コントロール・ユニットのひとつ「Heart of Joy」は、駆動系とドライビング・ダイナミクスに関する全機能を統合し、操縦体験を向上させるという。

いっぽうのGLCの車両制御には、AIと連携した「MB.OS」オペレーティングシステムを採用。ブレーキは回生モードを計算し、摩擦ブレーキの使用を最小限に抑える。標準装備のマルチソース・ヒートポンプは、電気駆動ユニットやバッテリーの廃熱や周囲の空気を利用して、効率的に車内を暖める。

iX3の航続距離は800kmを超える。また、わずか10分間で370km以上の航続距離を充電することが可能だ。GLCの最上位モデル「400 4MATIC」の最高出力は360kWに達し、最大713kmの航続距離を実現する。約10分のチャージで最大303kmの走行が可能だ。

持続可能性も両ブランドの訴求点である。iX3は、ライフサイクル全体を通じてCO2排出量を削減するというBMWの戦略を体現すべく、パーツの3分の1は二次原料(リサイクル材や再生材)による。対するGLCは、オプションで「ヴィーガンパッケージ」を設定している。動物由来の内装材を一切排除したもので、自動車業界で初めてザ・ヴィーガン・ソサエティーの認証を取得した。

「ウルトラモダン」vs「圧巻」

エクステリア同様、BMWとメルセデスの、インテリアデザインのアプローチもかなり異なる。

BMW iX3のダッシュボード「パノラミックiDrive」は、24年にわたるiDriveの集大成といえるもので、モダンさが光る。具体的にいうとパノラミック・ビジョンとセンターディスプレイに分けられており、前者は左Aピラーから右Aピラーに至るもので、乗員すべてに共有される情報を担う。後者は約72.5°に傾けられた平行四辺形で、運転者がステアリングから僅かに手を伸ばすだけの直感的操作を可能としている。これらにヘッドアップ・ディスプレイが加わる。

パノラミックiDriveが採用されたBMW iX3のダッシュボードを見る。

パノラミックiDriveが採用されたBMW iX3のダッシュボードを見る。

ウィンドー直下のパノラミック・ビジョン。その中央にいてドライバーを見ているのがインテリジェント・パーソナルアシストのキャラクター。(photo:BMW)

ウィンドー直下のパノラミック・ビジョン。その中央にいてドライバーを見ているのがインテリジェント・パーソナルアシストのキャラクター。(photo:BMW)

GLCはメルセデス・ベンツ歴代モデル最大である99.3cm(39.1インチ)の「MBUXハイパースクリーン」をアピールする。ダッシュボードほぼ全体に広がる画面は、それなりに衝撃的だ。バックグラウンドのモティーフは11種類の中から選択できる。メーカーは「MB.OS」により、現実世界と仮想世界をシームレスにつなぐと表現している。

メルセデス・ベンツGLCのMBUXハイパースクリーン。

メルセデス・ベンツGLCのMBUXハイパースクリーン。

ハイパースクリーンの解説用デモ機。画面中央下に見える球状のキャラクターが、「ヘイ、メルセデス」の呼びかけに反応する。

ハイパースクリーンの解説用デモ機。画面中央下に見える球状のキャラクターが、「ヘイ、メルセデス」の呼びかけに反応する。

BMW、メルセデス双方に仮想アシスタント機能が装着されて久しいが、もはやデジタルキャラクター付きだ。BMWのインテリジェント・パーソナルアシスタントは「ヘイ、BMW」と呼びかけると、ディスプレイ中央にある宇宙人のようなアニメーションが動きながら返答する。

対するGLCは「ヘイ、メルセデス」の呼びかけとともに、画面中央に登場するスリー・ポインテッドスターがキャラクターに変化して答える。会場スタッフによると、ChatGPT4、Microsoft Bing、そしてGoogle AIから最適な情報を抽出して制御しているという。

ドイツ車も続く? 衝撃のアイディア

今回のIAAも過去2回同様、日本の自動車メーカーの姿はなかった。かわりに目立ったのは中国系企業だった。中国の国営放送「中央広播電視総台」によると、同国系の出展社は部品なども含め116を数え、前回の70を大きく上回った。全出展社(748)の約6分の1が彼らだったことになる。

ステランティスが出資する中国リープモーターのブースで。SNS用に動画を撮影するスタッフ。

ステランティスが出資する中国リープモーターのブースで。SNS用に動画を撮影するスタッフ。

中国シャオペン(小鵬)が欧州プレミアした新型「P7」。同社はすでにフォルクスワーゲンと戦略的パートナーシップに調印しており、近い将来ミュンヘンに研究開発拠点をオープンする。

中国シャオペン(小鵬)が欧州プレミアした新型「P7」。同社はすでにフォルクスワーゲンと戦略的パートナーシップに調印しており、近い将来ミュンヘンに研究開発拠点をオープンする。

シャオペンは自社製の有人ドローンやヒューマノイド・ロボットも展示。後者は2026年内の量産を目指す。同じく中国系のGACも乗用ドローンをディスプレイした。

シャオペンは自社製の有人ドローンやヒューマノイド・ロボットも展示。後者は2026年内の量産を目指す。同じく中国系のGACも乗用ドローンをディスプレイした。

デジタルキャラクターといえば、別の意味で大胆な試みを中国ブランドで発見した。「リンクツアー(領途汽車)」が公開した都市用マイクロEV「アルーミ」のものだ。

フロントフェンダーに備えられた「アート・ウィンドウ」で、オーナーが好みの画像を表示できる。2台の展示車のうち1台には、ホログラム風のキャラクターが表示されていた。リリースには「グラフィックをシームレスに切り替えることで、リンクツアーを自作アートやコマーシャル表現のスマートキャンバスへと変貌できます」と解説されている。

リンクツアーのマイクロEV「アルミン」。デザインはインハウスとのこと。欧州の一部国で近日発売予定。当地の法律により、低出力版は14歳から運転できるはずだ。

リンクツアーのマイクロEV「アルミン」。デザインはインハウスとのこと。欧州の一部国で近日発売予定。当地の法律により、低出力版は14歳から運転できるはずだ。

リンクツアー・アルミンの「アート・ウィンドウ」。

リンクツアー・アルミンの「アート・ウィンドウ」。

日本では推しのアイドルやキャラクターのグッズを入れて歩くための透明バックが少し前から流行し、ついには透明のキャリーケースまで大手小売チェーンによって発売された。リンクツアーのアート・ウィンドウも、“推し活グルマ”として使えることを想定していると察した。

もしかしたら、2年後のIAAではドイツ系ブランドが同様に、推し活用デバイスを装備しているかもしれない、と筆者は考える。笑うなかれ。かつてドイツ車は、日本的快適装備を嘲笑い、質実剛健を貫いていた。あの頃、仮想キャラクターに「ヘイ!」と呼びかけながら走る時代が到来することを誰が想像しただろうか。今のクルマは何でもありなのである。

以下はメッセ会場におけるその他の出展から。これはBMWモトラッドの2輪EV「ヴィジョンCEコンセプト」。強固なフレームとバランシング機能によって、ヘルメットをはじめとする各種プロテクション・ギアの着用からライダーを解放する。

以下はメッセ会場におけるその他の出展から。これはBMWモトラッドの2輪EV「ヴィジョンCEコンセプト」。強固なフレームとバランシング機能によって、ヘルメットをはじめとする各種プロテクション・ギアの着用からライダーを解放する。

MINI「ジョン・クーパー・ワークス・エレクトリック・スケッグ」。オーストラリアのアパレルブランド「デウス・エクス・マキナ」とのコラボレーションによるワンオフ。

MINI「ジョン・クーパー・ワークス・エレクトリック・スケッグ」。オーストラリアのアパレルブランド「デウス・エクス・マキナ」とのコラボレーションによるワンオフ。

フォルクスワーゲン(VW)グループ各ブランドの記者発表で。左から「VW ID.クロス・コンセプト」、「シュコダ・エピック」。カムフラージュが施された2台は「クプラ・ラヴァル」と「VW ID.ポロ」。4台とも同一のプラットフォーム「MEB+」、同一の工場(スペイン)で効率化を目指す。

フォルクスワーゲン(VW)グループ各ブランドの記者発表で。左から「VW ID.クロス・コンセプト」、「シュコダ・エピック」。カムフラージュが施された2台は「クプラ・ラヴァル」と「VW ID.ポロ」。4台とも同一のプラットフォーム「MEB+」、同一の工場(スペイン)で効率化を目指す。

VWによる新EV「ID.クロス・コンセプト」。メーカーの言葉を借りれば“アーヴァン・ジャングルのための”コンパクトSUVで、全長✕全幅✕全高は4161✕1839✕1588mm。

VWによる新EV「ID.クロス・コンセプト」。メーカーの言葉を借りれば“アーヴァン・ジャングルのための”コンパクトSUVで、全長✕全幅✕全高は4161✕1839✕1588mm。

VW ID.クロス・コンセプト。ブランドの新デザイン・ランゲージ「ピュア・ポジティヴ」に基づいたものという。

VW ID.クロス・コンセプト。ブランドの新デザイン・ランゲージ「ピュア・ポジティヴ」に基づいたものという。

オペル「コルサGSEヴィジョン・グランツーリスモ」。ネーミングが示すとおり、プレイステーション用ゲームにも登場する。

オペル「コルサGSEヴィジョン・グランツーリスモ」。ネーミングが示すとおり、プレイステーション用ゲームにも登場する。

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応募はこちら!(10月31日まで)
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