“太宰治”化こそが安全運転の近道。君よ、運転中はペシミストになれ!『モテるドライバーになるための100のこと』#03
「運転が上手い」って、結局どういうこと? 異端の自動車ライター・伊達軍曹が、モテるドライバーになるための心得やマナーをガイドする人気連載。第3回は「君よ、運転中はペシミスト(悲観主義者)になれ」をテーマにお届けします。
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公道上は「ムカつく存在」であふれている
世の中にはクルマのハンドルを握った途端、やたらと怒りっぽくなる人がいる。
例えば、普段は温厚な人物として知られている佐藤翔也さん(仮名)なのだが、ハンドルを握っている最中は常に「……タコが! とっとと発進しろや!」などと前方のクルマを罵り、交差点でほんのちょっとだけ飛び出し気味に走ってきた自転車などに対しても、「あっぶねえなボケ! 死にてえのかカス!」などと車内で叫ぶ。しかしクルマから降りると、また普段の温厚な佐藤さんに戻る──というような人物だ。
そういう人物は、ハッキリ言ってしまうと人としてちょっと怖いため、あまりお近づきになりたくないと思っている。だが佐藤翔也さん(仮名)の気持ちも、まったくわからないではない。
なぜならば、公道上は「ムカつく存在」であふれているからだ。
信号待ちの最中にスマホを見入っているのか、青信号になってもいつまでも発進しないクルマ。見通しの悪い交差点だというのに、平気でフルスピードで突っ込んでくる自転車。こちらとしては普通の安全運転をしているだけなのに、「トロトロ走ってんじゃねえよ!」とばかり煽ってくる、後方のアホなクルマ。
挙げていけばキリがないが、路上とは、そのような「ムカつく存在」の巣窟である。
それゆえ佐藤翔也さん(仮名)のように「ボケ! カス!」と叫びたくなる気持ちがわからないわけではないのだが、そこで叫んでしまっては、ムカついてしまっては、敵の思う壺だ。なぜならば、怒りの感情はクルマの安全な運行を阻害する大きな要因のひとつであるとともに、怒っているドライバーは「カッコよくない」からである。
我々ドライバーはクルマという凶器にもなり得るものを、とにかく安全に運行させなければならない。そして同時に我々ドライバーは、できればカッコよく、スマートであらねばならない。
運転中は“太宰治”化して超絶ペシミストになれ!
しかし路上は、我々ドライバーを怒り狂わせる要因であふれている。
……ならばどうすれば良いのか? どうすれば我々は、ムカつき事案に対して怒り狂う、カッコ悪くて安全でもないドライバーにならず、いわゆるスマートドライバーになれるのだろうか?
答えは「君よ、運転中はペシミスト(悲観主義者)になれ」というものだ。
人生は、基本的にはオプティミズム(楽観主義)を採用して「まぁなんとかなるさ、大丈夫さ」というニュアンスで明るく前向きに生きたほうが拓けやすく、また周囲の人間にも好かれやすい。
だが運転中だけはダメだ。運転中だけは自身の心の中にある楽観をすべて排除し、まるで太宰治のような(?)悲観主義者になるべきなのだ。

スマートなドライバーになりたけければ、太宰化してみるのはいかがだろうか。
なぜならば、運転中の楽観主義こそが安全運転の敵であり、車内でボケ、カス、死ねと叫ぶ「ノンスマートドライバー」を発生させる源であるからだ。
「まぁ大丈夫だろう」という楽観主義に基づくからこそ、見通しの悪い交差点で自転車などが飛び出してくるとムカついてしまう。「世の中みんないい人ばかりだ!」という性善説を信じるからこそ、煽ってくるドライバーがいると、ムカついてしまう。
だが運転中だけは“太宰治”化して超絶ペシミストになれば、飛び出してきた自転車に対しても「はいはい、そうですよね。世の中こんなモンですよね」と思うだけで、ムカつくことはない。
そして妙な煽りや強引な割り込みなどをカマしてくるドライバーに遭遇したとしても、太宰化していれば「……はぁ。知ってましたけど、この世はやっぱり地獄ですね。生まれてすみません」と思うことはあっても、怒りや恐怖などの、安全運転に悪影響を与える反応は生じない。何せこちらは超悲観的な太宰治なので「はいはい、どうせそんなことだろうと思ってましたよ……」とばかりに、何があっても淡々としていられるのだ。
この秘術さえ身につけておけば、何があっても怒ることはないし、事故のリスクを大幅に低下させることもできる。
なぜならば、例えば見通しの悪い交差点の先にある状況について、楽観主義者たちが「たぶん誰もいないだろう」と前向きに明るく(?)考えるのに対し、こちらは太宰治的なペシミストなので、「どうせボールを追いかけてきた子どもが飛び出してきたり、老婆がよろよろと車道側に倒れ込むに決まってる……」と、ひたすらネガティブなイメージばかりが湧き上がる。そのため、そもそも事故の起こりようがないのである。
モテるドライバーになるための注意点
クルマの安全な運行のためには圧倒的に有効といえるペシミスト作戦だが、同時に「モテるドライバー」を目指すうえでは、2つだけ注意点がある。
ひとつは、運転中は超ネガティブマインドな太宰治になるとしても、それは心の中だけにとどめておかねばならない──ということだ。心の中で「あぁ、この世は地獄だ」などとつぶやくのはいいが、それを声や態度に出してしまうと同乗者からの共感と好意を一気に失うので、ぜひご注意いただきたい。
そしてもうひとつの注意点は、「とはいえクルマを降りたら太宰治のことは忘れよう」というものだ。太宰治化は安全運転のための方便というか、運転中だけ仕方なく行う手段でしかない。ネガティブマインド化を実生活でも行なってしまうと、場合によってはちょっと大変なことにもなるので、クルマから降りて地面に立ったならば、ぜひいつもの明るく前向きな貴殿に戻ってほしい。それが、筆者の願いだ。

クルマから下りたら太宰化は即終了すべし! にっこりスマイルがモテるドライバーになるための秘訣だ。