アルファロメオのクーペは“段付き”より“ヒラメ”がいい!━━ハッサンの『ワカモノ旧車オーナー探訪記』Vol.05
全国のカーマニアを訪ね西へ東へ。カメライター、ハッサン(高桑秀典)の連載第5回目は、中学生のときから憧れていたアルファロメオを縁あって買うことができた酒井健志さん(26歳)をご紹介。
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初ヒラメとの出会いは水色号
27年前に買ったアルファロメオGT1600ジュニア(通称:水色号)で息子・娘世代の旧車オーナーを訪ね、自身(現在54歳)が27歳だったときの気持ちを思い出しながら、彼ら・彼女らのリアルな声をお伝えする当連載。
第5回目に登場してもらうのは、筆者と同じアルファロメオGT1600ジュニア(こちらは1973年式)を愛用している26歳の酒井健志さんだ。
「アルファ貯金を続け、昨年の6月にようやく契約。10月に納車されました」
グリジオ・インテンソというボディカラーのGT1600ジュニアで撮影場所に訪れた酒井さんは、購入時のエピソードを話してくれた。その見た目からヒラメと呼ばれることもあるフラットノーズの105系クーペが、中学生のときから好きだったという。
「世間的にはアルファロメオの105系クーペといえば、段付きとか1750(イチナナゴーマル)ですが、自分的にはヒラメのほうが気になってしまったんですよね。それで高校生のときにコッパ ディ 東京というクラシックカーラリーを見学しに行ったら、遭遇することはないだろうと思っていたヒラメがいて驚きました。それが“水色号”でした」

フラットノーズの105系クーペが2台。ハッサンの愛車、水色号とツーショット。
酒井さんの人生における初ヒラメが、我が愛車である水色号となったわけだが、その後、サーキットのパドックやクラシックカーラリーのスタート地点などでも酒井さんと複数回お会いすることになり、ヒラメへの熱き想いを定期的に伺ってきたことをいまでも憶えている。
「アルファロメオに憧れつつも良縁がなかったので、エンジンの排気量が1600ccの5速MTというスペックがGT1600ジュニアと同じということで、2001年式のNB型ロードスターを買いました」
以前、筆者がサーキットのパドックで遭遇したときは、NB型ロードスターではなくトヨタ・アルテッツァに乗っていたように記憶していたが、そのFRスポーツセダンは実家のファミリーカーだったのだという。
「父親が家のクルマを接待ゴルフに使うのでセダンじゃないとダメで、母親がMT車しか運転できないので必然的にアルテッツァということになったようです。18歳のときにアルテッツァに乗っていたのですが、19歳のときにNB型ロードスターを買いました」
ロングライフ・デザインの実用車

ジュリア・クーペとも呼ばれるアルファロメオGT1600ジュニアは、カーデザイン界の巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロ氏が手がけたもの。
そんな家庭環境でスクスク育った酒井さん。幼い頃は大排気量のクルマに憧れていたという。ところが、中学生になった頃に見た映画に登場していた“自分が知らない世代の自動車”に興味を持ちはじめ、気になるクルマのエンブレムにアルファロメオと書いてあったことが切っ掛けで、この世界の魅力にのめり込んでいくことに。
「TZ1のデザインが大好きで、ジュリエッタ・スパイダーは美しいクルマだなと思っていました。やがてジウジアーロが手がけた抑揚のあるシームレスなデザインに惹かれ、引き算の美学、長く愛される静かなデザインに魅了されていきました」
半世紀以上前にデザインされたモノが、その後を生きる人々をずっと魅了し続けるということに感銘を受けた酒井さんは、自身もジウジアーロと同じ道に進むことを決意し、美大に進学。NB型ロードスターに作品を積んで通っていたらしい。

ボディカラーはグリジオ・インテンソ(灰色)、インテリアはマローネ(栗色)という洒落た組み合わせはイタリア車ならでは。

ジュリア・クーペには排気量別に1300cc、1600cc、1750cc、2000ccの4種類の直列4気筒エンジンがラインナップされるが、酒井さんの愛車は1600ccのユニットを搭載する。
美大を卒業し、晴れて大手国産自動車メーカーのカーデザイナーとなった酒井さんは、アルファロメオの105系クーペのエクステリアは、アコースティックになり過ぎることなく、あくまでもプロダクトになっていると解釈しており、2つの要素が両立していることにより、ロングライフ・デザインの実用車になっていると話してくれた。
「大衆車は長きにわたって美しく、飽きさせないことが重要だと思います。GT1600ジュニアは、ヒラメならではの抜けた感じが愛くるしいです。段付きとは異なるフラットノーズなので、フロントデザインの要素が減って美しいです。これ以上はナイと思います。やっと手に入ったので大切にします。このクルマ以外は考えられないですね」

毎週末、GT1600ジュニアを駆って仕事場と都内にある実家を往復するという酒井さん。普段のお買い物にも活用するという。