なぜ25年も前の国産中古車がアメリカで人気に? 「GT-R」「RX-7」はさらに高騰! “25年ルール”ってなんだ【クルマの経済学】
原材料価格や物流費の高騰にともない、新車の価格改定が各自動車メーカー相次いで発表されているが、旧車の価格高騰も顕著だ。その主な理由は海外にあった!? 自動車ジャーナリストの山崎 明氏が、旧車高騰の背景と、今後さらに値上がりが予想されるモデル5台を解説!
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日本の旧車が高騰中、その最大の理由とは?
最近、旧車の高騰が著しい。旧車を懐かしむ中高年層だけでなく、若者の間でも旧車を志向する人が増えているようだ。それゆえ、各地で開催される旧車イベントも盛況である。
しかし、旧車高騰の最大の理由は、日本国内での旧車ブームではない。アメリカを中心とした海外でのちょっと古い日本車の爆発的な人気が、その主たる要因だ。
そのきっかけとなっているのが、映画「ワイルド・スピード(原題:Fast and Furious)」シリーズと、ゲーム「グランツーリスモ」の人気だ。
これらの作品には日本の高性能スポーツカーが多数登場し、それらのモデルはアメリカでは未発売だったり、販売されても希少だったり、アメリカ仕様が日本仕様に比べ低性能だったりしたため、日本仕様(JDM:Japan Domestic Model)は憧れの存在となったのである。
しかし、これらのクルマをアメリカに輸入して公道で乗ることは容易ではない。アメリカには独自の安全基準や排ガス規制があり、それに適合したものでなければナンバーを付けることが不可能だからだ。
1980年代前半くらいまでは規制が緩く、多くの並行輸入車がアメリカに輸入されていたのだが、1988年に規制が強化され、並行輸入は事実上不可能になった。
とはいえ、アメリカの基準を満たさないクルマはすべて登録できないとすると困るケースが出てきた。クラシックカーである。文化財的な側面もあるクラシックカーに新しい基準を適合させるのは極めて困難だからだ。

スカイラインGT-R R34のこのカラー(ベイサイドブルー)を見ると、ワイルド・スピード4のポール・ウォーカーを連想するファンも多いのではないだろうか。
アメリカの25年ルールとは?
そこで、クラシックカーを救済する法律ができた。いわゆる25年ルールである。これは製造から25年が経過し、それを証明する書類があるクルマに関しては、アメリカの安全基準や排ガス基準を満たしていなくても登録できる、という法律である。右ハンドル車でもOKだ(新車では右ハンドル車の登録が認められていない)。なお、現在のトランプ政権による自動車の追加関税もこのルールに則って輸入する場合は対象外だ。
つまり、アメリカで入手困難の人気モデルは、この製造後25年を契機に一気に需要が発生し値上がりすることとなったのだ。
最も典型的な例は「R32型スカイラインGT-R」で、基本的に日本市場専用モデル(少数が同じ右ハンドルの国であるイギリスに輸出されたのみ)のため、アメリカ人にとっては垂涎の的だった。そのため25年が経過していなかった2010年頃は250万円程度で程度良好の中古車が買えたのだが、現在では程度が良いものは1000万円以上となっているのだ。

(c)saida - stock.adobe.com
今後さらに高騰するモデル5選!
■日産 スカイライン(R34型)
それでは今後、どのようなモデルの値上がりが予想されるだろうか? 筆頭に挙げられるのが、R34型スカイラインだ。すでにGT-Rは25年を待たずに凄まじい金額となっている。スペックによっては5000万円を超え、安いものでも余裕で1000万円を超える価格で取引されている。
R34の人気が突出して高いのは、映画「ワイルド・スピードX2」で主人公の愛車として登場したことが大きい。同作にはスープラ、RX-7、S2000なども登場しており、それらも人気で価格も高騰しているが、アメリカでも販売されていたモデルである。一方で、R34までのスカイラインはアメリカでは販売されておらず、アメリカでの希少価値は非常に高いのだ。
1999年発売のR34 GT-Rは現状、ごく初期型しかアメリカに輸入できないが、順次輸入可能となるため、ここ数年でさらに値上がりする可能性がある。GT-Rだけでなく、ノーマルモデルもクーペのターボモデルを中心に値上がりするだろう。

日産 スカイラインGT-R(R34型)|Nissan Skyline GT-R(BNR34)
■日産 シルビア(S15型)
アメリカに正規輸入されていなかったという意味で、S15型シルビアもさらに高騰する可能性が高い。
シルビアはアメリカでS14型までは「240SX」の名で売られていたが、S15は事実上日本市場専用となったのだ(オーストラリアとニュージーランドに少数が輸出されている)。シルビアはドリフト競技でも中心的車種として使われているため注目度が高く、アメリカでも人気があるのだ。

日産 シルビア(S15型)|Nissan Silvia
■マツダ RX-7(FD型)
FD型RX-7もさらに値上がりする可能性が高い。前述の通りRX-7はアメリカで販売されていたが、1995年で販売中止となっているのだ。日本では2003年まで販売されており、1999年モデルからはパワーアップされ、ボディ剛性の向上やサスペンションの改良なども施され性能がアップしている。
さらに、様々な特別限定車も発売されている。これらがアメリカ人の目から見れば魅力に感じることは間違いなく、右ハンドル(JDM)の後期型RX-7としてステータスとなるだろう。

マツダ アンフィニRX-7(FD3S型)|Mazda RX-7
■ホンダ シビックタイプR(FD2型)
もう一台、確実に値上がりすると思われるのがシビックタイプRである。初代EK9型はすでに25年をクリアしてかなり高くなっている。
2代目EP3型はミニバン的な設計思想が災いしてやや人気薄だが、3代目FD2型はスタイリングも良くNAエンジンとしては歴代タイプR最高出力を誇り、当時のアメリカ仕様シビックとはデザインも異なるためJDMとして人気となる可能性が高い。FD2型は2007年発売のため25年ルール適用はまだ先だが、数年後に程度の良い車は高騰する可能性が高いと思われる。

ホンダ シビックタイプR(FD2型)|Honda Civic Type R
■トヨタ マークII(X110型)
マークIIの最終モデルであるX110型(2000年発売)、その兄弟車であるヴェロッサもターボモデルのMT限定だが値上がりする可能性がある。マークIIは一世代前のX100型に比べスタイリングはおとなしくなってしまったが、最後のJZ系エンジン搭載のMTのFRセダン、日本市場専用車ということで人気が高まることは間違いないだろう。
ヴェロッサは数も少ないので、意外な人気車となるかもしれない。

トヨタ マークII(X110型)|Toyota Mark II
海外市場での日本の旧車人気、ピークは今?
今後の展開はどうなるだろうか。実は2000年以降、日本市場専用の高性能モデルというのはどんどん減っていく。日本市場でのマニアックなモデルの需要が減少し、スポーツカー、高性能車はアメリカ市場を意識したものになっていくからだ。
2代目NSXはアメリカ生産になったし、GT-RやシビックタイプRもアメリカで販売されるようになった。日本市場専用モデルはミニバンやコンパクトカーが中心で、古くなってマニアックな価値が高まりそうなモデルがほとんどないからだ。
映画「ワイルド・スピード」に登場する車種も最近では欧米メーカーのモデルが多くなってきている。その意味でも25年ルールによる高騰を狙えるモデルはそれほど増えないだろう、というのが私の見立てだ。ただし、現在も人気のモデルの数は減る一方だから、価格はさらに高くなっていくかもしれない。
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