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公開日:2025.06.12

馬運車で競走馬を輸送する若手ドライバーに密着!日本馬匹の競馬を支える仕事とは? 【大人になっても憧れのはたらくクルマのおしごと! #04】

日本馬匹の馬運車を運転する若手ドライバーの大森さん。

今、「はたらくクルマ」のドライバー不足が取り沙汰されている。いっぽうで、子どもの頃からのあこがれもあるけれど、現場を知る機会もなく、就業後の業務内容や生活をイメージできず、業界に足を踏み入れられずにいる若者もいるかもしれない。そんな高校生や大学生、あるいは転職希望の若者に、はたらくクルマで仕事をする若手の姿を見ていただく本連載、第4回は競走馬を輸送する日本馬匹輸送自動車株式会社のドライバーに話をうかがった。

日本馬匹の馬運車を運転する若手ドライバーの大森さん。

文=サトータケシ

写真=河野マルオ

取材協力=日本馬匹輸送自動車

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馬運車のドライバーは馬の傍で過ごしたかったから

日本馬匹輸送自動車株式会社 業務部輸送課
大森康平さん(32歳)
2018年入社

──まず、大森さんが携わっている競走馬の輸送とはどのようなお仕事なのか、そこからお聞かせください。

大森 私が勤務している日本馬匹輸送自動車株式会社は、競走馬を馬運車で輸送する業務を行っていて、主に茨城県の美浦トレーニングセンターと各地の競馬場の間で運行しています。

──大森さんがこの仕事に就きたいと思われたきっかけを教えてください。

大森 社会人になるまで、競技者として馬術競技に取り組んでいました。私が所属していた馬術部は、部員たちが自分で馬運車を運転して競技場に赴いていたんです。就職先を考えたときに、もう一度、馬の近くで働きたいと思ったことがこの仕事に就いたきっかけです。

──大森さんのように、馬と関わりのあった方がドライバーには多いのでしょうか?

大森 いえ、どちらかというとレアなケースで、たとえば長距離トラックのドライバーから転職された方などが多いと思います。馬の世話は、同乗する厩舎の厩務員の方が担当するので、馬に関する知識は入社してから覚えれば大丈夫です。私が関わっていた馬術の馬と競走馬では気質が違うので、私も入社してからいろいろと学びました。

──この仕事を選ぶにあたっては、運転がお好きだったという理由もあるのでしょうか。

大森 はい、以前はトヨタのヴィッツ、いまはアルファードに乗っているんですが、休みの日に天気がいいとふらりとクルマで出かけたりしています。馬運車で遠くへ行くときもワクワクするので、運転が好きな自分に向いている仕事ですね。

日本馬匹の馬運車の右側面。馬運車の運転席はトラックベースとなっているが、古いものだと大型バスベースのものもある

日本馬匹の馬運車の右側面。馬運車の運転席はトラックベースとなっているが、古いものだと大型バスベースのものもある。

日本馬匹の馬運車の左側面

日本馬匹の馬運車の左側面。大森さんの運転する車両は「ロードカナロア」の名前が記されたもの。

──競走馬の輸送を担当する会社はいくつかあるとうかがっていますが、その中から日本馬匹さんをお選びになった理由があれば教えてください。

大森 子どもの頃から、競技場で日本馬匹の馬運車をよく見かけていて、すごく馴染みがあったんですね。だから就職活動では、真っ先に日本馬匹に応募しました。

──この仕事に就くために必要な資格を教えてください。

大森 大型1種免許が必要になります。私は入社前から取得していましたが、実際にここまで大きな馬運車を運転した経験はなかったので、慣れるのに多少の時間が必要でした。

──季節によって業務の内容が変わるとうかがっていますが、典型的な仕事のスケジュールや進め方があれば教えてください。

大森 夏のローカル競馬の開催時期になると、週末に各地で競馬が開催されます。それに向けて、まず金曜日に美浦のトレーニング・センターの厩舎を回って、馬を馬運車に積み込みます。馬運車には6頭分の枠がありますが、乗せるのは4頭としています。場合によっては4つの厩舎を回ることもあります。

──馬を積み込む際に、ドライバーはどのような仕事を担うのでしょうか。

大森 基本的には厩務員の方がケアをするので、私たちは馬がなにかにぶつかって怪我をしないように、アシストする程度ですね。厩務員の方も馬運車に乗って、目的地にスタートします。土曜日、日曜日と競馬が開催され、それが終わると美浦のトレーニング・センターに戻ってきます。4週6休制なので、月曜日、火曜日と休んで水曜日に出社する、というのが典型的なパターンです。あとは川崎競馬や浦和競馬など平日開催の競馬場もありますし、馬を放牧させるときに運ぶという業務もあります。こうした業務をドライバーでローテーションしながら、回していく感じです。

──日本馬匹さんには何台くらいのトラックがあるんでしょうか。

大森 約90台で、夏のローカル競馬の開催時期には80台以上が稼働して、駐車場ががらがらになります。

日本馬匹の美浦営業所の馬運車に記される優勝馬の名前はひとつもかぶらない

日本馬匹の美浦営業所の馬運車に記される優勝馬の名前はひとつもかぶらない。

東京オリンピック・パラリンピックの競技馬の輸送も担当

型のうえ競走馬を積んでいることから、相当の運転技術が要求される

馬運車を運転する大森さん。大型のうえ競走馬を積んでいることから、相当の運転技術が要求される。

──長距離輸送になるケースもあるのでしょうか。

大森 はい、中京競馬場まではドライバー1名、京都以西はドライバー2名体制になります。新潟に行くときは1人のときもあれば2人のときもありますが、北海道だと完全に2名体制ですね。4時間運転して30分休憩、というサイクルで目的地に向かっています。

──遠くへ行くときはワクワクするとのことですが、仕事でもロングドライブは楽しいものなんですね。

大森 はい、普段は見ることのない景色を眺めることができたり、初めての道を走ったりすることは楽しいです。

──逆に、馬運車の運転で気を使うところはどこでしょう。

大森 やはり大切な馬を載せているので、急加速、急ブレーキ、急ハンドルなど、“急”が付く操作は絶対に避けなければなりません。また、馬がいる部屋を映すカメラによって馬の様子がわかるので、前方に注意しながら馬のコンディションを確認することにも気を使っています。自分は競技者として馬運車を運転していた経験があるので、そのあたりのノウハウは最初から身についていたかもしれません。

──この仕事をやっていてよかった、という達成感は、どんなときにお感じになりますか。

大森 輸送した馬が勝ってくれるのはもちろん嬉しいのですが、でもそれより、健康な状態でトレーニング・センターの厩舎に送り届けたときにいい仕事ができたな、という充実感を感じます。馬の健康が一番です。

──これまでのお仕事で、特に記憶に残っているものがあればお聞かせください。

大森 東京オリンピック、パラリンピックの馬術競技の馬の輸送は弊社が担当しました。羽田空港や成田空港の滑走路で馬を積み込んで、世田谷区の馬事公苑や江東区の海の森クロスカントリーコースに運んだことは、特別な仕事としていい思い出になっています。

競走馬は後部から積み込み、進行方向を向いた状態で移動する

馬運車の後部を開閉する大森さん。競走馬は後部から積み込み、進行方向を向いた状態で移動する。

──馬運車の乗り心地はどのような感じでしょうか。

大森 たまに高速道路で「精密機械輸送中」と書かれたトラックを目にしますが、ああした車両と同じようにエアサスペンションが備わっているので、乗り心地は快適です。あとは巻き込み防止などの安全装備も装着されています。

──走行中に、注目されているな、と感じることはありますか。

大森 ありますね。お子さんに手を振ってもらったり、サービスエリアで声を掛けていただいたり。弊社の馬運車のボディには、日本ダービー等の優勝を経験している馬の名前が書いてあるんです。なぜこの馬の名前を書いてあるんですか、と聞かれることも多いです。

──すごく有名な馬を輸送することもあると思いますが、そういうときは緊張しますか。

大森 それはありませんね。どんな馬でも同じように大切に運んでいます。「おっ、あの馬か」と思う程度で、あとは変わりません。

美浦営業所の駐車場内に競馬ファンのみならず、日本中にその名を知られる「ディープインパクト」の姿もあった

馬運車には往年の名馬の名前が。取材時には、美浦営業所の駐車場内に競馬ファンのみならず、日本中にその名を知られる「ディープインパクト」の姿もあった。

──馬運車は、ローテーションで乗り換えるものですか。それとも、大森さんの専用車があるのでしょうか。

大森 基本的には、僕だけが運転する馬運車が用意されています。

──職場の雰囲気はいかがでしょうか。

大森 僕はゴルフが好きなんですが、休日は同じ趣味の社員とよくゴルフに行きます。釣りが好きな人たちも一緒に出かけているようなので、和気あいあいとした雰囲気ではないでしょうか。

──ありがとうございます。でもみなさんがいかに大切に馬を運んでいるのかを知ったので、馬運車を見かけたら特に安全に注意したいと思いました。

競走馬を積み込む際は仕切りを設置して左右にわけて載せる。オスの前にメスは乗せないといった配慮もしているという

競走馬を積み込む際は仕切りを設置して左右にわけて載せる。オスの前にメスは乗せないといった配慮もしているという。

こちらもなかなか見られない馬運車の運転席。大森さんの運転する車両はトラックベースのため運転席側からも助手席側からも乗り降りができる

こちらもなかなか見られない馬運車の運転席。大森さんの運転する車両はトラックベースのため運転席側からも助手席側からも乗り降りができる。

SPECIFICATIONS
いすゞ|QKG-CYJ77BA
ボディサイズ:全長1198cm×全幅249cm×全高375cm
ホイールベース:7335mm
車両重量:17040kg(総重量24925kg)
駆動方式:8X4
エンジン:6UZ1
総排気量:9839cc
最高出力:279kw(380ps)
最大トルク:1814Nm
トランスミッション:7速

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