こんなの「ルノー4(キャトル)」じゃない!?━━現代に復活した新型の違和感と魅力の正体。
ルノーの歴史的名車「ルノー4(キャトル)」と「ルノー5(サンク)」がEVになって復活を遂げた。かつて自身もルノー5を愛車にしていたというモータージャーナリストの山崎 明の目に、新型はどう映ったのだろうか。
キャトルとサンクが現代に蘇った!
2024年10月にパリモーターショーが開催され、私も10年ぶりに視察に訪れた。今回のショーはフランスブランドの他にドイツブランドもいくつか出展し、中国ブランドも多数出展したため欧州のモーターショーとしては久しぶりに「モーターショーらしさ」の感じられるものであった。
その中で、もっとも力が入っていたという印象だったのがルノーである。地元フランスのショーであるから当たり前なのだが、プジョーやシトロエンといった他のフランスブランドよりも格段に気合いの入った展示だった。
もちろんそれには理由があり、2024年2月のジュネーブモーターショーで発表となった新型のルノー5(サンク)に加え、同じルノーのCMFB-EVというBEV(電気自動車)用プラットフォームを使ったルノー4(キャトル)の新型も発表されたからだ。ルノー4もルノー5もルノーの歴史の中でも大ヒットとなった車種で、今でも多くのファンがいるモデルで、その歴史的名車をデザインモチーフとして登場したのが新型の2台である。
ルノー4はシトロエン2CVに対抗して開発され、1961年に発売された車で、そのため低コストで実用本位の5ドアハッチバック車だった。実用性のみを追求して開発されたのだが、それゆえ非常にユニークなスタイリングで根強い人気があり、1992年まで(スロベニアでは1994年まで)生産されたモデルである。日本でも高橋幸宏や樹木希林など、有名人も愛用していた。
ルノーは4の前は4CVというリアエンジン車を生産していたが、スペース効率を上げるため4CVのドライブトレインをそのままフロントに移動し前輪駆動とした。しかしそのまま移動したため、縦置きでトランスミッションが前、エンジンが後ろというフロントミッドシップといっても良いユニークなレイアウトであった。
このルノー4の基本構造をそのまま流用しながら、1970年代にふさわしいモダンなスタイリングで1972年に登場したのがルノー5である。ルノー4との差別化のためか、当初は3ドアだけで、5ドアは1979年に追加された。ルノー5は1984年に新型にモデルチェンジし、エンジンとトランスミッションは横置きの標準的なものとなり、1996年まで生産された(この後継にあたるのが現在のルーテシアである)。
ヨーロッパを走りたい!
このルノー4と5は私個人にとっても非常に思い入れの強いモデルである。私は1988年から1989年にかけて、勤務していた会社の海外研修員としてスイスのビジネススクールに留学していた。
目的はMBAの取得で、当時ほとんどの研修員はアメリカの学校を選んでいたのだが、私はヨーロッパでのカーライフを思い切り楽しむという裏の目的(もう時効だから書いても良いだろう)もあったのでヨーロッパの学校しか考えなかったのだ。そういう裏の目的があるから、到着してすぐにクルマ選びをすることになる。
期間が限られているし、卒業後すぐに日本に帰らなければならないので、学校が紹介してくれた買い戻し契約に応じてくれる中古車販売店で購入することにした。その店の在庫で最も魅力的だったのはポルシェ924だったが、20代だった当時の私としては完全に予算オーバーだった。フランス国境に近いフランス語圏のスイスにいるのだから、フランス車を選ぶのが順当と考え、フランス車の中から選ぶことにしたのだ。
その店の在庫で、私の予算に合うフランス車は2台あった。1台は1981年式ルノー4、もう1台は1983年式ルノー5だったのだ。フランス車を買うならシトロエン2CVが良いと思っていたくらいだから、そのイメージに近くフランス車臭の強いルノー4に強く惹かれたのだが、この個体には2つの問題があった。
ひとつは程度がルノー5に比べやや悪いこと、もうひとつはボディカラーがメタリックブルーだったことである。ルノー4であればベージュかクリーム色、もしくはグレーか高橋幸宏が乗っていたグリーンなどのソリッドカラーが私のイメージで、メタリック塗装のルノー4は私にはしっくりこなかったのである。
というわけで内外装の程度の良いルノー5の方を選んだのだ。こちらもボディカラーはシルバーメタリックで、フランス車らしさはやや乏しかったのだが、内装がオレンジでこちらはとてもフランス車っぽく、内外装の組み合わせとしてはなかなかおしゃれに感じられたのも決め手になった。
このクルマは通学、買い物など日常の足として大活躍してくれた。週末は少しばかり離れたところにもドライブに出かけた。そしてクリスマス休みには思い切って長距離ドライブに挑戦したのである。
ジュネーブを出発しアルプスを越えてミラノまで行き、その後ニース、モンテカルロを回ってまたアルプスを越えてジュネーブに戻るというコースである。ミラノではイタリア式運転の洗礼を浴びたり、モンテカルロではモナコグランプリのコースを実際に走ったりなど、思い出深いドライブとなった。このようにスイス生活を彩ってくれたルノー5には今でも思い入れはたっぷりあるのだ。
新型ルノーの違和感と魅力の正体
個人的にこのような思い入れのあるルノー4とルノー5である。新型はそれぞれどのように私の目に映ったか。まずはルノー5だが、これはBEVでなければ欲しいと思うくらい気に入った。
ルノー5のエッセンスをうまく現代風にアレンジしており、ダッシュボードのデザインもオリジナルのルノー5の雰囲気が感じられる。ボディカラーも黄色や黄緑など、往時のルノー5を彷彿とさせるものがラインアップされている。
一方のルノー4はどうか。こちらもオリジナルのデザイン要素をあちこちで引用していることはわかる。しかししっくりこないのである。デザイン要素は見つけられるのに、全体としてまったくルノー4に見えないのである。
なぜだろうと実車を前に考えると、この新型はSUVにしか見えないということが問題だとわかる。オリジナルのルノー4は断じてSUVではない(当時はSUVというカテゴリーはないので当たり前なのだが)。
ルノー4の本質はスペース効率の高い5ドアハッチバックである。今のクルマでいえばカングーの方が近い。日本車でいえばシエンタのような車である。それをルノーはありきたりなSUVにしてしまった。今、SUVは溢れかえっており、そのワンオブゼムと見えてしまうのだ。ルノー4の個性の本質は受け継がれていないのだ。
ルノー5の方は小型ハッチバックとしての本質は完全に受け継がれているから違和感はなく魅力も感じるのだ。昔を知らない人には関係ない話ではあるのだろうが、思い入れのある人間にとっては非常に重要な問題なのである。
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