タクシーが交差点内で停車! これって違反にならないの? ~弁護士に訊いてみた~【クルマと法律vol.12】
交通問題やクルマに関する相談について、法律の見地から分かりやすく解説する連載「クルマと法律」。今回は、街なかで見かけるタクシーについての交通ルール。タクシーが交差点内で停車することは、道路交通法違反になるのかどうかを弁護士・山崎勇人先生に聞きました。
「タクシーが交差点内で停車して、お客さんを乗り降りさせていました。これは道路交通法違反ではないのでしょうか?」
タクシーが交差点内で停車!これは違反?
相談者:先日、クルマを運転して交差点に差し掛かったところ、前を走っていたタクシーが、お客さんを乗せるために急ブレーキをかけて横断歩道の上で停車したため、危うく衝突しそうになりました。街なかを歩いていても、タクシーが交差点内で停車している光景をよく見かけますが、これは道路交通法違反にならないのでしょうか。
山崎弁護士:タクシーは、こちらから歩いて行かなくても、近くまで来て停まってくれるのでありがたいですし、雨の日などには特に重宝しますよね。ただ、道交法上は交差点内や横断歩道での駐停車は禁止されていて、もちろんタクシーも例外ではありません。
相談者:やはり、道交法違反になるのですね!
山崎弁護士:はい。タクシーがお客さんを乗せるために交差点内で停車することは、道交法第44条違反となります。ちなみに道交法上、交差点や横断歩道から5メートル以内は駐停車禁止場所とされています。なので正確には、交差点内や横断歩道の真上でなければよいという話ではなく、交差点や横断歩道の付近で駐停車をしてはいけないということになります。
相談者:5メートル以内ですか。それってお客さんを乗せるときだけではなく、降ろすときも同じですよね?
山崎弁護士:その通りです。駐停車が禁止されている場所では、タクシーを止めてお客さんを乗せるのも降ろすのも、どちらも違反となります。そのため、お客さんが急に「ここで降ろしてください」と言った場合、タクシー運転手は瞬時に、そこが駐停車可能な場所なのかを判断する必要があります。もし、停車できない場所であれば、その旨をお客さんに告げて、停車できる一番近い場所を探さなければなりません。
駐停車禁止の場所はどこ?
相談者:交差点以外にも駐停車禁止の場所はありますか?
山崎弁護士:駐停車が禁止されている場所に関しては、道交法第44条に定められていますが、代表的なものを挙げると以下の通りです。
【代表的な駐停車禁止の場所】
・駐停車禁止の標識もしくは表示(黄色の実線)のある場所
・交差点の側端または道路の曲がり角から5メートル以内(交差点内も含む)
・横断歩道上、横断歩道と自転車横断帯の前後の側端から前後5メートル以内
・坂の頂上や勾配の急な坂
・バス停の標識柱から半径10メートル以内
・安全地帯の左側とその前後10メートル以内
・踏切とその側端から前後10メートル以内
・軌道敷地内
・トンネル
・道路の曲がり角から5メートル以内
相談者:駐停車禁止の場所ってこんなに沢山あるのですね。ちなみに、「駐車禁止」ではなく、「駐停車禁止」ということなので、たとえ短時間であっても、これらの場所で停車すると違反になるということでしょうか?
山崎弁護士:その通りです。「駐車」と「停車」は、いずれもクルマを停めるという行為であることに違いはありませんが、道交法第2条において定義され、法律上は明確に区別されています。
相談者:明確にですか……。
山崎弁護士:はい。駐車と停車の区別は下記の通りです。
【駐車】
・車両等が客待ち、故障その他の理由により継続的に停止すること(貨物の積卸しのための停止で5分を超えない時間内のもの及び人の乗降のための停止を除く)
・車両等が停止し、かつ、当該車両等の運転者がその車両等を離れて直ちに運転することができない状態にあること
【停車】
・車両等が停止することで駐車以外のもの
相談者:人の乗り降りのための停止は「駐車」ではないのですね。
山崎弁護士:はい。お客さんの乗り降りのために短時間タクシーを停止させるのは「停車」であり、「駐車」ではありません。もし、その場所が単なる「駐車禁止」場所に過ぎないということであれば、道交法違反にはなりません。しかし、交差点内や横断歩道付近は、上記のとおり「駐停車禁止」場所なので、たとえ短時間であってもタクシーを停止させれば、道交法違反となります。
駐停車禁止の罰則や反則金
相談者:駐停車禁止の場所で駐停車してしまった場合(道交法第44条違反の場合)、罰則はあるのでしょうか。
山崎弁護士:当然、罰則もあります。道路交通法上、刑事罰として下記のように罰金を支払う必要があります。
【駐停車違反の罰則金】
・放置駐車違反の場合
ドライバーがクルマを離れ、直ちに車を移動できない状態(道交法第51条の4第1項を参照)には「15万円以下の罰金」(道交法第119条の2の4)
・駐停車違反の場合(放置駐車以外)
ドライバーが近くにいて、すぐにクルマを移動できる場合には「10万円以下の罰金」(道交法第119条の3)
相談者:え? 交差点内や横断歩道でクルマを停めると、ドライバーが乗っていたとしても、裁判になって「10万円以下の罰金」になってしまうということですか。
山崎弁護士:ドライバーが乗っている場合、多くのケースで「今すぐクルマをどかすように」と口頭で注意されるに留まり、その場ですぐにクルマを動かせば、違反として取り締まりを受けることは少ないと思います。しかし、違反は違反ですので、警察官による取り締まりを受けても文句は言えません。
相談者:そうなのですね! 知りませんでした。
山崎弁護士:もっとも、違反行為があった場合に、警察官が全てを刑事事件として立件し、検察官が起訴して裁判で審理するというのは、事実上、不可能です。そのため、比較的軽微な違反については、一定期間内に反則金を納めると、刑事処分を免れる(刑事裁判を受けずに済む)という「交通反則通告制度」によって処理されています。
相談者:いわゆる「青切符」ってやつですか?
山崎弁護士:その通りです。駐停車違反をすると、警察による取り締まりを受けて、「交通反則告知書」と「反則金納付書」を渡されます。この「交通反則告知書」が青色の紙なので、俗に「青切符」と呼ばれています。
相談者:青切符にも正式な名前があったのですね!
山崎弁護士:いずれにせよ、それらを受け取った後、納付期限内に反則金を支払った場合は刑事事件として刑罰(罰金)は科されないということになっているのです。
相談者:刑事事件になって立件されると大変そうです。この制度があることで我々の手間も省かれているのですね。よくわかりました! ありがとうございました。
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