メルセデス・ベンツ初代Eクラス(W124系)、名車伝説はこの1台からはじまった!──新連載【ザ・ファースト・モデル 】#01
ロングセラーモデルに歴史あり。世代を超えて愛され続ける名車の中から“初代モデル”を紹介する新連載がスタート。記念すべき第1回は、W124のコードネームで知られるメルセデス・ベンツ「Eクラス」を特集。自動車ヒストリアンの武田公実が解説する。
歴代モデルを合わせて悠久の歴史を誇るブランド、あるいは往年の名作がのちに復活を遂げたブランドなど、現代の自動車界には長い歴史を持つ車名が数多く存在し、その数だけ“初代モデル”が存在する。
その初代の成功があればこそ、後世まで長く作り続けられることになった、あるいは後世に蘇る原動力となった素晴らしき名車たちをご紹介する特集企画。
今回は、メルセデス・ベンツの中核モデル「Eクラス」を初めて名乗った名作、W124シリーズをご紹介しよう。
デビュー当時は「Eクラス」と呼ばれていなかった!?
メルセデス・ベンツ「Eクラス」は、現在ではセダンのほかエステートワゴンやクーペ、カブリオレ、SUVの「GLEクラス」とそのクーペ版。さらにはバッテリーEV専用車として独立した「EQEクラス」にも波及。アッパーミドル級の高級車マーケットにおいて、一大勢力を築くに至った。しかしその開祖となった名作「W124」シリーズは、デビュー当初からEクラスと呼ばれていたわけではなかった。
1984年に登場したW124系は、現在の「Cクラス」に相当する「190」シリーズと、最上級モデル「Sクラス」の間に収まる「ミディアムクラス」と位置づけられていた。当時のダイムラー・ベンツ社最小モデルに当たるW201系190シリーズが1982年に誕生するまでは「コンパクト・メルセデス」と呼ばれていた「W123」シリーズの後継車でもある。
そしてその設計思想は、ボディデザインからシャシー設計に至るまで、W126系Sクラスを忠実に縮小したW201系190に近いものだった。
この時代、ダイムラー・ベンツ社のチーフスタイリストであったイタリア人デザイナー、ブルーノ・サッコ氏の主導によってデザインされたボディは、190をほぼそのまま拡大したようなスタイリング。重厚極まるW123に対して、エアロダイナミックス特性が大幅に向上した上に、格段に軽快でスポーティな印象が強まっていた。
また、フロントにマクファーソン・ストラット、リヤにマルチリンク式を採用したサスペンションも、190シリーズの基本設計を踏襲したものとされる。
絶大な人気を誇ったステーションワゴン版
そのラインナップは多岐にわたるもので、まず1984年のデビュー時には「200(2リッター直4キャブレター)」、「230E(2.3リッター直4燃料噴射)」の4気筒ガソリン2モデルに加えて、1980年代の省エネ時代から注目を集めていたディーゼル版も「200D(2リッター直4)」から設定された。
翌85年には「260E(2.6リッター直6ガソリン)」、「300E(3リッター直6ガソリン)」。「250D(2.5リッター直5ターボディーゼル)」、「300D(3リッター直6ディーゼル)も追加され、基本的なラインナップが完成。日本市場には「230E」と「300E」、そしてのちに追加された300Dのターボ版「300TD」が導入され、特にガソリン版は国内でもクリーンヒットを博することになる。
一方、W123時代から人気を得ていたクーペ版は、1987年からC124系と呼ばれる新型に移行。ステーションワゴン(S124系)も1988年にリニューアルされる。
当初「CE」と呼ばれたクーペは比較的少量の生産であった一方、「TE(ガソリン)」ないしは「TD(ディーゼル)」、「TDT(ターボディーゼル)」と名づけられたステーションワゴン版は、基幹モデルたるセダン版に勝るとも劣らない人気を得ることになった。
わが国においても230TEおよび途中から輸入された300TEの人気は絶大で、例えばフォトグラファーやスタイリストなど、大量の荷物とともに移動する、いわゆるカタカナ職業の人々の中でも「先生」と呼ばれるクラスになって初めて手に入れることのできる、ある意味人生の目標のようなクルマとして奉られていた時期もあったのだ。
「最善か無か」の時代に生まれた最後のメルセデス・ベンツ
1990年にシリーズ全モデルに施されたフェイスリフトでは、前後ドアの下半分をカバーするプロテクションパネル、有名な「サッコプレート」も標準装備化され、190とも共通するこの時代のメルセデス特有のスタイルが完成することになった。
また1991年には、この時期に一時的な経営難に陥っていたポルシェとの共同開発により、V型8気筒5リッターエンジンを詰め込んだ伝説的な快速モンスター「500E」を発売。翌年には4.2リッターV8の「400E」も設定される。
そして1993年モデル以降は、ディーゼルとフルタイム4WDモデル「4 MATIC」を除く全モデルのエンジンがDOHC+気筒あたり4バルブ化され、排気量もそれぞれ変更。さらに翌94年モデルからはフロントマスクに大幅なフェイスリフトを受け、モデル名も「ミディアムクラス」から、現代にも至る「Eクラス」へと変更されるに至った。
くわえて、各モデルのネーミングも「E220」や「E320」など、搭載するエンジンの排気量を示す三桁の数字の前にクラスを示す「E」が置かれる現在の様式に変更されることになったのち、二代目Eクラスとなった「W210」系へとバトンタッチする1995年まで生産されたのだ。
「Das Beste oder nichts(最善か無か)」という、ちょっと仰々しい企業スローガンのもと、オーバークォリティであることが当然のごとく受け容れられていた時代のメルセデス・ベンツ。その素晴らしき時代の終焉を飾るモデルとして、W124系Eクラスは今なお「ヤングタイマー・クラシック」のアイコン的存在として敬愛されているのである。
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