クルマのある暮らしをもっと豊かに、もっと楽しく

Cars

最終更新日:2024.09.18 公開日:2024.09.18

フィアットが「グランデパンダ」を発表! 自動車界のブルージーンズ、世界を目指す。【新車ニュース】

初代パンダを彷彿させるデザインにイタ車好きは思わずニンマリ? フィアットから新型グランデパンダがデビューした。4代目パンダはEV版とマイルドハイブリッド版の二本立て。イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオが解説する。

文・写真=大矢アキオ ロレンツォ(Akio Lorenzo OYA)

写真=ステランティス

フィアット・グランデパンダ|Fiat Grande Panda

記事の画像ギャラリーを見る

初代パンダ&ゆかりの地へのオマージュ

フィアットは2024年7月11日、新型車「グランデパンダ」をトリノで発表した。メーカーはパンダ・シリーズを、あらゆる用途とユーザーに適した“自動車界のブルージーンズ”と定義。今回は、それを確立した1980年の初代から数えて4代目にあたる。セグメントはAからBへとランクアップされ、乗車定員は従来型が仕様により4人もしくは5人だったの対し、すべて5人乗りとなった。ただし全長は、Bセグメント平均の4.06mを下回る3.99mにとどめている。

車台には、同じステランティス・グループの「シトロエンC3」と共通で、広範なパワーユニットに対応できる「スマートカー・プラットフォーム」を採用。EV版は44kWhバッテリーと83kWモーターの組み合わせで、WLTP複合サイクルによる航続可能距離は320 kmである。マイルドハイブリッド版は、3気筒1.2リッター100HP エンジン+28HPモーター/48Vバッテリーを搭載。6段デュアルクラッチATと組み合わされる。

全長は3990mm。縦列駐車が多く、長さで料金が決まるフェリー使用者が少なくない主要市場イタリアで大きな訴求点となろう。全幅は1760mm、全高は1570mmである。

デザインはフィアットのチェントロ・スティーレ(スタイリングセンター)による。随所には、初代パンダと、今回の発表会場でトリノのランドマークでもある旧フィアット工場「リンゴット」ビルへのオマージュが散りばめられている。

フロントマスクを覆い、デイタイム・ランニングライトまで続くピクセル基調は、工場ビルのファサードにえんえんと続く窓を意識したものだ。

ピクセル基調のフロントまわり。

フィアット旧リンゴット工場ビル。今日はショッピングモール、オフィス、ホテルが入った複合施設にリニューアルされている。(photo:Akio Lorenzo OYA)

サイドは初代パンダの堅牢さを表現。太いCピラーやルーフラックがそれを強調する。前後ドア下部と後部パネルにプレスされたPANDAの文字は、初代の4×4仕様で同様の場所にみられるデカールやテールゲートの意匠を彷彿とさせる。

フィアットゆかりの地、トリノのローマ通りをバックに。X字パターンのアルミホイールは17インチである。

かつてフィアットの工場であったリンゴット・ビルの屋上テストコースで。2018年に生産終了した「グランデプント」の後継車役も担っているといえる。

テールゲートには、プレスされたFIATロゴのほか、3DでPANDAの5文字が入る。ラゲッジルーム容量は361リットル。

ボディカラーには赤、白、黒、緑、茶、青、黄の7色が用意されている。そのうち、カタログにおける代表的な塗色には鮮やかなイエローが選ばれている。ドイツ系ブランドとの差異性を強調すべく、フィアットCEO兼ステランティスのグローバルCMOのオリヴィエ・フランソワ氏が推し進める「No Gray」イニシアティヴにしたがったものだ。

近年のステランティス系モデル中、最も挑戦的なデザインといえまいか?

室内にもリンゴット・ビルのデザインが反映されている。10インチ+10.25インチのディスプレイを囲む楕円は、ビルの最大の特徴である屋上テストコース跡をイメージしたものだ。ささやかな遊びとして、脇には初代パンダのミニチュアが添えられている。初代パンダで称賛されたラック型ダッシュボードも再現されており、その容量は合計13リットルという。

ダッシュボードは、リンゴット・ビルの屋上テストコース跡の楕円を反映している。

ディスプレイを囲むフレームの右端には初代パンダが。

リンゴット・ビルの地上と屋上テストコース跡を結ぶスロープ。(photo:Akio Lorenzo OYA)

ATセレクター、パーキングブレーキ、ワイヤレス充電ポートを囲むセンターコンソールにも楕円が反復されている。

リンゴット・ビルの屋上テストコース跡。(photo:Akio Lorenzo OYA)

テールゲートを開けると「チャオ!」の文字が。

発表会の席上、フランソワCEOが最も得意げに解説した装備は、EV仕様の「スパイラル充電ケーブル」だ。最大7kWのAC用ケーブルがフロントフード下に収められているもので、チャージ時はフロントパネルの蓋を開けて引き出す。収納も従来型ケーブルよりはるかに簡単、かつラゲッジスペースを専有しないうえ、巻き取りで手が汚れるのを大幅に軽減できる。

EV版に採用されたスパイラル充電ケーブル。

グランデパンダは2024年7月から、ステランティスのセルヴィア工場で生産が開始されている。2024年末からヨーロッパで販売が開始され、続いて中東、アフリカで発売される予定だ。イタリアでの税込価格はマイルドハイブリッド版が19,000ユーロ(約296万円)未満、EV版が25,000ユーロ(約390万円)未満と発表されている。

グランデパンダの発表はフィアットの創立125周年記念式典の中で行われた。ステランティス会長のジョン・エルカン氏(左)と、フィアットCEO兼ステランティスのグローバルCMOのオリヴィエ・フランソワ氏(右)。

創立125周年式典では、初代パンダの空冷版「30」も屋上テストコースを走らせた。

増殖し成長するパンダファミリー

イタリアの自動車専門ウェブサイトにおけるグランデパンダの評価は、まだ販売店に実車がないにもかかわらず、おおむね好評である。「親しみがわくスタイル」「イタリア版(テスラ)サイバートラック!」「マイルドハイブリッド仕様が19,000ユーロで買える。ヒットするのではないか?」といった書き込みが確認できる。

対して動画投稿サイトでは厳しめの意見が目立つ。使用するプラットフォームの前身が旧PSAグループと中国・東風汽車の共同開発であることから「フランスの影響が強いのはいただけない」といった趣旨のコメントや、「シトロエンの姉妹車でセルヴィア生産(にもかかわらず)2万ユーロ超え!」「イタリアン・デザインというよりも、カシオGショックに見える」といったものだ。

参考までに、従来の3代目パンダは新たに「パンディーナ(可愛い、もしくは小さなパンダ)」というネーミングで、2030年までイタリア南部ポミリアーノ・ダルコ工場で生産が継続される。

背景には、12年連続でイタリア乗用車登録台数ナンバーワンに君臨するとともに、フィアット500と合わせてシティカー・セグメントで66.5%という高い市場占有率を維持する原動力となってきたことがある。

2024年8月も現行パンダは新車登録台数でトップを維持している。まさに国民車であり、フィアットがこの優位をみすみす逃すはずがない。同時に、かねてからイタリア自動車産業の空洞化に警鐘を鳴らす現イタリア政権への対応であることも明らかだ。

ただし、その従来型はルノー・グループのダチア・サンデロに激しく追い上げられているのも事実だ。2024年8月の登録はパンダ3326台に対しサンデロは2879台で、差は447台しかない。首位を奪還される日が近いうちやってきてもおかしくない。グランデパンダがパンディーナの代わりとなり得る実績を示せるのか、もしくはすでにステランティスが合弁会社を設立している中国「リープモーター」製の環境対策車で補完するのか注目に値する。

グランデパンダ(左)と、「パンディーナ」のネームで2030年まで継続生産予定の従来型。

いっぽうブランドという、より広い視点に立った場合、グランデパンダは新世界戦略の第一弾という位置づけである。従来フィアットは欧州、南米をはじめ世界で、その地域特性に合わせたモデルを製造販売してきた。グランデパンダ以降はそれをさらに推し進め、スマートカー・プラットフォームに国・地域ごとに最適なパワーユニットを組み合わせて展開する。2027年まで毎年新型車を発売してゆく予定だ。

以下4点は2024年2月、フィアットによって先行発表された「スマートカー」プラットフォームの展開例。これはピックアップ。

ファストバック。

SUV。

キャンパー。グランデパンダの発表会では、これらのうち2台の実車がリンゴットのテストコース跡に到来する映像が、モザイク付きで公開された。

ムルティプラ復活も?

その計画の一環として、イタリアの一部報道によると2025年にはより大きなパンダのバリエーションが計画されている。シトロエン「C3エアクロス」の姉妹車だ。7人乗りもラインナップされ、全長を4メートル未満にとどめたグランデパンダとは対称的に4.4メートル級になるという。ということは、同じステランティスの「ジープ・アヴェンジャー」より長くなってしまう。

欧州でフィアットとジープは同じ建物を区切って併売されていることが多い。2000年代初頭にフィアットを見放してドイツ製プレミアムカーに移行した人々が、2007年に500が発売されると、こぞって買い求めた。そこからわかるように、イタリア人はブランドの上下関係にこだわりが薄い。ゆえに筆者としてはジープの顧客を奪ってしまわないか今から心配だ。

ますます“成長”するこのパンダの車名は、懐かしい「ムルティプラ」ではないかと噂されている。ちなみにセルヴィアのメディアで、ステランティスのカルロス・タヴァレスCEOに「メガパンダですか? ギガパンダですか?」と現地リポーターが質問したところ、タヴァレス氏は「ギガパンダとは考えてもいませんでした。アイディアをありがとう!」と笑って答えている。筆者としては、いっそのこと「ジャイアントパンダ」で良いのではと思っている。読者の皆さんもフィアットに耳打ちしたくなるような良いアイディアはあるだろうか?

先に発売された新型「ランチア・イプシロン」同様、当面はマイルドハイブリッド版が販売の主力となるだろう。

記事の画像ギャラリーを見る

この記事をシェア

  

Campaign