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最終更新日:2024.09.10 公開日:2024.09.06

”ファスナー合流”は長山先生が提唱者だった⁉ |長山先生の「危険予知」よもやま話 第28回(後編)

JAF Mate誌の「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生からお聞きした、本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介するこのコーナー。後編は高速道路での合流と優先関係の話。1台ずつ交互に合流する”ファスナー合流”は長山先生が提唱者だった⁉ という驚きの話が出てきます。

話=長山泰久(大阪大学名誉教授)

長山先生が“ファスナー合流”の提唱者!?

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編集部:前編の記事で、前方で合図を出して進路変更しようとしている車がいた場合、それを妨害してはいけないという話が出ましたが、高速道路で合流する場合にも同じようなルールはあるのでしょうか?

長山先生:前編でお話したのは、交差点などで右左折しようとしている車に対するもので、高速道路での合流については、まったく異なりますね。

編集部:そうですか。時々、初心者ドライバーが高速道路に乗ろうとしたものの、うまく合流できず合流車線で止まってしまうことがあるじゃないですか。それを見たとき「ウインカーを上げて合流しようとしている車がいたら、合流させなければいけない」という法律があればいいと思ったのです。

長山先生:なるほど。ただ、合流できないような車はたいてい十分加速できていないことが多いので、そのような法律があると、かえって危険ですね。

編集部:それもそうですね。合流させようと減速したら、自分が追突される危険性がありますから。

長山先生:そうです。高速道路は文字どおり車が高速で走行しているのですから、その流れを阻害するような危険な運転は罰せられます。たとえば、道交法75条の6「本線車道に入る場合等における他の自動車との関係」では、本線に入ろうとする車が本線を走る車の進行を妨害することを禁じていますし、同じく75条の7「本線車道の出入の方法」では、本線に進入する場合、加速車線があれば、そこを通行して進入しなければならないとしています。

編集部:「十分加速して安全にスムーズに合流しなければいけない」ということですね。初心者にはハードルが高いですけど、安全を第一に考えれば、道理にかなったものですね。

長山先生:そのとおりです。ただし、渋滞気味の高速道路の場合、道交法とは別のルールが必要になりますね。

編集部:渋滞中ですか? 基本的に譲り合って1台ずつ交互に合流しますよね。でも、それはドライバー同士の暗黙のルールというかマナーであって、道交法にはないですよね。

長山先生:日本の道交法にはないですが、以前スウェーデンで合流の仕方が直感的に分かる看板を見たことがあります。昭和54年(1979年)なので、かなり昔の話になりますが、ヨーロッパ8か国の運転者教育・施設の視察のためスウェーデンに行ったとき、高速道路の合流地点の手前に下図のような歯車が噛み合った図形が提示されていて、見た瞬間に「歯車が噛み合うように1台ずつ交互に合流するのだな」と理解できたのです。

編集部:面白い表現ですね。日本の標識に慣れていると、「何のことだろう?」と理解できないかもしれませんが、交互に合流する動きをうまく表現していますね。

長山先生:これは正式な標識ではなく看板として掲示されていたのかもしれませんが、どのように合流すればよいのか直感的に分かる図で感心したものです。これを見て、日本で用いるなら、右下のようなファスナーを図形で表現したら良いと思い、私は当時盛んに講演や文章で「ファスナー合流」ということを唱えたものでした。

編集部:えっ! 「ファスナー合流」って、ドライバーの間でけっこう使われていますよね、発案者は長山先生だったのですか!?

長山先生:日本に関してはそうだと思います。最近インターネットを見ていると、「ファスナー合流」だけでなく「ジッパー合流」という言葉も盛んに運転者教育の中で使われているようですが、これらの命名の由縁は私のスウェーデンでの経験に基づくものなので、嬉しくもあり、誇らしくも感じたしだいです。

編集部:そうでしたか。でも、「日本に関しては」ということは、外国では“ファスナー合流”という言葉はあったのですか?

ドイツなどでは「ファスナー合流」が規則に?

長山先生:私がドイツに留学していた1955年頃にはまだなかったと思いますが、1969年の道路交通法規事典の中では“Reissverschlussprinzip”(ファスナー合流の原理)という用語が用いられていて、同一方向に進む車が多く、狭くなる道路で他車線に交互に合流する秩序として「ファスナー合流の原理」に従うとうまくいくと示されていました。

編集部:「ファスナー合流の原理」ですか? 物理か化学の用語みたいですね。道交法の事典にあるなら、その頃から規則にもなっていたということですか?

長山先生:「原理」という言葉が用いられているので、この時代はまだ法規ではなかったと思います。スウェーデンで歯車の標識を見た1979年頃もまだヨーロッパ諸国では法規化されていなかったと思いますが、1995年版のドイツの道路交通規則第7条4項には“Reissverschlussverfahren”(ファスナー合流の手順)として、以下のように明文化されています。「道路上において当該の進行方向への車線がもはやそのまま直進することが不可能であったり、または許されていなかったり、またはその車線が終わりであったりする場合には、それ以上進行が出来なくなった車両に対しては、この車両が隣接の進行可能な車線へ、直進している車両の後ろに交互に合流するするやり方で進路変更することが許される(ファスナー手順)」

編集部:交通規則なので、かなり堅苦しい文章ですね。でも、最後の“交互に合流するやり方で”というところがポイントなのですね。

長山先生:そのとおり、車線が減少するからといって闇雲に合流していいわけでなく、「1台ずつ秩序立てて合流しなければいけません」ということです。

編集部:なるほど。1台ずつということでは、長山先生がスウェーデンで感心した「歯車合流」と「ファスナー合流」は同じ意味ですね。

長山先生:「歯車合流」は正式な法規ではないと思われるので、単純に比較はできませんが、1台ずつ合流するという点ではたしかに同じです。ただ、「ファスナー合流」は“狭くなっている合流地点まで進んで合流する”のが大きなポイントになるので、その点は「歯車合流」にはない違いかと思います。

編集部:たしかに歯車の形からは起点や終点は感じられませんが、ファスナーの形からは先の交わる部分で合流するような意味が感じられますね。

長山先生:「ファスナー合流」については、ドイツ以外の国にも法規があり、私がざっと見た限り、合流の条件や手順には以下の特徴がありました。

  1. 狭くなっている先端で合流すること
  2. 直進車両が渋滞気味に列をなしていること
  3. 隣の車線の直進車と交互に合流すること
  4. 直進車の後ろに入ること(優先権が直進車にあるから)
  5. 高速道路及び一般道路の流入地点や合流地点だけでなく、工事現場などで車線が閉鎖されている場合にも該当する

名神高速道路の一宮JCTに設置されているファスナー合流を推奨する標識(写真提供=NEXCO中日本)

編集部:日本でも、渋滞している本線に合流する際など、先で合流せずに手前で合流しようとする車がいて問題になっているようで、NEXCO中日本など高速道路会社では、交互合流を促す標識(上)を設置したり、合流部の途中から合流できないようにラバーポールを設置するといった施策をしているようです(下記リンク先参照)。

https://kurukura.jp/article/23978-20231004-50/

長山先生:先まで行って入れてもらえなかったら…という不安感から手前で合流しようとするのでしょうね。だから、ファスナー合流が可能となるためには、合流地点では優先権のある直進車両の側にも、必ず交互合流として1台は入れさせなければならないという意識を作らなければならないと考えます。交通の教則において記述し、キャンペーンをきっちりする必要があるのではないでしょうか。

編集部:そうですね。運転に慣れていないドライバーはなかなか積極的に合流できませんし、1台ずつ合流しているのに、優先意識からなのか譲らないドライバーもいますから、ドライバーとして必要なマナーとして、しっかり定着させたほうがいいですね。優先意識で思い出したのですが、地方の田舎道でY字路に差し掛かったとき、どちらが優先なのかはっきりしないことがありました。交通量が少ないので困らなかったのですが、どちらにも一時停止の規制はなくて、タイミングしだいでは出会い頭事故になると思いました。

ドイツの優先関係は、日本より明確?

長山先生:高速道路のジャンクションなどでは、左下の「優先本線車道」の規制標示があり、合流地点に破線が示され、破線を越えて合流する側が相手の行動を妨げないようにする「非優先の関係」があることが標示されているので、まず迷わないと思います。一般道路の場合、右下の「前方優先道路」の指示標示があれば、逆三角形のマーク側が非優先となり、「相手側の道路が優先道路であるので相手を妨げてはならない」ことになります。

編集部:「横断歩道または自転車横断帯あり」の菱形ならよく見ますが、逆三角形マークは見た記憶がありませんね。

長山先生:たしかにそうですね。一般ドライバーの認識は不足していて、相手側を優先させようとする意識が薄いまま運転してしまい、合流時の危険を生み出してしまうような気がします。

編集部:交差点なら「左方優先(交差道路を左から通行してくる車両が優先)」や「広路優先(幅員が明らかに広い道路を通行する車両が優先)」が知られていますが、同じような幅員のY字路だったら迷いますね。ちなみに、外国でも「左方優先」のような考え方はあるのですか?

長山先生:ドイツは右側通行なので「右方優先」になります。ドイツの道路交通規則には、「交差点と合流点では右から来るものが優先権を持つ」と条文化されていますので、合流点に入るときにもはっきりした意識・認識で入ることができます。標識も、非優先側には「相手の優先権を守れ」「とまれ」の標識、優先側には「(自分の交差点・合流点で)優先権あり」「(この道路)優先道路」と、必ず対に設置されます。

編集部:先ほどの逆三角形マークの場合、非優先側のみ設置されていると優先側の車が迷うかもしれませんが、それぞれにしっかり標識が設置してあれば、迷わずスムーズに通過できそうですね。

長山先生:そうですね。また、ドイツの道路交通規則には、「相手の優先権を守らなければならないものは、自分の行動によって、特に適切な速度を取ることによって、自分が待つということを相手に分からせなければならない」という条文もあります。優先関係を単に解説するだけでなく、譲らなければいけない側にもそれに相応しい運転行動を求めているのです。

編集部:交差点や合流地点で相手の車両が微妙に動いていたり、あまり減速感が感じられないと、譲ってくれたのかどうか判断に迷うことがあるので、それは大切なことかもしれませんね。よく「運転はメリハリが大事」と言いますが、「進む・止まる」を明確にすることが交通の流れをスムーズにし、事故を減らすのでしょうね。

『JAF Mate』誌 2017年6月号掲載の「危険予知」を元にした「よもやま話」です

<前編を読む>
左折前の“幅寄せ”で安全性がアップ!|長山先生の「危険予知」よもやま話 第28回(前編)
https://kurukura.jp/article/41051-20240813-90/ ‎

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