国道158号、大幅な所要時間の短縮で“酷道”を返上した安房トンネル! その壮絶な難工事の歴史を振り返る。
国道158号の安房峠道路は、観光地の岐阜県高山市と長野県松本市を結ぶ重要なルートだ。安房峠道路ができる前からある旧道は狭隘・急峻な酷道だが、1997年に火山帯を貫通する安房トンネルと安房峠道路が開通したことで大幅な時間短縮を実現し5~6分で通過できるようになった。もちろん、その背後には想像を絶する難工事があったのだが……。
かつての幹線、国道158号旧道の安房峠は酷道!だった
安房峠は、長野県と岐阜県の県境にまたがる峠だ。この峠を越えるルートは信州と飛騨を結ぶ交通の要衝だが、難所のひとつとして有名であり、当初、この峠を越える幹線であった国道158号の旧道は、道路マニアには「酷道」として知られていた。
旧道は狭く大型車のすれ違いが困難で、アップダウンが激しくつづら折りの急カーブが続く。かつての旧道での安房峠越えは、天候や季節によっては8~10時間かかることもあったという。また、積雪で通行止め(11月中旬~5月上旬)にもなる。その際は、大幅な迂回路をとらざるを得なかった。
このため、安房峠を抜ける安房トンネルを含む安房峠道路が計画され、1997年に開通した。その工事は、「日本のトンネル技術の敗退」とまで言わしめた国道152号 青崩峠のトンネル工事に匹敵するほどの難工事であったという。
火山にトンネルを貫通させよ! 難工事の行方は?
「安房トンネル」は、調査をはじめた段階で、以下の地形や地質が大きな壁となって立ちはだかっていた。
- 北アルプス山岳地帯特有の急峻な地形
- 火山活動が行われている地域
- 火山噴出物が堆積した脆弱な地質
山岳部に道路を築くか、火山帯にトンネルを貫通させるか。比較検討の末、長大トンネルに決まり、調査抗が掘り進められることになった。
長野側は高熱帯を掘り進めるため、送風管での冷却や耐熱用火薬などを使用しなければならなかったが、これで大きな問題はないこと、懸念していた火山性ガスもそれほど心配ないことがわかった。一方、岐阜側は熱水の噴出を抑えながら掘り進めることはできたが、想像以上の脆弱な地質のため、難易度の高い「水抜工法」を選択せざるを得ないことが明らかとなった。
本坑着工後、岐阜側では出水による土砂の流出により、水抜坑や調査坑の一部が埋没するも、地下水位を下げることに成功し、両側からの掘削を続け、トンネルの建設ではひとりの犠牲者も出さず、1995年4月に貫通を迎えたのだった。しかし、貫通を目前とした1995年2月、長野側のトンネルに接続する道路を建設する現場の水蒸気爆発で作業員4名が命を落とす事故も発生している。
その後、周辺の道路などの整備を進め、1997年12月6日、安房峠道路は開通した。難工事の末に切り拓かれたこの道路によって、国道158号の難所といわれた安房峠をたった5分で通り抜けられるようになった。
安房峠道路は中部縦貫自動車道の一部となり、同自動車道は国土交通省の管理する無料の自動車道だが、安房峠道路のみ、NEXCO中日本管轄の有料道路として供用されている。有料期間は2049年まで、無償化まではまだ時間はかかりそうだが、利用者からは「有料でも利用したい」という声が多いという。それどころか、地元では、この安房峠道路の開通が「第二の夜明け」とまで言われているとか…。
なお、酷道で名高い旧道だが、現在も通行可能(冬期を除く)である。厳しい道路ではあるが、その途中では、ドライバーやライダーの疲れを癒した綺麗な景色が待っているかもしれない。
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