『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第42回 発進!“ミニ・フェラーリ” フィアットX1/9愛が止まらない。
イタリア・シエナ在住の人気コラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情をお届けする連載企画。第42回は、“ミニ・フェラーリ” ことフィアットX1/9の愛好家たちに迫った。
ガンディーニの傑作
1970-80年代を象徴するイタリア車のひとつ、「フィアット/ベルトーネX1/9」。その愛好家たちが、筆者が住むトスカーナでミーティング&走行会を催すと聞いて駆けつけてみることにした。
まずは、おさらいしておこう。X1/9(イタリア語でイクスウーノノーヴェ)は、フィアットが1972年に発表した2シーターのスパイダー・クーペである。車名は開発時のコードネームを流用したものであった。前輪駆動車フィアット「128」の1.3リッター・エンジンをミドシップして後輪駆動としたことで、前41:後59の重量配分を実現した。
エクステリアデザインは、マルチェッロ・ガンディーニ(1938年〜)がチーフデザイナーを務めていた時代のベルトーネ社が担当。ウェッジシェイプのプロファイルと切り詰められたテール(コーダ・トロンカ)はスタイリッシュなだけでなく、優秀な空力性能と走行安定性に寄与した。
乗員は、リア・ウィンドウが組み込まれたロールバーによって保護される。ルーフは取り外し可能で、フロントのラゲッジ・コンパートメントに収納できる設計になっていた。生産は車体製作がベルトーネ社の製造部門、機構部分はフィアットのリンゴット工場という分業体制で行われた。
X1/9はフィアットにとって、とくに米国市場における象徴的なモデルとなった。現地ではファンの間では、“ミニ・フェラーリ”のニックネームでも親しまれたという。1978年には生産10万台を達成。同年10月には1.5リッターに排気量がアップされ、手動変速機も4段から5段になった。1982年からはベルトーネ・ブランドに変更され、同社のもと1989年まで販売された。総生産台数は約17万4千台に達した。
引き出しから飛び出した、幼き日の夢
「クラブX1/9イタリア」は、その名のとおりフィアットおよびベルトーネX1/9の愛好会である。イタリア各地に支部をもち約200名の正会員がいる。
会長のガンドルフォ・マドニア氏は1957年生まれ。日ごろはメカニックとして数々のスーパースポーツカーのレストアを手掛けているカー・エクスパートである。大声で率先するのではなく、地道にチームをまとめ上げるリーダーだ。2022年には、クラブの本拠地トリノでX1/9誕生50周年を祝った。
その彼らが2023年7月2日、ミーティング&走行会を企画した。出発地はフィレンツェ県チェルタルド。誰もが世界史の授業で一度は耳にする物語集「デカメロン」の作者、ジョヴァンニ・ボッカッチョゆかりの地である。
前日までの雨模様を忘れさせる青空が広がった当日、イタリア各地から集結したX1/9は50台。最遠来は片道480キロメートルかけて来たナポリからの夫妻だった。「ニ十数年前の新婚旅行のお供も、このクルマでした」と嬉しそうに話す。
午前中に集合した一行は昼前、地元オーガナイザーのナビゲートでワイナリーへとアクセレレーション・ペダルを踏んだ。
小柄なボディ、1.1メートルちょっとという低い車高、そして開放的なオープントップのおかげで、道行く人が気軽にドライバーやパッセンジャーに話しかける。同じオープンモデルでも、高級車にはないフレンドリーな雰囲気をX1/9はふりまく。
ワイナリーに続いて、十数キロ離れたランチ会場へ。途中水温を下げるため、路肩で小休止する参加車もみられたが、約30分をかけて無事全員到着。イタリア式フルコースを楽しみながら、愛車談義に花を咲かせた。
フィレンツェから参加したリッカルドさんは、X1/9を「気軽に遊べる素晴らしいヒストリックカー」と定義する。ミッレミリアの定番コースになっているフータ峠のドライブも楽しんでいる。ただし冬の間はお預けだ。「滑り止めに撒かれる塩化カルシウムは、錆びやすい昔のフィアットにとって、大敵なのです」。喜びと、いたわりのバランスが大切なのだ。
ガンドルフォ会長によると、前述のようにエンジンはフィアット128用をベースとしているものの、オリジナルパーツは欠品気味という。そうした部品の入手法、またイタリアにおける古典車登録の法的手続きなどの情報交換は、クラブの重要な目的のひとつだと話す。
20代のオーナーも!
最も若い参加者のひとり、トンマーゾさんは1995年生まれの若干28歳である。1977年式X1/9は、彼にとって最初のヒストリックカーだ。経済的にリミットがある世代も容易に入門できるのは、まさに稀代のイタリア車といえよう。
その日集まった彼らのX1/9愛を象徴する言葉は、ヴェネト州からやってきたアルドさんによる、詩的なコメントが相応しいだろう。「大人になって机の引き出しを開けてみたら、子ども時代の夢が飛び出してきたようなクルマ。それがX1/9なのです!」
記事の画像ギャラリーを見る