路上の噴水。地下水で雪を溶かす「消雪パイプ」の仕組みと歴史を調べてみた
雪が多い地域で、冬に道路からスプリンクラーのように水が出ている光景を見たことがあると思う。これは、「消雪パイプ」と呼ばれるシステムで、地下水をくみ上げて散水ノズルから水を撒き路面に積もった雪を溶かす装置だ。1961年、新潟県長岡市に初めて設置されてから今日に至るまで、豪雪地帯の道路交通を支えてきた消雪パイプとはどのようなものなのだろうか。その歴史と仕組みについて紹介。
地下水で雪を溶かす。消雪パイプの仕組みとは?
1月には東京で4年ぶりとなる積雪を記録し、北海道や東北地方などの豪雪地帯では一部集落が孤立するなど、今年も各地で寒波の影響による積雪が続いている。積雪がひどくなると道路交通網への影響も大きい。交通事故の可能性はもちろん、事故に至らなくても1台の立往生で交通が遮断されてしまうこともある。また、クルマだけではなく、歩行者や二輪車などの転倒事故の心配もある。
これらの事故を防ぐために、除雪車を使った除雪も行われているが、降雪量が多いと除雪も追いつかなくなる。そこで、特に豪雪地帯で整備されているのが「消雪パイプ」というシステムだ。道路の真ん中からスプリンクラーのように水が吹き出しているこのシステム、雪の多い地域にお住まいの方にはお馴染みの設備だが、雪の少ない地域に住んでいると知らない方も多いかもしれない。この消雪パイプとはどのような仕組みになっているのだろうか。さっそく見てみよう。
まず消雪パイプから吹き出している水について。この水は水道水ではなく地下水で、井戸からポンプでくみ上げられた地下水が、道路の下に張り巡らされたパイプを通って運ばれ散水されている。なぜ地下水かというと、地下水の水温は冬でも約13~14℃のため、水道よりも温かく雪が溶けやすいためだ。
この消雪パイプから地下水が出ているのは雪が降っているときだけだ。かつては人間が操作していたが、現在、消雪パイプの多くは、「節水型降雪検知器(降雪センサー)」と呼ばれるセンサーを使って、自動的に散水が始まるようになっている。条件は、約0℃以下の環境で雪が降っていること。停止も自動だ。これにより、降り出したらすぐに稼働するので、雪が大量に積もってしまう前に効率よく雪を溶かすことができるようになった。自動停止により、無駄な稼働をなくして節水等にも役立っている。
さらに雪を溶かしてしまう消雪パイプには、除雪作業で問題になる雪のやり場を減らすメリットもあるという。
新潟県長岡市から始まった消雪パイプの歴史
この画期的な消雪パイプが初めて導入されたのは、1961年、屋根まで積雪することもある豪雪地帯の新潟県長岡市であった。当時、地下水が湧き出る場所では雪が溶けることにヒントを得て、浪花屋製菓株式会社の創業者、今井與三郎氏が発案。当初は、「水で雪が溶けるわけがない」と否定的な意見もあったというが、自身の会社や自宅の庭などで幾度も実験を行い、現在の消雪パイプの元となる装置を開発し、長岡市で導入された。
導入後の1963年、三八豪雪とも呼ばれる歴史的な豪雪があったが、同市では消雪パイプが活躍し、その有用性が評判となった。1969年には長岡市が消雪パイプの実用新案権を公開。各地へ消雪パイプが広がるきっかけになったという。
一方で、地盤沈下という課題も発生
豪雪地域において画期的な仕組みである消雪パイプだが、一方で課題もある。それは、地下水を大量にくみ上げるため、使いすぎると「地盤沈下」の危険性があることだ。実際、地盤沈下による建物の傾斜なども発生したという。
長岡市では、こうした地下水の採取による著しい地下水位の低下と地盤沈下を防ぐため、1986年に「地下水保全条例」を制定。前述した降雪センサーによって無駄な散水をなくす対策を進めた。
さらに同市では、降雪量をセンサーで察知して散水量を調節する「インバーター制御システム」も導入。このシステムの導入により、長岡市では地下水の使用量を半分に減らすことができた。節水パトロールや、節水呼びかけなども行い、現在、地盤沈下は沈静化しているという。
積雪の多い地域で消雪パイプを見かけたら、単純な仕組みのようで、その背景に多くの人の協力や工夫があることを思い出し、より安全運転に努めたいものである。