【フリフリ人生相談】第415話「子どもにスマホをいつ持たせるか問題」
登場人物たちは、いいかげんな人間ばかり。そんな彼らに、仕事のこと人生のこと、愛のこと恋のこと、あれこれ相談してみる「フリフリ人生相談」。人生の達人じゃない彼らの回答は、馬鹿馬鹿しい意見ばかりかもしれません。でも、間違いなく、未来がちょっぴり明るく思えてくる。さて、今回のお悩みは?「子どもにスマホをいつ持たせるか問題」です。答えるのは、相談者と同い年の娘を持つ由佳理です。
そもそもスマホでなにをする?
今回のお悩みは、子どものいる家庭ならみんな一度は通る道ではないでしょうか。
「子どもにスマホをいつ持たせるか問題」。
悩ましいですね。正解があるのかないのか。あれこれ考えてみたいと思います。
30代のママからの相談です。
「小学4年の子を持つ母です。最近、ママ友たちと、子どもにスマホを持たせるかどうかで盛りあがっています。反対派のママは『子どものころは自分で足を運んで調べること、発見することが大切』と言い、賛成派のママは『世のなか怖いから、すぐに連絡を取れるスマホは必要』と言います。うちの家庭でも、子どもがそろそろスマホがほしいと言いだしており、夫婦で悩んでいます。いいアドバイスをください」
iPhoneの生みの親であるスティーブ・ジョブズは、自分の子どもには14歳になるまでスマホを持たせなかったといいます。今回のお悩みママのお子さんは小学4年、10歳とか、ですかね。
さてさて、みなさんの家ではどうしてますか、なんて言いつつ、うちはどうだったかな、と、はるか昔のことを思い出してみると、中学生になったと同時に携帯電話を買ってあげたような記憶があります。ただ、携帯電話とスマートフォンはまったくベツモノという気もして、時代とともに機能も役割も大きく変わっているのかもしれません。
さて、今回は、由佳理に相談することにしました。先日は彼女の夫である髙橋純一と丸の内のホテルで会ったのですが、今回は……と、やっぱり、同じホテルのカフェラウンジを指定されました。わかりやすくて、いいですね。
「スマホ問題……子育てあるあるですよね」
と、話を聞くなり、由佳理はおだやかに微笑します。
「きみんちは、もう中学生くらいだっけ?」
「いえいえ、ちょうど、このママさんと同じですね」
「そうだっけ?」
と、驚く私。
「ってことは、小学4年生?」
「そうなんですよ」
「そうかぁ」
月日がたつのは早いのか遅いのか……山田一郎と離婚した由佳理が髙橋純一と結婚して、すぐに妊娠していったいどっちの子どもなんだ……なんて大騒ぎがありました。それがかれこれ10年前……もっと昔のようでもあり、つい最近のようでもあり……不思議な感覚で、私は由佳理の顔を見つめました。間違いなく、あのころより、彼女は美しくなったと思います。髙橋純一と結婚したおかげで、すっかり磨きがかかったのは間違いありません。
「…………」
そんなことを考えながら、私はつい由佳理に見とれてしまいそうになります。
「いや、えーと」
などと気持ちを切り替えて、お悩み相談の続きです。
「きみんち……花子ちゃんだったよね」
「そうですそうです」
「どうしてるの? もうスマホは買ってあげた?」
「うちも同じですね。友だちのなかにはそろそろ持ってる子がいて、花子もほしいなんて言いだしてます。なので、うちはどうしようって、純一さんと話してるところ……」
「まさに、今回のお悩みは自分んちの問題だね」
「そうなんですよ」
グッドタイミング……というか、彼女のところも結論が出てないわけで、これは相談の回答というわけにはいかないかもしれません。
「そもそもスマホでなにするのって、まずは、そこからですよね」
と、きのう旦那と話していたことのように、彼女はふいに母親の顔になって言いました。
「お悩みのママさんも言ってますけど、調べものをするためのスマホなのか、親と連絡を取るためのスマホなのか……」
「なんでもできるからね」
「そうなんです。まだ早いとは思いながら、ああいうものって早くから触れているほうがどんどん慣れて自然に接するような気もするし……子どもは早いですからね」
どこでもドア、みたいな
新幹線のなかで幼い子どもがiPadを見ながらおとなしくしてるって場面をよく見ます。ママがiPadをすっと出すと、ぐずりかけてる子どもがすらすらと自分のお気に入りの画面を出して楽しんでいる……それがいいとか悪いとかではなく、そういう時代になった、ということなのでしょう。
「子どもが4人いて、みんな東大に行かせたママが、子どもには12歳まではタブレットなんて渡しちゃダメとか言って炎上したじゃない?」
「ホリエモンが噛みついたって話ですね」
「そうそう。今回の反対派のママ友も言ってるけど、調べものは自分で足を運んで発見することが大切って意見もあるよね。紙の本をめくることで広がる体験こそが大切、とかさ」
「松尾さんって、そっち派でしょ?」
と、由佳理はくすりと笑います。
「そっち派?」
「アナログこそが人間の知恵を育てる、みたいな……」
由佳理はそう言って、いたずらっぽい目で私を見ます。
私は肩をすくめるしかありません。
「そっち派、みたいに言われちゃうと否定したくなるけど……まぁアナログは大切だって言い切りたい世代ではあるなぁ」
由佳理はおかしそうな顔つきのまま、私の顔を見て、少し考えているように小首をかしげました。そして、冗談のような口ぶりで言いました。
「どこでもドア、みたいなものかなぁって……」
「どこでもドア……ドラえもんの?」
「そうです。どこでもドアがあれば、どこにでも行けるわけですよね。ドアをくぐれば冒険の旅……なんですけど、それって、親の立場からすると、かなり心配ですよね」
「…………」
「そもそも、タケコプターだって、アタマにあんなものつけて空を飛ぶんですよ。危ないですよね、ふつうに考えると……」
「なんの話、してるの?」
と、今度は私のほうが首をかしげてしまいました。
「いや、だから、どこでもドアとスマホって似てるんじゃないかって思ったんですよ。子どもの視線で言うと……つまり、ドラえもんっていう漫画の世界だと、親の心配をくぐり抜けて、子どもたちだけで冒険して成長していくわけじゃないですか。子どもにスマホを持たせるっていうのは、そういうことかもしれないなぁって、最近思ったんです。スマホさえあれば、世界とつながれて、いろんなものを発見できて……」
「極端だけど、わかりやすい視点だね」
「どこでもドアじゃダメだ、実際に自分で歩いていかないと意味がない……っていう意見もわかるんですけど、それとこれとは、ちょっと違うかも、という気もするし」
「なるほど……」
私は深くうなずきました。
スマホはどこでもドアみたいなものではないか? というのは、親でありながら冷静な視線で子どもの世界を理解するってことかもしれません。子どもたちが持つ冒険への憧れ、実際に自分が子どもだったころに体験した「友だちと共有したワクワク感」。そういう体験って大切だよね、と、由佳理は思っているわけです。
「話を聞いてると、由佳理は子どもにスマホを持たせてもいいって思ってるのかな?」
「まぁ基本的には、そうかもしれないです。でも……」
「でも?」
「どこでもドアを抜けたら、そこはチョー危ない世界ってことも、あるわけじゃないですか」
「あるだろうね」
「問題は、そこなんです」
「そうだろうね」
いっしょに体験するつもりで
「スマホ」と「どこでもドア」。スマホは少し前までは未来だったけど、どこでもドアはいまでも未来です。世界で起こっているすべてのことにアクセスできる、という意味では、似ているところがあります。
親の心配は、その「すべてのこと」という部分かもしれません。スマホを使って、昆虫とか花とか天体とかを調べてるぶんにはいいけど、ゲームにはまったり、みょうなものを買ってしまったり、あやしい人に出会ったり……心配のタネはつきません。
最近ではSNSの書きこみで炎上なんてこともあります。友だち同士で冗談のつもりで飲食店でいたずらをやって大炎上……おじさんの私ですら身のすくむような失敗が起こりうるのです。
「で、どうするの?」
と、私はごくふつうに聞いていました。
由佳理はこくりとうなずくと、はっきりとした声で言いました。
「純一さんとも話したんですけど、スマホってこういうものだとか、親として心配してるところとか、いろいろと、ちゃんと花子と話すのがいいのかなって。まずは私のスマホを花子といっしょにいじりながら、ママはこんなサイトを見て、こんなふうにお買い物してるんだよ、とか……いっしょにショッピングモールを散策する感じですよね。まずはいっしょに体験しながら、あぶないところもいっぱいあるよって話をして、そのうえで、花子にもスマホを買ってあげる、だけど、使ってて不安になったり危険だって思ったら、すぐに相談してねって……そういうふうになればいいなって、いまのところ思ってるんです」
「いいね」
としか、私には言葉はありません。子どものことを信頼してスマホを持たせるってことです。そういう前提で、その後の運用方法は親子で考えていこう、と。スマホに装備されているペアレンタルコントロールなどは、親子で決めるべき運用方法のひとつでしょう。
「どこでもドア、なんだけど、親もいっしょにってことだね」
と、私は笑いかけました。
「そうです。親が管理するってなっちゃうと、子どもはいやじゃないですか。だから、親もいっしょにドアを使いましょうってことです。楽しいですからね、実際」
おだやかに笑う由佳理を見て、こういうふうに考えているなら、まったく問題はないような気がしました。
「いやぁ」
私は思わず頭のうしろに手をやって、苦笑します。
「いつの間にか、由佳理さんも、いい母親なんだねぇ」
「そんなこと、ないですよぉ」
と、淡い笑顔を浮かべて、由佳理は透明な視線で、私を見つめます。
それに反応するようにつぎの言葉をあれこれ思いついて、私はふと、口を閉じました。つい、冗談のつもりでアホなことを言ってしまいがちなのです。
「…………」
たったふたりきりの会話でも炎上することはあります。世界とつながっているスマホの取り扱いは大変だよなぁ、と、美しい由佳理を見つめながら、改めて痛感するのでした。