イタリアでクラシックカーイベントが開催! 欧米がコロナ禍でも自動車イベントを再開する理由とは?
コロナ禍にも関わらず、いま欧米では続々と自動車イベントが再開している。イタリアで7月に開催された自動車の美しさを競うコンクール・デレガンス、「ポルトクァトゥ・クラシック」もそのひとつだ。そこはまるで、コロナ以前に戻ったような素晴らしい光景が広がっていた。カー・ヒストリアンの越湖信一氏が現地からレポートをお届けする。
欧米がイベントを再開できる理由
ヨーロッパの主要な自動車イベントは、コロナ禍にも関わらず積極的な開催に向けてシフトし始めた。イタリアでは「ミラノモンツァモーターショー」、英国では「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」が大盛況のうちに終わり、この8月にはペブルビーチ・コンコースで有名な北米モントレーカーウィークが開催される予定だ。
これから秋口にかけて、今までの遅れを取り戻さんとばかりに、週末はイベントラッシュ状態となるが、いずれも屋外の広いスペースを使った催しであり、適切な管理さえ行われれば感染に関するリスクは抑えられる、という考えに基づいての判断だ。
筆者にとってなじみの深いイタリアにおいても、夏に向けて行動制限の緩和が相次いで発表された。イタリアは早い段階で新型コロナの感染が拡大し、大きな犠牲を伴ったことはまだ記憶に新しい。そこで同国政府は感染レベルに応じて地域別に制限を課す方針をとり、積極的なワクチン接種を行った(接種率は日本の2倍程度となっている)。さらに罰金など、強制力のある罰則を適用することで状況は大きく改善された。
イタリア人にとって夏のバカンスの存在感は限りなく大きい。これに制約を加えることは並大抵のことでなく、国民からの反発など大きなリスクを伴う。また重要な観光産業を疲弊させる訳にもいかない。さらにイタリアの財政は厳しい状況にあり、各種補助金も当初には支払われたものの、今後の追加は期待薄と考えられている。そんな状況の中で、夏に向けて大きな開放政策をとるという決断が下されたわけだ。
まるでコロナ禍であることが嘘のような盛り上がり
後日、イタリア全土で移動やイベント開催に関する制約がほぼ撤回された。併せてマスク着用も屋外では不要となったから、彼らは大喜びだ。そんな中で開催されたのが、今年で6回目を迎えたクラシックカー・コンクールデレガンス、「ポルトクァトゥ・クラシック」だ。連載コラム4回目となる今回は、7月2日~4日にわたり開催されたこのユニークなイベントをご紹介したい。
当イベントはイタリア本土からもほど近いサルディニア島で開催される。それも、皆が憧れるコスタ・スメラルダのビーチを贅沢に使っての3日間の開催だ。このエリアにあるオリビア空港はイタリアのみならずヨーロッパの主要都市より直行便が多く就航しており、1時間ほどのフライトでミラノやローマからも移動できるとあって、アクセス抜群のロケーションなのだ。
さらに大きなメリットもある。バカンスの時期ともなれば、イタリア本土の海岸線はどこも大渋滞だ。しかし、ここは本土から離れたサルディニア。フェリーで持ち込んだクラシックカーたちは渋滞知らずのドライブを楽しむことができるのだ。
今回は、映画「007/私を愛したスパイ」(1977年)で有名なカプリチョーリ・ビーチにある伝説のヴェスパー・ビーチ・クラブ(そう、あのロータス・エスプリの潜水艇仕様が登場したビーチだ)や、ラグジュアリーなポルト・チェルボを周遊ポイントとした美しいワインディングをドライブしたり、空港の滑走路を占有したゼロヨンレースなど、盛りだくさんのプログラムが組まれた。さらに、当イベントに深い関わりを持つジウジアーロのデザインによるハイスピード・ボートによるオフショア体験も行われた。
そういったホスピタリティ満載の一日を楽しんだあとは、本題である自動車の美しさを競うコンコース・デレガンスが待ち構えている。チーフジャッジのパオロ・トゥミネッリ、ファブリツィオ・ジウジアーロやヴァレンティノ・バルボーニ、FIVA(クラシックカー国際協会)役員や世界のジャーナリスト達が、車両の審査を行う。イタリア屈指のコレクションをはじめとして、ヨーロッパ各国や北米からの参加者も加わり、参加車両はどれもきわめて高いレベルにある。
審査員達が汗を流してジャッジを行った後の授賞式は、南イタリアのリゾート地らしく、深夜に行われた。ホテル構内に停められた参加車両にオーナー達がスタンバイした時は既に23時を廻っていた。審査員やギャラリーの間にひかれたレッドカーペット上に主役である車両達が登場し、一台ずつ紹介されていく。プレゼンテーターはミッレミリアのコメンテーターとしても有名なサヴィーナ・コンファローニ嬢と、イベントの主催者であり、総合ディレクターである、シモーネ・ベルトレロ氏が担当する。
日本車の参加も増えている!?
さて、授賞式の結果をお伝えしよう。「A Matter of Styleクラス」ではロプレスト・コレクションのランチア・アストゥラ・カブリオレ・ピニンファリーナが受賞。「La Dolce Vitaクラス」では、オランダから1000マイル以上を旅してやって来たランチア アウレリア B24S コンバーチブルが選ばれた。
近年のモデルを対象とした「Forever Youngクラス」ではフェラーリ208 GTB ターボが受賞。「ASIトロフィー」はフィアット1100TVが、そして「Spirit of FIVA賞」はメルセデス300SLロードスターが受賞した。また、「ジウジアーロ賞」はASA 1000 GTクーペが獲得した。
“ビーチカー”のカテゴリー、「Sex On The Beachクラス」はデューンバギーマイヤーズ・マンクスが受賞。「Rally Queenクラス」はランチア037グループBが選ばれた。しかし、サンレモ・ラリーでは有名なカルロ・ファルコーネ氏のスバルWRCも、大いに注目された。こういった世界的なコンクール・デレガンスにおいて日本車の参加が見られるようになってきたのは素晴らしいことだ。
また新設されたレストモッド部門「Back to the futureクラス」では、ラポ・エルカーン氏率いるGarage Italiaが製作したダットサン240Zも見られたが、総合的な仕上がりからフェラーリ308GTSをベースとしたマッジョーレ308Mが選出された。
そして、総合優勝にはニコリス・ミュージアムのフィアット1100スポーツ・バルケッタMMが輝いた。私は今回、ミッレミリア・オーガニゼーションより「Spirit of 1000 Miglia賞」の選考を委任されていたのだが、同賞においてもミッレミリア参加のヒストリーも持つこの個体を文句なく選んだ。
クルマ趣味の高齢化という課題にどう挑む?
ジウジアーロ親子はポルトクァトゥ・クラシックのアイコンとも言える存在であるが、今年は息子ファブリツィオ・ジウジアーロ氏のアニバーサリー・イヤーだ。彼がイタルデザインにおいて、自動車開発のディレクションを手がけて30周年を迎えたのだ。
その30年前に彼がはじめてゼロから完成させたコンセプトカーがBMW NAZCA M12であり、これも彼の手による最新EV、GFG STYLE Kangarooと共にポルトクァトゥ・クラシックに登場した。父ジョルジェットと共に、アズテックやマセラティ3200GTなどの開発に関わってきた彼にとって、このBMW NAZCAは思い出深いモデルであり、この週末もサルディニアのワインディングを軽快なスピードでかっ飛ばしていた。
「今回のイベントのテーマは、若い世代にクラシックカーを楽しむきっかけを見つけてもらうということ」と主催のベルトレロ親子は語る。クルマ趣味を持つ人々の高齢化が話題となって久しいこの頃であるが、このように自ら行動を起こす者は多くない。素晴らしいテーマ設定であり、その志は広く理解され、多くの若い世代の参加者がポルトクァトゥ・クラシックに集まったのだ。何をおいてもコロナ禍が収まり、より安全にイベントが頼める時がくることを祈るばかりである。