「ヒマラヤタール」|第21回アニマル”しっかり”みるみる
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物展示課飼育担当佐藤さんに、「ヒマラヤタール」を解説してもらいました。
急な斜面も苦にせず駆け上がる身体能力
ちょっと聞きなれない名前の「ヒマラヤタール」ですが、ウシ科の動物の中でも分類上はヤギに近い種類で、中国やインド、ネパールなどの標高2,000~4,000mの山岳地帯に生息しています。体長は1.0~1.5m、体重は60~100kgほど。身体能力が高く、俊敏で跳躍力に優れ、三日月のような形の角(オスもメスも生える)を持っています。
ヒマラヤタールの特徴は、足場の悪い岩場を好むこと。
「園内の展示場では、休む時も岩場の縁に体を貼り付けるように立っていることが多い」(※佐藤さん以下同)そうです。平たい場所にいた方が楽なはずですが、あえてそんな場所を選ぶのはヒマラヤタールが野生下で暮らす環境と関係しています。
ヒマラヤタールが生息する標高の高い山岳地帯とは、急峻な山の斜面や断崖などがある場所です。他の動物では移動することもままならないそんな足場の悪いところでも、器用に軽々と飛び跳ねていきます。急な岩場で生活することで外敵から身を守るその習性が、飼育下においても残っているのです。
そのための、岩場を苦にしない体の仕組みがヒマラヤタールには備わっています。
その一つが、2つに分かれた蹄(「主蹄」という)です。蹄は広げることができ、右と左に分かれていることで、足場が悪く狭い場所においても体重を分散させ、地面をしっかりととらえることが可能となります。また浮いたかかとのあたりには「副蹄」と呼ばれる小さな蹄があり、岩場をとらえてずり落ちないような働きをしています。
ヒマラヤタールは前足の力がとても強く、前足さえ地面に着いていればどんなところでも駆け上っていけます。しかも登坂力だけでなくジャンプ力も相当なもので、壁に向かってジャンプしたと思ったら、その壁を蹴って今度はそのまま高さが3mほどもある天井まで飛び上がったこともあるそうで、おかげで「樹脂製の天井に人が通り抜けられる程の大きな穴をあけたことがあった」とか。その張本人のヒマラヤタールは体を傷つけることもなく、無事だったそうです。身体能力が高いうえに体も頑丈なようです。
ヒマラヤタールのその他の特徴としてもう一つ挙げられるのが、豪華な襟巻状に生える体毛です。この体毛は成獣のオスに特有のもので、あごから胸元にかけて生え、その部分の体毛は他に比べると白っぽく、毛の長さは20~30㎝くらいあります。秋から冬にかけて長く伸びます。オスのヒマラヤタールは、他のオスに対して自分をより大きく強く見せたり、メスにアピールするときにそんな襟巻状の体毛を役立ているといわれています。
ヤギに似た「ミュウ―」という鳴き声
野生下のヒマラヤタールは、2~20頭ほどの群れを形成するといわれており、繁殖期以外の時期ではオスは単独もしくはオスだけの群れを作り、メスは子供と一緒の群れを作って暮らします。
角があるヤギの仲間特有の角の突き合いもあまり頻繁に行わず、「園内のヒマラヤタールに限っての話ですが、噛んだり、蹴ったりもあまりしません」。
またヒマラヤタールは鳴き声でコミュニケーションをとります。
「『ミュウ―』という少し高めのヤギみたいな声で鳴きます。特に母親が子供を探すときに鳴くことが多いです」。
おとなしく、人慣れしない性格
そんなヒマラヤタールとは、どんな性格の動物なのでしょうか?
「おとなしい性格ですが、人間と距離を取りたがる動物で、あまり人には慣れません」。
最後に「ヒマラヤタールあるある」についても伺いました。
「人に近づきたがらないはずなのに、柵越しだと近寄ってくることがある」そうです。
「柵がある場所に限ってですが、飼育員が作業をしていても安心して近づいてきてこちらの匂いを嗅いだりすることがあります。人慣れはしない動物ですが、柵があるので人が近づけないことが分かっていて、そんな行動をとるようです」。人慣れしない性格で人には近づきたくないものの好奇心の強さがそれを上回ってしまうようです。