クルマのある暮らしをもっと豊かに、もっと楽しく

Cars

最終更新日:2023.01.06 公開日:2023.01.06

元祖プレミアムSUV! なぜレンジローバーはイギリスを代表するクルマになった?──ロイヤルファミリーも愛した英国生まれの名車たち(第1回)

自動車エンスー王国として知られるイギリスでは、ロイヤルファミリーにもクルマ好きが多いという。この特集企画は、そんな英国エスタブリッシュメントたちが愛したクルマたち、あるいは世界中の自動車愛好家たちに愛されてきた英国車の数々をご紹介したい。第1回に選んだのは、今は亡きエリザベスII世女王も愛用したレンジローバー。その初代モデルについて解説させていただくことにしよう。

文=武田公実

記事の画像ギャラリーを見る

4つのロイヤルワラントを獲得した魔法のじゅうたん

ランドローバー・レンジローバー|Land Rover Range Rover
初代レンジローバーは1970年6月にデビューした。

 地味ながら上質な中型車を作るメーカー、ローバー社から1948年に誕生した「ランドローバー(現在のディフェンダー)」は、大戦中のアメリカ軍が英国内で放出したジープに代わるものとして、小型トラクターの要素も与えられた多目的車だった。

 その走破能力と頑丈さは、英国の伝統である地方在住の上流階級「カントリージェントルメン」たちにもほどなく認知されることとなる。彼らは、自身が所有する広大な農場での移動手段として、あるいはこれも英国の伝統文化である狩猟などにも愛用してきた。

 そして1970年6月にデビューした高級SUVの開祖「レンジローバー」は、そんなカントリージェントルメンたちの夢を体現したモデルと言えよう。ビートルズやミニスカートなど、英国ポップカルチャーが華やかなりし1960年代、上流階級の子弟の間では、都会で行われるフォーマルなパーティにランドローバーで乗り付ける洒落が流行したとされている。

 だが、高速走行が苦手で、しかもブラックタイの正装には到底似合わないランドローバーよりも、もっと快適でスタイリッシュなクロスカントリー車へのリクエストは少なからずあったという。

天才エンジニア、スペン・キング

無骨なクロスカントリーにラグジュアリーさをプラスしたレンジローバーは、当時、極めて画期的なクルマであった。

 そんな「良いとこ取り」を実現したレンジローバーの創造主が、ローバーの名作「P6」シリーズを手掛けたことで全世界にその名声を示したエンジニア、スペン・キングである。

 彼はフランスのシトロエンに傾倒する一方で、独創的なアイデアを英国伝統のクルマ作りにブレンドする卓越したバランス感覚の持ち主だった。実は1960年代初頭から、走破性やユーティリティにおいて既に高い評価を受けていたランドローバーをベースに、オンロードでも快適に走るクルマができないか、というアイデアを温め続けていたのだ。

 スペンはレンジローバー用のエンジンとして、同時代のランドローバーの心臓部として採用されていた武骨な2.2リッター4気筒OHVではなく、同じくローバー製サルーンの高性能・上級版「3500」で採用されていた総アルミ軽合金製V型8気筒OHV3528ccエンジンを選択する。

 未開の地などでの使用を想定して、オクタン価の低いガソリンでも使用できるように、8.25の圧縮比と二基のストロンバーグ社製気化器が備わっていたものの、それでもランドローバーよりもはるかに強力な132psを発生。これに4速MT+2速トランスファーによるフルタイム4WDシステムが組み合わされていた。

上下2分割式のテールゲートは、今日の新型レンジローバーにも受け継がれている。

 またサスペンションには、前後ともコイルスプリングで吊られたリジッド式を採用。サーボ付き4輪ディスクブレーキも備え、最高速155km/hの高速クルーズとオフロード走行を完全に両立させた。

 さらにスペンはメカニズムのみならず、内外装のデザインにも深く関与。極めて簡潔ながら、独特の美しさも感じさせるレンジローバーのボディは、ランドローバーと同じく総アルミ製で、2枚のドアと上下2分割式のテールゲートが与えられた。

 こうしてレンジローバーは、ランドローバーの悪路走破性と多用途性、そして高性能乗用車の性能と居住性を併せ持つモデルとして高く評価され、発売と同時に英国上流階級のステータスシンボルとなる。

砂漠のロールス・ロイス

 その乗り味はスムーズで快適。加えて、地球上のあらゆる道を走破できるほどの耐侯性も備えたレンジローバーは、スペン・キング自身が若き頃より最も敬愛していたクルマ、シトロエンDSが受けたのと同じ「マジカル・カーペット(魔法のじゅうたん)」という賞賛を、しかも基本はあくまでクロスカントリー・カーでありながら獲得することができたのだ。

 レンジローバーの非凡なる才能を誰よりも先に見いだしたのは、自家の領有地で農業や羊毛業を経営するとともに、アウトドアでハンティングや乗馬、ポロなどを楽しむ「カントリージェントルメン」と呼ばれる階層だった。

 それまで彼らがこよなく愛してきたスパルタン極まるランドローバーと違って、日常を過ごすロンドンの街中にも快適に乗り入れられるレンジローバーは、スノッブな都会の富裕層にも新鮮な衝撃を与え、たちまち市民権を得てゆくことになる。

リジッド式サスペンションにフルタイム4WDシステムを備えていた初代レンジローバーは、オンロードからオフロードまでを乗りこなす高い走破性能を有していた。

 さらに、当時全世界を震撼させたオイルショックによって急速に経済力を得た中東オイルダラーにとって、自国の砂漠地帯でも快適に高速移動できるレンジローバーは、ほかのどんなクルマにも代え難い貴重な存在。同じR-Rのイニシャルを持つことから、ついには「砂漠のロールス・ロイス」と呼ばれるまでに至ったのだ。

 そしてレンジローバーの素晴らしさに心奪われたのは、何も”下々の”ミリオネアたちだけではなかった。伝統的にハンティングやポロ競技などを嗜む英国王室メンバーも歴代レンジローバーを愛用し、初期のランドローバー時代から合わせると故エリザベスII世女王にその夫である故エディンバラ公、そして故エリザベス王太后、さらにはチャールズIII世新国王(当時は皇太子)の4名から王室御用達の証「ロイヤル・ワラント」を得るに至った。これは自動車としては史上唯一となる栄誉なのである。

レンジローバーから笑顔で手を振る故エリザベス女王と故エディンバラ公(2016年)

記事の画像ギャラリーを見る

この記事をシェア

  

Campaign

応募はこちら!(12月1日まで)
応募はこちら!(12月1日まで)