ホンダ初の一般向け電動バイクは売れるのか?
ホンダが8月24日から原付一種の電動スクーター「EM1 e:(イーエムワン イー)」を発売することを発表した。ホンダが日本で一般・個人向けに電動バイクを発売するのはこれが初のモデルとなる。現実的な価格で実用性も高く、急速に衰えている原付一種カテゴリーの救世主として、期待が高まっている。
電動バイク普及のキーモデル
年々厳しくなっている排ガス規制の影響で、どのメーカーからもガソリンエンジン駆動の50cc以下の新モデルは発表がなく、原付一種というカテゴリーが衰退している。国内で唯一の一般向けの電動バイクといえばヤマハのe-Vinoくらいで、これに続くモデルの登場が待たれていた。そしてようやく、ホンダから新モデル「EM1 e:(イーエムワン イー)」が8月24日から発売開始という正式発表があった。
電動バイクは四輪車のように大容量のバッテリーを積むスペースがないため、航続距離を確保しづらい。しかし、原付一種・二種のような小型の電動バイクなら、通学・通勤・買出しなどの自宅から数km圏内の移動が多いので、比較的、相性が良いともいえる。
EM1 e:は「ちょうどe:(いい)Scooter」を開発コンセプトに、ユーザーの日常使いにマッチするパーソナルコミューターを目指して開発された。電池は交換式の「Honda Mobile Power Pack e:」を1個使用し、一充電あたりの走行距離は53km。 バッテリーはシート下に収納でき、小物の収納も可能だが、その分ヘルメット収納スペースはなくなった。フロント部の内側には500mLのペットボトルも入るフロントインナーラックと、携帯端末の充電にも便利なUSB Type-Aソケットが標準装備されている。
ガソリンモデルと比較検討できる価格設定
■HONDA EM1 e: 概要
・サイズ:全長1795mm×全幅680mm×全高1080mm
・車両重量:92kg
・定格出力:0.58kW、最高出力:2.3ps
・動力バッテリー:リチウムイオン電池
・バッテリー電圧/容量:50.26V/26.1Ah
・一充電走行距離:53km(時速30km定地走行テスト値)
・価格:29万9200円
充電環境が電動バイク普及のキーになる!
電動バイクの航続距離の短さによって発生するストレスに、移動中のバッテリー残量への不安や、移動先の充電設備の少なさ、充電中の待ち時間がある。これらが解消されない限り、電動バイクの普及はまず不可能だろう。このような課題解決のために、EM1 e:の動力源でもあるHonda Mobile Power Pack e:を、他のモビリティにも使用できる共通規格のバッテリーとする動きにも注目しよう。
バッテリー交換ステーション「Honda Power Pack Exchanger e:」は、最大12台のバッテリーを収納できる充電装置だ。ユーザーは、このステーションのサービスに登録しておくことで、バッテリーを交換する形ですぐに満充電の電池が利用できる。位置検索や料金決済も一括管理するので非常に便利そうではあるが、それはこのステーションが普及した場合の話でもある。
ガソリンスタンドのENEOSと、ホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハの5社は、電動バイク用の共通仕様バッテリーのシェアリングサービスを提供する会社Gachaco(ガチャコ)を2022年4月に設立。バッテリーシェアサービスは大都市圏から開始し、駅前やENEOSのサービスステーションなどにも設置していくという。もちろん共通仕様バッテリーにはHonda Mobile Power Pack e:も適合しており、将来的には電動バイクだけでなく、商業施設や住宅用の備蓄電池などでの共用も目指している。このようなバッテリー交換ステーションが全国のガソリンスタンドのように普及すれば、電動バイクの普及も進むと思われ、途中で頓挫しないことを祈りたい。
ホンダ初の一般向け電動原付バイクということで、デザインも既存の原付スクーター乗りにも違和感を感じさせず、本気と思える価格で提示してきたEM1 e:。バッテリーシェアサービスを利用できる環境なら、バッテリーセットなしで本体の15万6200円(さらに補助金も付く)で済み、さらに魅力的な商品になる。
ホンダは2025年までに海外向けを含め、10モデル以上を導入すると発表しているが、このEM1 e:は電動バイク普及に必要なインフラ面においても大きな意味を持つモデルとなりそうだ。