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最終更新日:2023.04.20 公開日:2023.04.20

ローカル線、1日平均1000人未満でもバスへ転換は安易か。地方公共交通のこれから。連載|森口将之の「あたらしい交通様式」vol.03

自動運転やMaaS(マース)の登場など、日々進化を続けるモビリティ。人の移動を大きく変える交通インフラのこれからについて、モビリティジャーナリストの森口将之が語る連載。第3回は地方公共交通のこれからについて。

文=森口将之

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コロナ禍によって表面化した公共交通の危機

のと鉄道の廃止代替バスも運行する北鉄奥能登バス (c) ほじん – stock.adobe.com

 昨年は地方の公共交通についての議論が一気に高まった年だった。

 この連載の1で書いたように、地方の公共交通は、東京への一極集中による人口減少、自動車に過度に依存した生活などにより、以前から厳しい運営を強いられていたが、新型コロナウイルス感染症でその流れが一気に加速。想定していた存続の危機が10年前倒しでやってきたという声も出るほどだった。

 それでもコロナ禍になってから2年間は、大きな動きはあまり表に出てこなかったが、実際は水面下で必死に我慢していたのだろう。2022年になって、もう限界ということなのか、問題が一気に表面化した。

JR四日本の2021年度輸送密度1日2000人未満の線区の収入。スペース上一部のみ掲載のため、全データを確認したい場合は画像ギャラリーをご覧ください。出典=JR西日本

 きっかけは2022年4月、JR西日本(西日本旅客鉄道)が「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というタイトルで、2019年度の輸送密度(平均通過人員)が12000人未満の線区について収支率などを開示したことだった。その後、2022年7月にはJR東日本(東日本旅客鉄道)からも同様の数字が出された。この情報によると、輸送密度が低い路線では、赤字の線区が多数あるとされている。そのためメディアでは、ローカル鉄道についての厳しい現状を訴えるニュースが相次いだ。

国交省がローカル鉄道の在り方に関する提言を発表

1日平均利用人数2000人未満の線区のある飯山線 (c) Kazuo Katahira – stock.adobe.com

 一方、同月には国土交通省から、「地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言」が発表された。2022年2月に同省内で立ち上がった「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」が、計5回にわたる有識者会議の末にまとめたもので、JR西日本などの情報開示などに対する、国としての指針を示したものと理解している。

 国交省のウェブサイトに提言の概要と本文がアップしてあるので、時間があれば本文すべてに目を通していただきたい。というのも、これを報じたメディアの多くが、1キロあたりの1日平均利用者数(輸送密度)が1000人未満という数字を大きく取り上げ、存続か廃止かの目安であると伝えたからだ。実は70ページにわたる提言本文の中で、このフレーズが出てくるのは一度だけである。一部だけを切り取ってショッキングに伝える、最近のマスメディアで目立つ悪しき傾向が出てしまった感があり、残念というほかない。

 正確な内容をかいつまんで紹介すると、ローカル鉄道については既存の地域公共交通活性化再生法に加え、新たに国の主体的な関与で沿線自治体や鉄道事業者などからなる協議会の設置が適当としており、11000人は、その具体的な要件のひとつとして出された。しかもそこには、隣接する駅間において、1時間あたりの一方向の最大旅客輸送人員500人というもうひとつの目安も書いてあり、それを満たす場合は対象から外れる

1日平均1000人未満の路線でも廃線とはいかない

福岡県福岡市から新宮町を結ぶ西鉄貝塚線 (c) ほじん – stock.adobe.com

 1日平均1000人しか利用しない路線で、限られた時間とはいえ1時間に500人も乗るはずないと思う人もいるだろう。しかし地域鉄道の中には、日中は空いているのに朝のラッシュ時には大混雑する路線がいくつかある。

 例えば、福岡県福岡市と新宮町を走る西鉄(西日本鉄道)貝塚線は、西鉄の2021年末のデータによると輸送密度は1727人なのに、提言直前に国土交通省から発表された都市鉄道の混雑率調査結果では、最混雑区間の1時間の利用者が2076人、混雑率は140%もある。これは、東京都の日暮里舎人ライナーに続いて全国第2位の混雑率であり、輸送密度だけですべてを判断すべきではないことがおわかりだろう。

 赤字ローカル鉄道の処遇策としてよく話題に上るのがバスへの転換だ。たしかに1日に数十人レベルしか乗らない路線であれば、そのために線路や駅を維持するのは不合理である。

 しかし西鉄貝塚線の場合、バスに転換すると朝のラッシュ時は1時間に15台ぐらいの車両と、そのための運転士が必要になる。加えてその時間の道路は渋滞が予想されるので、定時性でも劣る。公共交通である以上、通勤通学という生活に必須の移動をしている人たちを軽視してはいけない。

 ではどうすればいいか。前述の提言には、国が主体的な関与をすることで、協議会の中で自治体や事業者との調整を図っていくという記述がある。個人的にはこれに期待している。

 これまでローカル鉄道の議論は、自治体と事業者の議論が中心であり、運営費用を誰が負担するかという面などで、議論が平行線となることが多かった。国が入ることで、地域の事情に応じた判断をしてもらえば、議論が進む可能性がある。

 もちろん国もそのことは承知していて、検討会からの提言を受けて「地域公共交通部会」を開催。今年2月28日に中間とりまとめ案を公表した。

 さらに同省では、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律案について、閣議決定をしたことを公表。これまでよりも国の関与を強めるという内容が含まれている。具体的には、国が自治体や公共交通事業者などの「連携と協働」を促しており、自治体と交通事業者が一定の区域や期間の運行回数や費用負担などについて協定を締結して行う「エリア一括協定運行事業」 の創設、AIオンデマンド交通やキャッシュレス決済などのDX推進を予算で支援するなどの内容が盛り込まれている。

 今思い返せば、昨年のJR西日本のローカル線に関する情報開示が、国を動かしたと言える。この法律案がスムーズに国会を通過して、存続か廃止かという二元論ではない、利用者の立場に立った地域交通を構築してもらいたいと願っている。

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