これからの“通報”は映像共有する時代! 現場到着までの8分で情報精度を上げよう!
10月から全国で運用試行されている、「110番映像通報システム」は、通報時にスマートフォンなどのカメラ機能を使って、事故現場の映像を警察に送信できる、新しい通報システムだ。映像を共有することで得られるメリットや、システムの使い方、通報時の留意点などを、いざという時のために覚えておこう。
110番通報の伝達精度が上がる!
警察に110番通報をしてから、現場に到着するまでの所要時間をご存じだろうか? 2022年1月10日(110番の日)に警察庁が公表した資料によると、全国平均で8分16秒だそうだ。これは迅速な対応であり、頼もしい数字なのではないだろうか。
しかし、現場で警察の到着を待つ身としては、恐ろしく長く感じる時間かもしれない。なぜなら、それが事故であれ、事件であれ、トラブルが発生してからの通報である以上、常に現場の状況が悪化する可能性があるからだ。だが、通報直後から到着までの時間を有効に活用できる「110番映像通報システム」が、10月から各都道府県警察で試行運用が開始されている。
この通報システムは、パナソニックが警察ソリューションの分野で開発を進めたシステムであり、通報者のスマートフォンやタブレット端末の通信機能とカメラ機能を使って、静止画や動画などの映像をオペレーター(警察側)と共有するというものだ。警察は通報者からの音声情報と視覚情報に加え、GPSでの現場の位置情報も加わることで、より正確な情報を収集することができ、現場に到着した警察官の初動の精度向上が期待できる。
これまでの110番通報では音声情報だけであったため、通報者が状況を正確に説明できているかの判断が難しかった。特に緊急性が高い場合だと、事故の当事者か、周辺の第三者による通報かによっても、冷静で客観的な説明ができるか大きな差が生まれてしまう。
それに対して視覚情報であれば、事故や事件の規模感や、事態の緊急性、虚報や誤報を判断する材料として高い説得力を持ち、通報者にとっても最小の言語で警察に意図を伝達できる利点は大きい。さらに、オペレーターからは通報者自身の安全確保に配慮したうえで、状況次第では通報者に次の行動に対する助言を期待できる。次に何をすべきか分かっていれば、心理的な余裕も生まれることだろう。
110番映像通報システムの使い方
■110番映像通報システム利用の流れ(通報者目線)
(1) これまでの通報と同様に、110番へ連絡し、オペレーターに事件か事故かを伝える。映像共有が必要か否かは、オペレーターが通報内容に応じて判断する。
(2) “必要”と判断された場合、オペレーターから通話方法をスピーカー通話に切替えるよう依頼されるので、スピーカー通話モードに切り替える。
(3) その後、オペレーターから通報者の端末まで、音声案内と共にSMS(ショートメッセージ)でURLが送られてくるので、そのURLにアクセスする。
(4) すると、110番映像通報システム画面が現れる(専用アプリは必要ない)。この時点で通報者の端末画面がオペレーター側とリアルタイムで共有される。
(5) 通報者の端末画面が次の画面に切替わったら、オペレーターから口頭で伝えられるアクセスコードを入力して、専用ページにログインする。
(6) 次の画面では、留意事項への同意を求められるので、一読して「同意する」を選択する。
(7)最後に、通報者はGPSによる位置情報とカメラの利用許可について同意を求められるので、同意を選択する。
(8)通報者のカメラ機能が起動し、撮影画面に切り替わったら、撮影を開始する。通報者が通話を終えたあと、オペレーターが受信した映像などは現場に向かう警察官に送信され、現場到着後の初動に活用される。
■通報者の留意事項 ・送信する映像などにかかる著作権は放棄しなければならない。 ・GPS機能を用いて、通報者の位置情報を警察側が取得する。 ・第三者のプライバシー侵害は避けて撮影すること。 ・データ送信で発生する通信料金は、通報者が負担。 ・通報はスマートフォンやタブレット端末からであること(固定電話やフューチャーフォンでは不可)。 ・通話をスピーカー通話モードに切り替えること。 ・SMSで送られてくるURLはワンタイム式なので、次に通報する際にはURLは無効になっている。 |
■試行運用のスケジュール
2022年10月1日から各都道府県警察において試行運用が開始され、6か月間のフィードバック期間が設けられている。本実施は2023年4月1日を予定している。
次のページでは、
「119番」版の映像共有システムを紹介
映像通報システムは「119番」版もある
110番通報については前頁で確認した通りだが、消防車や救急車に助けを求める119番通報については、GIS(地理情報システム)に関連付けたサービスの開発・提供を行う企業の株式会社ドーンがLive119というシステムを開発しており、すでに全国の消防庁で実装が進んでいる。
こちらも110番通報の場合と同様に、119番通報をした際に、消防指令センターの判断でビデオ通話の開始が依頼され、スマートフォンのカメラ機能を使ってリアルタイム映像を共有するというものだ。ライブ映像は必要に応じて救急隊に転送されることもあり、救急隊員から通報者へ口頭で指導・支援を行ったり、応急手当の動画を通報者に送信するなどして、救護活動に役立てることも可能だ。
また、Live119は複数の災害現場をライブ中継して、即時に配信する機能も備えている。スマートフォン以外にもドローンやアクションカメラで撮影した映像を迅速に収集することで、現場情報をより正確に把握し、行政の災害対応に役立てることも期待されている。
まとめ
総務省消防庁が発表している救急車の現場への到着時間は、平均8分40秒前後で、こちらもパトカーの到着時間と近い値である。
これまでは、この8分の間に現場の状況が変化していたとしても、あくまで到着後に情報収集するしかなった。だが、これからは視覚情報を共有することで、駆けつける警察官や消防・救急隊の初動精度の向上や、通報者でも協力できることが増えるようになる。これは、通報の質が大きく向上し、次のステージに進んだと言ってもいいだろう。
ちなみに110番映像通報システムは、あおり運転などの危険運転に遭遇した際に、運転手以外の同乗者が通報と撮影を行うことで、ドライブレコーダー代わりに証拠映像として使用することもできる。本実施までの6か月間で、その他の活用法や別の問題も出てくるかも知れないが、それらを乗り越えた姿で、”通報”が次のステージに進む時代を歓迎したい。