「ヒマラヤグマ」|第44回アニマル”しっかり”みるみる
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物展示課飼育担当の飯塚さんに、「ヒマラヤグマ」を解説してもらいました。
三日月の斑紋が別名の由来
「ヒマラヤグマ」は、別名「ツキノワグマ」とも呼ばれる食肉目クマ科の動物で、胸部にあるⅤ字形の白い斑紋が三日月に似ていることからその名が付きました。中東から東アジアにかけて広く分布しており、日本の森林には亜種にあたる「ニホンツキノワグマ」が生息しています。ヒマラヤグマの体長は1.3~1.7m、体重は90~120kgほどあります(ニホンツキノワグマは、大陸の亜種に比べ一回り体が小さい)。
ヒマラヤグマには、どんな身体的特徴があるのでしょうか?
一つ目は「首の周りにあるタテガミのような長い毛」(飯塚さん※以下同)です。首元の左右にふさふさと長い毛が生えています。亜種であるニホンツキノワグマには、この長い毛がありません。
二つ目は体にある斑紋です。特徴的な肩から胸にかけての太いV字型の白い斑紋は、個体によってその太さや長さが違っていて、斑紋がない個体もいます。体の色は、一般的に黒色ですが、濃い茶色や茶色のものもいます。
ヒマラヤグマは足を器用に使うことが得意な動物です。
前足・後ろ足には5本の指があり、後ろ足は踵(かかと)まで地面につける歩き方で、二足で立ち上がったり、短距離の歩行も可能です。
足の爪は、短い鉤爪(爪の長さは5㎝ほどで、湾曲している)になっており、とても頑丈です。「この爪があることによって、前足で木の幹を掴んでの木登りや穴掘りがうまくできます。園内の個体は、寒いときは地面を深く掘って寒さ除けにしたり、暑いときは浅めに掘って涼をとるなど自分で工夫して休憩場所を作る」こともあります。野生下では、足をかいて泳いだり、水中で魚などを獲ることもあります。
「ポン、ポン」と舌を打ち鳴らして挨拶
ヒマラヤグマは、繁殖期と子育て中以外はオス・メスとも単独で生活しています。 雑食性で、野生下では、草、木の新芽や根、木の実や果実のほかに、昆虫や小動物を食べます。特に好きなのが甘いものです。ハチの巣を見つけて、巣を壊して中のハチミツをとって食べることがあります。
「園内では、煮たイモ、クマ用ペレット、鶏頭、ミカンなどをエサとして与えています。個体によって好き嫌いはあるのですが、リンゴやみかんなどの果物や、サツマイモなど、甘いものがやっぱり好物」です。
またちょっと意外なのが挨拶のときに発する音(!?)です。
「『ポン、ポン、ポン』というような、口の中で舌を打って音を出すんです。音をどんな仕組みで出すのかの詳細までは分からないのですが、明らかにその音を挨拶手段として使っており、クマ同士で発することはもちろん、飼育員に対しても発することがある」そうです。
もちろん一般的な吼えるような鳴き声もあげます。「キャオ、キャオ」という高く叫ぶような鳴き声をあげ、この鳴き声はケンカや威嚇のときに発します。
ヒマラヤグマは、他のコミュニケーション手段として、顔を近づけたり、前足で触ったりする行動もとります。
ちなみに園内のヒマラヤグマは、冬期でもエサの心配がないため冬ごもりはしません。
「冬ごもりに向けた秋の季節になると、食欲が増し、落ちた木の実や葉を探して食べる」ようになります。
壊さずにはいられないステンレス製の水桶!?
そんなヒマラヤグマってどんな性格の動物なのでしょうか?
「見た目のイメージより気性が荒い動物です。園内では2頭のオスを飼育していますが、ケンカをする声が遠くにいてもよく聞こえてきます。ふだんは仲が悪いわけではないのですが、ちょっとしたことで声を上げての取っ組み合いになります。他の種類のクマと比較しても、仲間同士でケンカすることが多い」そうです。
最後に「ヒマラヤグマあるある」について伺いました。
それは「飲み水をためておく桶をいたずらして壊すこと」です。縦・横の大きさが50㎝、深さ10㎝くらいのステンレス製の桶ですが、固定されていない桶を見つけると、これ幸いと引きずりまわして壊してしまうのだそうです。よっぽど桶がいたずら心をくすぐられる形をしているのでしょうか?