「動物のエサ」|第39回アニマル”しっかり”みるみる
世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物展示課飼育担当渡部さんに、「動物のエサ」について解説してもらいました。
アジアゾウには牧草が余らない程度に与える
食べるもの(エサ)の違いで動物を分類すると、主に草を食べる「草食動物」、主に肉を食べる「肉食動物」、肉も草も食べる「雑食動物」とに分かれます。エサの内容や量は、動物種・年齢・性別などで変わります。園内では飼育下であっても野生での生活とあまりかけ離れず、健康が保たれるよう、栄養バランスに十分配慮されたエサが与えられています。
では草食動物に与えるエサとはどんなものなのか、アジアゾウを例にとって、食事の内容や給餌のスケジュールをまとめました。
●アジアゾウ(草食動物)はこんなエサを食べている
- 【動物種】
- アジアゾウ
- 【エサの内容と量】
- 牧草20~30㎏、野菜(サツマイモ、ニンジン)、果物(バナナ、リンゴなど)各2~3㎏ほど。※性別・年齢で変動あり。
- 【1日の給餌スケジュール】
- 朝は動物舎内で。 日中は、サファリゾーンで1時間おきくらいのペースで牧草を与え、残りは夕方動物舎内で与える。
アジアゾウのエサのメインになっているのは牧草です。
「アジアゾウに与えている牧草は、ゾウにとって栄養価が高い種類のものです。アジアゾウは果物が好物なのですが、与え過ぎると栄養が偏るので、与え過ぎないように注意しています」(※渡部さん以下同)。
エサの量は、オスは体が大きいので量を多く、成長期である子供や年齢の若い個体にも量を多めに与えます。ただ与え方には配慮が必要で、「一度に多く牧草を与え過ぎると、食べきれずに無駄にしてしまうことがあるので、少しずつ与えることを心掛けている」そうです。
牧草以外にもアジアゾウには園内に生えている竹を刈って与えることがあります。「葉の部分だけでなく、竹の幹の部分も全部食べます。幹の直径が10㎝以上もある孟宗竹もバキバキと折って食べる」そうです。
飼育員さんは、アジアゾウがエサを食べる様子など、毎日注意深く観察して、ちょっとした変化にも気を配っています。エサを食べるスピードやペース、エサの残し方には特に注意を払っています。「ふだんと比べてどのくらいのスピードで食べているかで、個体ごとの体調を判断します。元気かどうかは、エサのときが一番はっきりと表れて、分かりやすい」とのこと。食欲チェックは健康管理の基本なんですね。
ライオンの主食は丸ごとの鶏
肉食動物に与えるエサとはどんなものでしょうか、ライオンを例に、食事の内容や給餌のスケジュールをまとめました。
●ライオン(肉食動物)はこんなエサを食べている
- 【動物種】
- ライオン
- 【エサの内容と量】
- 基本は成鶏、たまに牛肝。オスで3~5㎏、メスで1.5~3㎏ほど。※季節・年齢によって変動あり。
- 【1日の給餌スケジュール】
- 夕方1回(収容後)。※展示個体はジャングルバスとウォーキングサファリでエサを与えられて食べているので。
ライオンのメインになるエサは丸ごとの鶏です。 「鶏を丸ごと与えることで、内臓に含まれるビタミンなどを摂取できるようにしています。それに加えて1~2週間に1回、牛肝(レバー)を与えて、ビタミンや鉄分を補います」
ちなみに同じ肉食動物であるトラの場合は、成鶏もしくは馬か鹿、たまに牛肝がエサの内容となります。量はオスで7㎏、メスで3~4㎏ほどとライオンに比べると多くなります。
季節によってエサの量の調整も行います。「冬は外気温が下がるので、寒さに負けないよう体に脂肪をつけて大きくするために、肉食動物(ライオン、トラ、チーター)ではエサの量を増やす」ことも行います。
飼育員さんがライオンの食事で一番注意して見ているポイントは、「食べづらそうにしている個体がいないか」だそうです。ライオンは基本的にエサへの食いつきがいい動物なので、エサに寄ってこないと体調が悪いことが推測されます。また他の個体との闘争や縄張り争いなどの精神的な影響で食欲がなくなることもあります。そんなときは、「別室に移してエサを与えたり、それでも食欲がないときは、獣医師に体調を診てもらうこともある」そうです。
ライオンの給餌方法では、「複数頭が一緒の動物舎にいる環境なので、1頭1頭に行き渡るように確実に素早くエサを与える配慮が必要になる」そうです。
エサの中身を選り分けて食べるヒグマ
雑食動物に与えるエサとはどんなものでしょうか、ヒグマを例に、食事の内容や給餌のスケジュールをまとめました。
●ヒグマ(雑食動物)の食事内容
- 動物種
- ヒグマ
- エサの内容と量
- クマ用ペレット、ジャガイモ、サツマイモ、鶏頭、ミカン。2~5㎏。
- 1日の給餌スケジュール
- 夕方1回
雑食動物であるヒグマのエサは、雑食らしくバラエティに富んだ内容です。 「クマ用ペレット、ジャガイモ、サツマイモ、鶏頭を一緒に混ぜてよく煮たものをエサとして与えている」そうです。
飼育員さんがヒグマの食事で注意して見るポイントは、「混ざったエサの中から特定の種類だけ選んで食べていないか」だそうです。というのは、ヒグマは好き嫌いがはっきりしていて、エサをよく混ぜて与えないと、エサの中のサツマイモだけを選んで食べてしまうことがあり、栄養バランスが悪くならないように注意しています。
ヒグマのエサの量は季節によって調整します。春を基準量とすると、暑さで食欲の低下する夏はちょっと量を減らし、秋と冬は多めに与えます。というのは、ヒグマは元来秋に食欲が一番旺盛になる動物で、しかも気温が下がる冬でも園内の個体は冬眠しないからです。「食欲があるのにエサの量を減らすと、個体同士のケンカにつながることもある」そうで、食欲とエサの量のバランスにも注意することが必要です。
ヒグマにはメインとなる調整されたエサ以外にも、「季節の木の実(ドングリ)や果実(桑の実、ミズキの実など)や野草、木の葉など、自然の中で食べているようなものを与えます。ときには展示ゾーンに落ちている木の実をヒグマ自らが拾って食べている」そうです。
ちなみに園内にいる同じクマの仲間であるアメリカグマは、「池にいるカエルをつかまえて食べたり、たまに園内に出てくる小動物を捕まえて食べてしまうことがある」そうです。さすがは雑食動物ですね。
余った草で遊びだすアジアゾウ
「動物のエサあるある」についても伺いました。
まずは、アジアゾウのあるあるから。「1回に食べきれないほど多くの牧草を与えてしまうと、余った牧草を食べずに鼻で掴んで投げたりして、遊びだしてしまうこと」です。動物でも食べ物を粗末に扱うことがあるんですね。
次は、ライオンのあるあるです。「『牛肝(レバー)は特有の匂いのせいなのか、若い個体は苦手にしていることが多く、ほとんど手をつけないこと』です。牛肝は年をとっている個体の方がよく食べる」そうです。レバーは、年齢を重ねないとその美味しさが分からない乙な味がするのでしょうか。
最後は、ヒグマのあるあるです。
「給餌のとき、好物のみかんの中に薬のカプセルを混ぜ込んで与えることがあるのですが、食べた後を点検すると薬のカプセルだけ上手に吐き出してあること」です。ガツガツとなんでも丸呑みしてしまうと思いきや、実は意外と注意深くて器用なんですね。