ハイエースでグラベルラリーに挑戦。素敵すぎるコーナリングに国沢光宏が大奮戦
モータージャーナリストの国沢光宏がドライバーを務めるCAST RACINGのハイエースが、砂利道がメインとなるグラベルラリーに初挑戦。北の大地で2021年10月23~24日に行われたARK Sprit 300で、滑りまくるハイエースを国沢はいかに手なずけたか。その奮闘を自身がレポート。
初のグラベル(砂利道)ラリーにチャレンジ
ラリーの面白さは「さまざまな道路で速さを競う」という点にあると思う。ラリーの世界最高峰であるWRCを見ても舗装路から砂利道(グラベルという)、雪道までバラエティに富む。だからこそトヨタの豊田章男社長は「道がクルマを鍛えてくれる」ということでWRC参戦をしている。ハイエースでラリー参戦している私たちのチームも今までは舗装路のラリーだけだったが「グラベルで走らせたらどうか?」ということで、道にクルマを鍛えてもらうことにした。
とはいえ砂利道は舗装路以上にハードルが高い。そもそもハイエースは荷物をたっぷり積む前提の設定だから、空荷だと後輪への荷重が信じられないくらい小さい。大ざっぱに言って、前輪荷重が80%、後輪荷重が20%程度。荷重が小さいと当然の如くグリップしない。私たちのハイエースは後輪駆動車のため「ホイールスピンしまくる」と予想できる。
もう1つはコーナーからの立ち上がり加速。ここでも後輪荷重が小さいため、簡単に横滑りするハズ。そして「滑り出したら止まらない~」っということになるだろう。さらにさらに! ブレーキ掛けたら後輪はほとんど効かない。自転車で砂利道の下り坂を走って、前輪だけブレーキを掛けるイメージでいいと思う。
トドメはワダチ。ラリータイヤを履いたクルマが何台も走ると、深いワダチができる。このワダチに横滑りした状態で落ちたら普通のラリー車だって転倒することもある。車高&重心の高いハイエースだと一段と厳しいことになるかもしれないーーといった具合で走る前から不安しかない。そして毎度の如くぶっつけ本番です。
もう少し正確に書くと、ラリー車の試作段階で砂利道を走ってみたところ、上に書いたような特性が全て出てしまい、あっけなく横滑りし始め、コントロールできずにスピンモードに入り土手に突っ込んだ。長い前置きになったけれど、ただでさえ背の高いハイエースをさらにグラベルラリー用の足回りにしたらどうなるか、予想付かず。
やっぱりグラベルでのハイエースは手ごわかった
手探り状態で始まったSS1(公道を閉鎖したタイム計測区間)を走り出すと、やっぱり手強い! スタートこそ単にホイールスピンしまくるだけながら、コーナーが素敵すぎる! アクセル踏むと「おおおお~っ! 400馬力くらいあるんじゃないか?」と思うくらいパワースライドしてしまう。うかつに踏んだら簡単にスピンしそうだ。
さらにシビアなのがブレーキで、強く踏むと後輪が簡単にロック。ラリーだとコーナリング中のブレーキも当たり前に行うのだけれど、弱めに踏むと後輪だけに効いて横滑り。強く踏むと後輪はロック+前輪が効くため、そのままコーナー外側に膨らんで行く。当然ながら適切かつ素早いカウンターステアも必要。
何と! 「ドライビングテクニックの引き出し」をたくさん開けながら走らなくちゃならない。そんなことから3km少々のSS1と7km少々のSS2はクルマの特性を理解するだけで精一杯。いや、コースアウトしないように走るのが精一杯と表現したほうが近いと思う。とはいえ徐々に慣れてくるから面白いものです。
SS1と同じコースを走るSS3はハイエースの特性がわかってきたので、上手にコントロールできるようになって行く。ブレーキングの調整やアクセルコントロール、さらにでこぼこの少ない走行ラインを選ぶことで、普通のラリー車のような走りができるのだから面白い! 動画を見て頂ければわかると思う。
<SSでのハイエース動画>
こうなるとハイエースは見ていても強烈なインパクトらしい! ギャラリーステージで動画を撮っていた方がツイッターにアップしたら、1日で9万回も再生された。確かに派手。モータースポーツの原点は「クルマの限界を引き出す」という点にあると思う。そういった意味ではハイエースの限界を引き出せているかもしれない。
ハイエース開発担当が視察に来た!
ラリーが終わる頃にはすっかりハイエースを乗りこなせていた、と思う。ちなみに今回のラリー、トヨタでハイエースの開発を担当している方が3人も視察に来ていた。今回のラリーからトヨタのスローガンになっている「もっと良いクルマを作る」ヒントが得られたら嬉しい。そして限界特性を穏やかにすることで事故回避性能だって高まると考えます。
ハイエースがグラベルを激走する写真は
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