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最終更新日:2021.09.15 公開日:2021.09.15

「キョン」|第35回アニマル”しっかり”みるみる

世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物展示課飼育担当森江さんに、「キョン」を解説してもらいました。

文・上條 謙二

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特徴的な目の下の臭腺

キョンは、日本にも生息しているが在来種ではない動物で、1960~80年代にかけて動物園施設から脱走したものが野生化したと言われている。

 「キョン」は、中国南東部、台湾などの密生した森林地帯が原産地の偶蹄目シカ科の動物です。体長は47~70cm、体高は45~50cm、体重は12~17kgほどです。日本にも、千葉県の房総半島や伊豆大島に生息していますが、実は元々日本にはいなかった動物種で、1960~80年代にかけて動物園施設から脱走したものが野生化したと言われています。国内では特定外来生物に指定されています。

 身体的な特徴は、まずシカ科の動物種の中でも体が小さいことが挙げられます。「体高は50cmほどしかなく、中型犬ほどの大きさです」(※森江さん以下同)。

 2つ目の特徴は、目の下にある大きな臭腺です。眼下腺と呼ばれる臭腺の開口部があり、それが一見目のようにも見えるため、「四目鹿(ヨツメジカ)」の別名があります。この臭腺から出る分泌物を、なわばりを示すために木などにこすり付けます。

 3つ目は、シカ科の動物としては珍しく上顎に2本の発達した犬歯(牙)があることです。犬歯はオスにもメスにもありますが、オスの方が発達しています。キョンは草食動物ですが、雑食の食性もあり、小型の哺乳動物や地上に営巣する鳥類を捕らえるときにこの犬歯を使用します。

 4つ目は小さめの枝角(木の枝のように分かれる角)です。角はオスのみに生え、長さは7~15cm程度です。「園内にいる個体の場合、人間の指程度にちょこんと生えている状態です」。角はオス同士で順位決めの戦いに使います。

 キョンの体色は黄褐色や赤褐色、腹は黄色味が強く、鼻から頭頂にかけて黒っぽい色になっています。この黒い毛は正面から見るとV字模様になっています。

イメージと違う犬のような鳴き声⁉

キョンは、目の下方に臭腺の開口部があり、それが一見目のように見えるため、「四目鹿(ヨツメジカ)」の別名がある。

 キョンは、大きな群れを作らず、単独またはペアで行動することの多い動物です。なわばりを持ち、特にオスは眼下腺や前頭腺などの臭腺からの分泌物をこすり付け,頻繁にマーキングを行います。

 キョンは特徴的な声や音を発して、仲間同士で危険を知らせるなどのコミュニケーションを取ります。特に鳴き声に特徴があり、危険を察知したときなど、イヌに似た大きな声で吠えるように鳴きます。その声は「ワンワン」というより「ハーハー」という、低い濁った唸り声で、「初めてキョンの声を聞いたとき、イメージとかけ離れたあまりに低い声なので、誰が発した声なのかが分からなかった」こともあったそうです。外敵に出会ったときや驚いたときには、このイヌに似た大きな声を30秒ほどの間隔で1時間ほど発し続けることもあります。また「園内で治療のために保定(目的とする処置を行うために行う最小限の拘束)をした際に、『ギャー』と聞こえる悲鳴のような鳴き声を上げることもあった」そうです。

 わざと音を出してコミュニケーションを取ることもあります。外敵などの危険を察知すると、蹄で地面を強く踏みしめて大きな音を立てて走ることで、仲間に危険を知らせます。

警戒心が強く、人にはなれない動物

キョンは、シカ科の動物種の中でも特に警戒心が強い。

 そんなキョンは、どんな性質の動物なのでしょうか?

  「警戒心が強い動物で、まず人間にはなれません。そもそもシカ科の動物は概して警戒心が強いのですが、そんなシカの仲間の中でもキョンは特に警戒心が強く、飼育の担当者が近くを通っただけで警戒の鳴き声を上げることがあります」

 最後に「キョンあるある」についても伺いました。

 「体の大きさが中型犬くらいの大きさしかないので、成獣であってもニホンジカの子供と間違えられること」です。

 ちなみにキョンは子供の体もとても小さくて、「先日園内でキョンの赤ちゃんが生まれたのですが、体の大きさはネズミくらいで、手のひらに収まるくらい」だったそうです。

「同じシカの仲間であるニホンジカは甲高い声で鳴くので、キョンの低い濁ったイヌのような唸り声を最初に聞いたときは、声の主が誰なのか分かりませんでした」と飼育担当の森江さん。

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