【AD】首都直下型地震に備える「八方向作戦」とは。どのような作戦?
政府が設置している地震調査研究推進本部地震調査委員会によれば、首都圏において、2020年から30年以内にマグニチュード7程度の直下型地震が発生するという予測が発表されている。発生することが確実視されている状況に対し、国土交通省では、警視庁や東京消防庁などと連携し、迅速な救助活動などを行うための「八方向作戦」を準備している。
「首都直下地震」は政府としても非常に警戒している地震だ。首都圏は日本の中枢であり、同地域が大きな被害を受けた場合、日本そのものが麻痺しかねない危険性がある。
政府が設置している地震調査研究推進本部地震調査委員会は、2020年時点で今後30年以内にマグニチュード7クラスの首都直下地震が70%で発生するという予測を発表している。これは、今日明日にも発生する危険性はゼロではなく、首都圏の居住者や在勤者などは、常に警戒を怠ってはいけないことを意味する。
最大の被害想定は死者約2万3000人・被害総額約95兆円
実際に首都直下地震が発生した場合、その被害はどれほどのものになるのか。2013年に、内閣府の中央防災会議・首都直下地震対策検討ワーキンググループが、報告書「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)平成25年12月」にて、震源地を幾通りも変えてシミュレーションした震度推定分布図を発表している。画像1もそのひとつで、震源地を首都圏南寄りと想定したシミュレーション結果だ。黄色が震度6弱のエリアで、オレンジ色が6強、湾岸部など一部には7を示す赤も見えている。
首都直下地震の最大被害想定は、死者が約2万3000人、全壊・焼失家屋が約61万棟、要救助者が約7万2000人、被害額が約95兆円。このような甚大な被害が想定されている。
それでは、この首都直下地震に対して、どのような備えが行われているのだろうか。
首都直下地震発生後、最も重要なことの1つは、救助活動のための通行や緊急物資の輸送ルートを確保することである。そこで、発災後の道路交通の回復を目的に、関係各機関が連携して2016年6月に策定したのが、「首都直下地震道路啓開計画(改訂版)」、通称「八方向作戦」だ。なお「道路啓開」とは、道路が通行できるよう切り開くことを意味する言葉である(画像2)。
緊急車両が都心部へ48時間以内に駆けつける「八方向作戦」
八方向作戦は、発災後の状況に合わせて都心へ確実にアプローチできるよう、8方面からのルートを個別に設定するものだ(画像3)。具体的には、各方面からの高速道路(NEXCO東日本、同中日本、首都高)と、それと並走する国道などを組み合わせて設定されている。
確保される車線数は、郊外から都心へ向かう1車線と、都心から郊外へ向かう1車線の合計2車線。人命救助の “72時間の壁” を意識して、発災後48時間以内に各方向最低1ルートを確保することが目標とされている。八方向とは、以下の通りだ(北から時計回り)。
●E4東北道方面
●E6常磐道方面
●E14京葉道路方面
●CA1東京湾アクアライン方面
●首都高・K1横羽線方面
●E1東名高速方面
●E20中央道方面
●E17関越道方面
なお八方向作戦に関わる数多くの訓練も実施されている(画像4)。国土交通省や関連機関、民間企業などが協力し、道路啓開や段差解消、緊急物資輸送、渡河橋設置などの訓練が行われ、非常事態に備えている。
大地震発生時には渋滞を防ぐために大規模な交通規制を実施
八方向作戦を成功させるための重要な要素のひとつが、渋滞抑制だ。首都直下地震のような緊急事態の際には、鉄道やバスなどの公共交通はほぼ全面的にストップする。そうすると、多くの人がクルマでの移動を考えるだろうが、それが深刻な大渋滞の原因になる。
たとえば、東日本大震災が起きた2011年3月11日の夜は、画像5にあるように、都内の多くの幹線道路が大渋滞となってしまった。地震の影響で公共交通が全面的にストップし、多くの人がクルマでの移動を試みたことから大渋滞が発生し、結局、道路機能も奪ってしまったのである。さらに、徒歩で帰宅を試みた人々が、路上にあふれてしまったことも大きな原因だったといわれる。
このような状態では、迅速な救助活動や緊急物資の輸送はおぼつかない。そのため、東京では震度6以上の地震が発生した場合、2段階の交通規制を行うことが決められている。
第1段階の「第一次交通規制」で行われる4つの規制
第1段階の「第一次交通規制」は、道路交通法に基づいて実施される交通規制だ。道路における危険を防止するとともに、緊急車両の円滑な通行を確保することを目的としている。第一次交通規制では以下の4つの規制が実施される(画像6)。
1.環七通り(都道318号)から都心方向への通行を”禁止”
都心部の交通量を削減するため、都心方向へ流入する車両の通行禁止規制が実施される。
2.環八通り(都道311号)から都心方向への車両の通行を”抑制”
信号制御等により、都心方向へ流入する車両の通行抑制が実施される。
3.「緊急自動車専用路」の指定
以下の一般道6路線と、高速道路が緊急自動車専用路として指定され、通行禁止規制が実施される。
●国道4号(日光街道など)
●国道17号(中山道、白山通り)
●国道20号(甲州街道など)
●国道246号(青山通り、玉川通り)
●都道8号・24号(目白通り、新目白通り)
●都道405号(外堀通り)
4.都内に極めて甚大な被害が生じている場合
被災状況に応じて、車両の交通規制が実施される。
第2段階の「第二次交通規制」では「緊急交通路の優先指定」などを実施
第2段階の交通規制は、災害対策基本法に基づいて行われる「第二次交通規制」だ。災害応急対策を的確かつ円滑に行うための緊急交通路を確保するためのものである。以下のことが実施される可能性がある。
1.「緊急交通路」の優先指定
第一次交通規制で「緊急自動車専用路」として指定された高速道路と一般道6路線が、優先的に「緊急交通路」として指定される。
2.そのほかの緊急交通路の指定
被害状況、道路交通状況、災害応急対策の進捗状況などを踏まえ、必要に応じて以下の路線も緊急交通路として指定される可能性がある。
【国道】(路線番号順)
●1号(内堀通り、永代通り、桜田通り、第二京浜、中央通り、晴海通り、日比谷通りなど)
●6号(江戸通り、言問通り、水戸街道など)
●14号(京葉道路)
●15号(第一京浜など)
●16号(東京環状、八王子街道など)
●17号バイパス(新大宮バイパス)
●20号(甲州街道、新宿通り、日野バイパスなど)
●122号(北本通りなど)
●139号(旧青梅街道)
●246号バイパス(大和厚木バイパス)
●254号(春日通り、川越街道など)
●357号(東京湾岸道路)
【都道】(名称順)
●五日市街道(7号)
●稲城大橋通りなど(9号)
●井の頭通り(7号)
●芋窪街道など(43号など)
●青梅街道(4号、5号)
●鎌倉街道など(18号など)
●川崎街道(9号、20号、41号)
●北野街道(173号)
●蔵前橋通り(315号)
●甲州街道(256号)
●小金井街道(15号、24号)
●志木街道(40号)
●新青梅街道(5号、245号、440号)
●新奥多摩街道など(29号など)
●新小金井街道(15号、40号、248号)
●新滝山街道(169号)
●滝山街道(411号)
●多摩ニュータウン通り(158号)
●中央南北線など(153号など)
●東八道路(14号)
●中原街道(2号)
●八王子武蔵村山線(59号)
●府中街道(9号、16号、17号)
●町田厚木線(51号)
●町田街道(47号など)
●三鷹通り(121号)
●睦橋通り(7号)
●目黒通り(312号)
●吉野街道(45号、411号)
なお震度5強の地震であっても、道路交通法に基づいた第一次交通規制の一部が実施される可能性があることも覚えておこう。実施されるのは以下の2点だ。
1.環七通りから都心方向への通行禁止規制
2.環八通りから都心方向への通行抑制
運転中に大地震に遭遇した際にドライバーがとるべき3つの行動
万が一、クルマを運転中に首都直下地震のような大地震に遭遇した場合、ドライバーはどのように行動すべきだろうか。消防庁の「防災マニュアル 震災対策啓発資料」を参考にまとめた。
1.クルマの止め方について
強い揺れを感じても、急ブレーキは禁物。徐々に速度を落とし、緊急車両が通行できるよう、路肩に停車させる(画像7)。高速道路の場合は、まずハザードランプを点灯させ、高速走行している前後のクルマに注意を促してから停車させること。
2.クルマからすぐに飛び出さない
路肩に止めてエンジンを切ったからといって、すぐにクルマから出ないこと。揺れが収まるのを待ち、周囲の状況をよく確認した上でクルマから出よう。また、カーラジオでの情報収集も忘れないように。
3.クルマから離れる際の注意点
窓を閉め、ドアをロックせず、キーは差したまま、もしくはキーレスキーやスマートキーの場合は、ドアポケットなどのわかりやすい場所に入れた状態で車内に残してクルマを離れること。また、車検証を忘れずに持って行くようにしよう。
このようにすぐに運転できるようにしてクルマを離れるのは、道路啓開の作業時に、警察官や消防隊員などがクルマを移動する可能性があるからだ。なお高速道路の場合は、約1kmごとに非常口が設置されており、そこから徒歩で地上に脱出することが可能だ。
なお、大地震の発生後は、津波からの避難などのやむを得ない場合を除き、原則クルマの使用はやめよう。
八方向作戦の重要性や今後の進展
最後に、八方向作戦についての話を、東京国道事務所の担当者に伺ってみた。まずは、八方向作戦の意義と重要性についてだ。
「人命救助で生存率が大きく低下するのは、発災から3日が経過した時点であると言われています。一般的に『72時間の壁』といわれるものです。それまでに、いかに迅速に道路啓開できるかどうかが人命救助に直結することとなります。
そこで都心に向けた八方向(八方位)で優先啓開ルートを設定し、一斉に道路啓開(八方向作戦)を進行させます。高速道路、国道、都道の被災箇所・規模が比較的小さい路線・区間を交互に組み合わせて優先啓開ルートを設定し、現地状況に応じて柔軟に対応しつつ、上下線各1車線の道路啓開を実施します。人命救助の72時間の壁を意識し、発災後48時間以内に各方向最低1ルートは道路啓開を完了することを目標としています」
道路や建物が密集する首都圏で直下型地震が発生すると、どこでどの程度の被害が起きるか、具体的に予測することは不可能だ。そこで、まずは全方位から被災の核心にアクセスできるように、優先ルートを決め、集中して啓開にあたる。それが八方向作戦の神髄である。そしてその優先ルートの啓開は即ち、迅速な救助・救援に大きく寄与する。
続いて、東日本大震災の発生した2011年3月11日の晩のように、都内の幹線道路が徒歩で自宅へ帰ろうとする人たちの影響もあって大渋滞が発生してしまった場合、八方向作戦は具体的にどうやって対処することを考えているのかを聞いてみた。
「道路啓開の重要性・必要性や優先啓開ルート、地震発災時の心得やとるべき行動について、平時から国民の皆様への周知徹底を図り、道路啓開への協力についてご理解いただくことが大切であると考えております。八方向作戦を円滑に進めるため、幅広に広報活動を行っていきたいと考えております」
災害が発生した時は、不安や不都合からどうしても自分本位になり、個別行動をしがちである。しかし、より多くの人命を救い、早急に体制を立て直すためには、準備された八方向作戦を円滑に進めることが重要。それが首都直下型地震における救助・救援における最適解なのだ。私たちも東日本大震災当夜の状況から、混乱を起こさないためにどうするべきか学ばなければならないだろう。
ひとりひとりが慌てずに行動すれば、救助活動や緊急物資の輸送などを迅速に進めることができる。非常事態に直面しても、あらかじめとるべき行動などがわかっていれば、より冷静に対応しやすい。
また、大地震に遭遇した際にドライバーが取るべき行動は、首都圏のドライバーに限った話ではない。道路啓開が最優先であることを踏まえ、大災害に直面した際に、自分自身がどのような行動をとるべきか学んでおいてほしい。